プロローグ
(ちゃんとした)ファンタジーの連載は初投稿となります!よければブックマーク評価のほどをお願いします!
ウェイベット家のメイドは笑わない。
ただ与えられた仕事をひたすら機械的に繰り返すだけ。
たとえそれが一般のメイドがこなさないような、どんな汚れ仕事でも。
彼女はただ、命令に従い仕事をまっとうする。
男――シリウス・ファン・ベリズリー男爵は読み終えた書状を机の上に置くと、顔の前で手を組んだ。
ベリズリー家。
ガラティア王国建国時、数々の武勇を刻み、大陸で名を知らぬ者はいないとまでされた武芸の名家であった。
が、その名声は今はもうない。今や人々から帰ってくるのは称賛の声ではなく、罵倒や侮蔑である。
かつて王国の五分の一を占めた領土は辺境の地へと移り、使い切れないほどの莫大な資産は借金へと変わっていた。
そんなベリズリー家の11代目当主がシリウス・ファン・ベリズリーである。
「とんでもないのを引き取ってしまったかもしれないな...」
彼は自慢である黄金のように輝く自身の長い髪を後ろでまとめ、結び直すと机に置いてある書状に目を通し直す。
そして、それらの書状に目を通し終わると、目を瞑り天を仰いだ。
目を瞑ると、とても23歳とは思えないような黒く染まったクマがはっきりと現れてしまうので、普段はあまり長時間目を閉じないベリズリーであるが、そんなことをも忘れ思考を巡らす。
なぜこんなことになったのか、と。
時は遡ること一時間前。
年に3度ある納税の催促以外ではあまり手紙が来ないベリズリー家に珍しく手紙が届いていた。
手紙の送り主はディーブ・メランコリー。王都にも店を構えるメランコリー商会の現会長にして、ベリズリー家と取引を行なっている数少ない商人の一人である。
古くからの付き合いであるメランコリー商会であったが、かの商会から手紙が送られてきたことなど一度もなく、何かあった場合には必ず使者を派遣していたので、ベリズリーは不思議に思いながらも手紙に目を通す。
するとそこには今まであった商談などの話ではなく一人の少女について書き綴られていた。
『突然の手紙で申し訳ありません。実は先日とある少女を手に入れました。先日ウェイベット・ルイネ公爵家が何者かに暗殺されたのはご存知でしょうか?
実はあの事件、公爵家の血族は皆殺害されてしまいましたが、メイドや執事、料理人から庭師まで、公爵家との血の繋がりはない者は誰も死んでいなかったのです!
ですがご存知の通り世間では皆暗殺されたことになっています。事実全員の死体が発見されたらしいです。
ではどうして誰も死んでいなかったなどと言ったのか。それは先述した少女がいたからです。彼女は私のいた商会に飛び込んでくると、自分がルイネ公爵家にメイドとして使えていたと言い、事件のことを話してくれました。そして自分が何者かに追われているので匿ってほしいと。
本来なら面倒ごとは嫌なので衛兵に身柄を渡すのが普通です、が。私の直感が囁いたのです。それは賢明な判断ではない、と。ですがもし少女の話が本当であれば王都にある私どもの商会ではすぐに見つかり、身柄を拘束されてしまうでしょう。
そこでいつぞやのベリズリー様のことを思い出しました。
「メイドが欲しい」
そうおっしゃっていたベリズリー様を!
あなた様の領地でしたら滅多に外からの人も来ませんし、バレることもないはずです。
というわけで3日後の昼ぐらいに使いのものと共にメイドの少女がそちらに着くと思いますのでよろしくお願いします。
今後とも良き取引を。
ディーブ・メランコリー』
「………」
ベリズリーは手紙を握っている手をわなわなと震わせると、鬼神もおののく速度で、手紙だったものを装飾職人が手本にするような球体に変え、勢いよく椅子から立ち上がり、本棚に投げつけた。
「なぜ勝手に厄介ごとを押し付けてくる!?
というか何を当たり前のように暗殺事件なんて押し付けている!?私はそんな話、聞いたことないぞ?先代達のせいでほとんど外界との交流が断たれているからな!
あとその少女絶対怪しいではないか!?事件を起こしてなかったとしても絶対になにかの秘密を握っているだろうに!やはり厄介ごとではないか!?」
誰もいない執務室にベリズリーのやけに早口な独り言が響き渡った。
しかしというかやはり反応する者は誰もおらず、そしてまたいつも通り執務室は静寂に包まれた。