第40話 梅雨
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翌日の早朝、私は何度も欠伸をしながら神棚の飾ってある部屋を掃除していた。そしてゴミを掃き終えると道具を片付けて開けていた窓に近付いた。
「…はーあ…今日から梅雨かぁー…」
窓の下枠に頬杖をつきながら曇った空から降り落ちる雨粒を見つめて憂鬱な溜息を吐いた。…というのも、梅雨は私にとって一番嫌いな時期だったからだ。
(…健、今日から修行でいないんだよね……仕方ないけど、寂しいな……)
そう、梅雨は【青龍】にとってとても大切な時季で、健は今日から梅雨が明けるまで修行をしなければならなかった。しかもそれは休日に限った話ではなく学校も休んでのことだから憂鬱になるなという方が難しい話だった。
「…はーあ…とにかく八重の家に行く準備を」
「失礼致します。」
大きな溜息をついて渋々と立ち上がった時だった。開けっ放しにしていた襖から声が聞こえてきて振り返ると、お手伝いに来ていた先生こと分家の奥方様が正座して私を見つめていた。
「先生!お掃除終わりました!」
ちょうど探しに行こうと思っていたから良かったと喜びながらそう報告すると、先生はゆっくりと頷いてくれた。
「お疲れ様でございました。時に美子様、お客様がいらっしゃっております。」
「お客さま…?えっ、わたしにですか?」
思わずそう聞き返すと先生は「はい」と一言だけ返事をした。そして立ち上がってさあ参りましょうと促したので分からないけどとりあえず着いて行ってみることにした。
…暫く廊下を歩いて辿り着いたのはよく集まりに使われている大きなお部屋の前で、先生は障子の前で正座をすると「失礼致します。」と声をかけた。
「応龍様、美子様をお連れ致しました。」
「…入れ。」
部屋の中からお父様の声が聞こえてきて先生が障子を丁寧に開いたので先生の後ろから中を覗き込むとお父様の前で正座している後ろ姿に思わず目を見開いてしまった。
「……透、夜…?」
そう名前を呼ぶと、背中を向けていたその人がゆっくりと振り返って私を見た。顔は黒い布で隠れていたけどその深い紺色の瞳にもう間違えようがなくて慌てて駆け寄った。
「と、透夜!?ど、どうしてここに「美子。」
透夜のすぐ前に座って話そうとしたけどそれを制止したのは後ろから聞こえてきた冷たさすら感じる声で、恐る恐る振り返るとお父様が少し怒っているかのような表情で私を見つめていた。
「…こちらへ来なさい。挨拶がまだだろう。」
「は、はい…すみません…」
怖いよぉ…と少し涙目になりながら透夜の前からお父様の隣に移動してちょこんと正座すると、仕切り直すようにお父様が咳払いをした。
「…【玄武】の次期当主殿、娘が失礼した。非礼を詫びよう。」
「…いえ、構いません。」
お父様の言葉に軽く頭を下げた透夜は両手を床に着いて今度は私をじっと見つめた。
「…【玄武】の次期当主、北野宮透夜が美子様にご挨拶を申し上げます。」
「…あっ、えっ、えっと…お、おはようございます…?」
朝の挨拶と言ったらこれかなと思ってそう返すと、隣に座っていたお父様がゴホンと大きく咳払いをした。それに喉の調子でも悪いのかなと見上げるとそんな私の顔を見て小さく溜息を吐いた。
「あ、あの、透夜…じゃなくてき、北野宮さまはどうしてここにいらっしゃるんですか?」
呼び慣れない名前で透夜にそう尋ねると、透夜はゆっくりと瞬きをした後にいつもの真剣な眼差しを私に向けた。
「…それは本日より美子様のお側につき護衛を致します故、その旨のご挨拶に参りました。」
「えっ…?」
どういうことかいまいち理解できなくて思わずお父様を見上げると、お父様も透夜みたいにゆっくりと瞬きをしてから口を開いた。
「…【青龍】が梅雨のため修行に入ることは知っているな?その間、側でお前を護衛できる者がいなくなるために【玄武】に代わりを頼んだということだ。」
「…応龍様、僭越ながら一つ訂正を申し上げます。我等【玄武】は元来の与えられた使命である守護者としての責務を全うすべく美子様をお守りする所存でございます。決して、【青龍】の代わりなどではございませんことをご承知おきくださいませ。」
淡々とではあったけどどこか怒りのようなものを感じる透夜の佇まいに驚いていると、お父様が小さな声で「ふむ…」と言った。
「どうやら失言だったようだ。訂正しよう。」
「…いえ、私も失礼致しました。」
ちょっとピリついた空気にドキドキしながらももう一度確認したくて勇気を出して口を開いた。
「あ、あの!それじゃあ透…き、北野宮さまが梅雨の間はわたしと一緒にいてくれるってことですか?ずっと?学校も?」
