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リグル、呼び出される

今日中にあと1,2話あげます

「あぁ、またか...」


そう呟きながら、リグル・ドッグはモップとバケツを廊下の隅に置くと、たった今叫び声をあげた自らの雇い主の部屋の扉にノックをし、中に入る。

中には男が一人、机に積まれた紙の束とにらめっこをしている男がいた。


「今度はどうされましたか、ベリズリー様?

あぁ、メアリーが畑の作物を枯らしたことですか。枯葉剤と栄養剤を間違えたとのことで。それともメアリーがベリズリー様が大切にしていたツボを割ったことですか?いや...もしかしてメイド長の着替えを覗こうとしてコテンパンにしてやられましたか?ダメですよ〜、そんなことしちゃ!」

「メアリーに関する報告をありがとう。彼女にはまた何か罰を与えるとしよう。」


己が雇っているメイドの失態の報告といつもの冷やかしを言葉の半分を聞き流しながらしながら、ベリズリーは睨みつけていた紙をリグルに手渡した。


「これは...手紙?一体誰からです?」

「送り主はメランコリー氏だ。どうやらこちらに一人でメイドを派遣してくるらしい」

「おお!女の子を寄越すなんてなかなかやるじゃないか、あのクソタヌキオヤジ!少し見直しましたよ」

「だからこそ、問題なんだ。あのメランコリー氏だ。前のフライフィッシュの時のように変なものを送りつけてくるかもしれないぞ」

「やめてくださいよ...。俺あの件で魚の揚げ物を食べる時未だに躊躇するんですから...」






ベリズリー邸フライフィッシュ事件。



ちょうど1年前、王都では魚を油で揚げる料理が流行していた。

それを知ったリグルとメアリーはダメ元でベリズリーに揚げ魚が食べたい、と懇願してみたところ、案の定魚は高価すぎると却下された。


だが、ちょうどその場にいたメランコリーが魚ならうちが安く仕入れることができる、とベリズリーと交渉してくれ、その安さにベリズリーが仕方なく折れ、当時の屋敷の人数分、計4匹を買うことになったのだ。

そこまでは良かったのだ。


後日、メランコリー商会から魚が届き、それをキッチンで油で揚げようと衣を付けた魚達を油で満たした鍋に入れようとしたところ、フライした。


フライが出来上がったのでは無い。衣をまとった魚が飛び上がり、縦横無尽に飛び回ったのだ。

それもまるで第四術位魔法の「〈直進する雷撃〉(ライトニング)」のような速さで直線に飛び回っていたのだ。


ある魚は壁にぶち当たり、大きな穴を作りつつ絶命し、またある魚は窓ガラスを突き破り外の世界へと旅立って行った。


結局全員その魚を食べることは出来ず、リグルらは壁の修理費を払わされた。


実はこの空飛ぶ魚は「ロケットフィッシュ」といい、頭と体を切断しない限りは仮死状態になり鮮度を保てることで有名らしいが、急激にな温度変化があると自己防衛本能が働き、自らの死も顧みず高速で飛び回るらしかった。


そしてこの魚は、揚げ魚が流行した当初似たような事件をいくつもも起こったらしく、そのせいで在庫が余っていたのでベリズリー邸で処分しようとしたらしかった。






「嫌な...事件でしたね...」

「そして今度はメイドが送られてくるらしい。しかも書類上は死んだことになっている女だそうだ。確実に厄介事だ」

「即刻拒絶の意の手紙を」

「無駄だ。向こうはすでにそのメイドをこちらに寄越しているらしい。しかも一応あんなことがあっても彼はうちの数少ない取引先だ。

メイドの受け取りを断って商会とのツテが無くなり、物を売れなくなって領地の経営が破綻、などとは笑い話にもできない」


ふぅ、とベリズリーは息を吐き出すと、まるで聖人のような微笑みでリグルを見つめる。


(いやこれ顔は聖人でも心は悪魔に時の顔だわ)


幾度もなく見たその微笑みの意味を理解するとリグルは180度回転し歩き出す。が、


「そこでなんだがなぁ、そのメイドの子の世話役及び監視役を一人付けようと思うのだがぁ、誰かやってくれる人がいないだろうかと思ってねぇ?」


ベリズリーが机から乗り出し、両手でがっしりと肩を掴みわざとらしい口調で問いかける。


「ウギッ!」


リグルの肩から鈍い音が鳴り響く。


「やります!やります!俺がやりますから手を離してくださいぃ!」


そういうとベリズリーはパッとリグルの肩から手を離し、先程の体制へと戻る。


「いやー、リグルならそう言ってくれると思っていたとも!はははっ」


何言ってんだこの悪魔。

コイツの部屋の掃除当番になったら絶対枕の中心部分にちっさい石を敷き詰めてやろう。

そんなことを思いながらリグルはベリズリーの前で一礼をし、部屋を後にしようとすると。


「...それはそうとリグルよ。また彼女の着替えを覗いたのか?」

「いえいえ、そんなことを俺がするわけないじゃないですかー」


リグルは先ほどのベリズリーに負けぬぐらいの微笑み貼り付けながら優しい声色で返答する。

その言葉にベリズリーは目頭を抑え込み、口を開いた。


「お前の胸と頰に手を当てて考えてみろ」

「痛いです」


まるで桃のように腫れた頰に手を当てるとリグルは静かにそう呟いた。


「まったく…。お前今回で何回目だ?」

「いやいや!今回は事故なんですって!それに誰があんな婚期逃した年増メイド長の着替えなんて見たいんですか!よほどの熟女好きぐらいしか見ないですよ!」

「前科がありながらよくそのセリフをぬけぬけと言えるな......」


ベリズリーは大きなため息を吐くと、これ以上用は無いと言わんばかりに手を振り、再び机の上に束ねてある用紙の束に目を通し始めた。


「私の用は終わったので後は自由にしてもらっていいが、何があっても振り返らない方がいいぞ?」


ベリズリーにそう言われ反射的に振り返ったリグルが最後に見たものは、満面の作り笑顔を顔に貼り付け、美の象徴であるメイド服には似合わぬメイスを振り上げたメイド長の姿だった。


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