「…はい、御用命とあらば私の全てを美子様に捧げます。」
「す、全て!?い、いや、あの、そこまでしなくてもいいよ…。」
相変わらず大袈裟なんだからと少し呆れながら笑うと透夜の瞳がほんの少しだけ柔らかくなったような気がした。
「…ではあとは二人で話すといい。私は失礼する。」
「あっ、はい!行ってらっしゃいませ!」
「…貴重なお時間を頂戴しありがとうございました。」
神社のお仕事があるお父様を二人でお見送りをすると、私は急いで透夜に近寄って手を握った。
「透夜!昨日電話で言ってたのってこのことだったの?」
そう言うと透夜は私の手を握り返して顔を隠していた布を外した。
「…ああ、そうだ。」
「じゃあじゃあ!いっぱい遊ぼって言ったらいっぱい遊んでくれる?」
期待を込めた瞳でそう迫ると透夜はどこかおかしそうに笑って「…ああ」と頷いてくれた。それに嬉しさが込み上げてきて思わず透夜に抱き付くと、透夜は少しの間戸惑っているかのように手を彷徨わせた後に躊躇いがちに私の背に手を置いた。
「…よしっ!それじゃあ早速だけど行きたいところがあるから一緒に行こ!」
「…ああ、どこへでも付き従おう。」
だから大袈裟だってば!と笑いながら立ち上がると、繋いでいた透夜の手を引っ張って立たせた。そしてそのまま一緒に玄関まで走って行ったのだった。
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「…着いた!透夜ここだよ!」
私の家から雨が降る中、バスと徒歩で辿り着いたのは最近とてもお世話になっている八重のお家だった。
「霊石を見つけに行く前にね、いつもやってる“虹色きゅうり”の観察がしたかったの!」
「…ふむ、確かに実際どういう状況か把握しておくことも重要だな。」
「うん!それとね、八重と、八重のお父様とお母様も紹介したいの!」
良かれと思ってそう言ったけど透夜は何故か何も返事をしてくれなかった。どうしたんだろうと思った時、家の方から人が歩いてくる気配がして顔を上げると大きな番傘を差した八重のお父様がいつものニコニコ笑顔で私達を見下ろしていた。
「おっはようございまーす!…おや!今日は健君じゃありませんねー!お友達さんですーか?」
「おはようございます!はい!そうです!透夜はわたしの大事なお友達なんです!」
「オー!透夜君ですねー!ワタシは八重ちゃんのパパさんでーす!よろしくお願いしまーす!」
そう言って八重のお父様は手を差し出した。きっと仲良くしようの握手だろうと思ったけど、いくら待っても透夜は手を差し出し返したりせずに立ち尽くすだけだった。
「…透夜?」
「オー!しっつれいしましたー!先程お掃除した時に手が汚れていまーしたね!握手はまた今度にしましょー!」
あははは!と八重のお父様が笑ってくれて少しホッとした。だけどどうして握手しなかったのか気になって見つめていると八重のお父様がさあさあと家に招待してくれた。それに頷いて透夜の手を引いてお家に上がると八重と八重のお母様が待ってくれていた。
「おはよう、八重!おはようございます!八重のお母様!」
「…おはよう、美子ちゃん。」
「おはよう!梅雨だけど良い朝ね!…あら?初めましての子かしら?お名前は?」
八重のお母様がそう言ったのに透夜は無言を返すから慌てて私が口を開いた。
「あっ!え、えっと!この子は北野宮透夜って言います!わたしのお友達ですっっごく良い子なんです!」
「透夜君ね!素敵なお名前ねぇ〜是非八重とも仲良くして欲しいわ〜!」
私の挨拶にニコニコと元気な笑顔を返してくれた八重のお母様は緊張した表情の八重の肩に手を置いた。
「…あ、あの…はじめ、まして…森本、八重です……あの、よろしくね…。」
健以外の男の子はまだ怖いのか少し震えながらも八重はそう自己紹介した。八重偉いぞ…!と心の中で八重の頭をわしゃわしゃ撫でていると、透夜はゆっくりと瞬きだけした。それに思わず脇をツンとつつくと透夜は私をじっと見つめた。
「…と、透夜!よろしくねって言われたらよろしくねって返すんだよ!」
「……解った。」
小声でそう教えてあげると透夜は八重をじっと見つめた。
「…よろしく頼む。」
「う、うん…」
なんだかぎこちないやり取りに八重と透夜以外の三人で苦笑いをしてしまった。
「そ、それじゃあご挨拶も済んだことだし!雨が降っているけど畑の様子を見に行きましょうか!」
「は、はーい!」
八重のお母様のありがたい助け舟に元気な返事をすると、俯く八重と表情の読めない透夜を連れて畑へと向かった。
「…うーん、やっぱり今日も芽が出てないのかぁ…」
期待を込めて確認してみたけど昨日と同じでやっぱり何も生えていない“虹色きゅうり”に溜息を吐くと、透夜が私の隣に座り込んで土をひとつまみ持ち上げた。
「…」
土を見つめたまま動かない透夜をじっと見つめていると、考えるのが終わったのか、はたまた私の視線に気が付いたのか透夜はゆっくり私を見つめ返した。
「何か分かったの?」
「…ああ、だが問題点を提起するのみに留めるが構わないか?」
「うん、なーに?」
首を傾げて返事を待っていると、透夜は一度だけゆっくり瞬きをした。
「…この畑の土は相撲を取ったと聞いているが“虹色きゅうり”が育つには未だ神力が不足した状態であると推測する。」
「えっ…?水だけじゃなくて土もまだ神力?が足りてないからダメってこと?」
驚きながらもそう確認すると透夜はしっかりと頷いた。
「で、でもでも、“虹色きゅうり”の伝説が残ってる村では水神様に捧げるきゅうりを作るのに相撲で使った清らかな土を使ってるんだよ?だからみんなで相撲したんだけど…あっ、もしかして本当のお相撲さんじゃないとダメとか…?」
「…いや、相撲の取り手の差異ではないだろう。だが現状では推測の域を脱しえないため、すまないがその伝説について詳しく教えて欲しい。」
「あっ、うん。えっとー…」
「あら、それなら資料を見ながら説明した方が良いと思うわ。私に任せてちょうだい!」
どこから話そうかと悩んでいる時にそう言ってくれたのは八重のお母様で、見上げると胸にドンと手をのせて笑ってくれた。それに確かにその通りだなと思って透夜を見ると、透夜は暫くお母様を見つめた後に小さく頷いた。
「よしきた!それなら私の部屋に行きましょうか!美子ちゃん達は畑の方をお願いね!」
「はい!」
「…うん。」
「はーい!まっかせてくださーい!」
八重のお母様の言葉に三人同時に返事をすると、お母様は透夜と一緒にお家の方へ歩いて行った。それを見送ってから私達三人は畑のお世話を始めたのだった。
………
……
…
「…ふぅ〜、お茶美味しい〜!」
雨と泥、そして汗まみれになりながら朝の畑仕事を終えたのはそれから30分後のことで、抜いた雑草をまとめて捨てた後に部屋でお茶をご馳走になっていた。すると、廊下の方から足音が聞こえてきて振り向くと透夜と八重のお母様が現れた。
「透夜!何か分かった?」
自分の隣をポンポンと叩きながらそう言うと透夜は静かに座りながら頷いてくれた。
「…ああ、恐らく現状は打破できると思われる。」
おお…!さすが透夜!と目を輝かせながら見つめると透夜は一瞬ふっと優しい目になって言葉を続けた。
「…結論から言うと、現在“虹色きゅうり”に不足しているものは河童の助力だろう。」
「河童の助力?」
そう繰り返すと透夜は頷いてから一つ瞬きをした。
「…事前に美子から聞いていた河童の伝説では「醜い女が河童の子と共に“虹色きゅうり”を育てた」とあり、また清らかな土とは確かに四股を踏んだ土であるがそれは河童と共に踏んだ土のことを指す。」
「えっ?そうなの?」
驚いて目をぱちくりさせるとお茶を飲んでいた八重のお母様が恥ずかしそうに頬を掻いた。
「そうなの、実はその村の祭りで行われる相撲では人間と河童の格好をした人が四股を踏んで相撲を取るのよ。私ったらすっかりそのことを忘れてたんだけど、透夜君って物知りなのね〜。伝承を読んだだけで地名とそのことをズバッ!と言い当てたのよ!びっくりしちゃったわ!」
「オー!それはすごーいですね!」
キラキラと輝く眼差しを向ける二人に透夜はチラリと目を向けた後に目を閉じた。
「…大したことではない。それより、土の神力を補うことや霊石を磨くことよりも「河童の助力を得ること」こそが急務であると言えるだろう。」
そう言われて思い浮かべたのはあの河童の子達だった。だけど果たして協力してくれるのか、そもそもちゃんと話し合いに応じてくれるのか自信がなくて悩んでいると八重が口を開いた。
「…美子ちゃんなら大丈夫。」
「えっ…?」
まるで私の心の中を見通したかのような言葉にドキンと胸を高鳴らせると、真っ直ぐ私を見つめる八重がニコリと優しく笑った。
「…私、知ってるよ。美子ちゃんは誰よりも勇気があって優しい人だってこと…だからきっと、大丈夫だよ。」
私が何で悩んでいるかも分からないはずなのに、八重のその言葉は不思議と私の背中を押して不安を消してくれた。
(…不思議だな。八重の大丈夫はすごく安心する…)
温かな言葉と優しい笑顔に胸がトクントクンと柔らかな音色を奏でる。それがなんだか懐かしいような気がして思わず泣きそうになったけど、私はとびきりの笑顔を返した。
「…うん!わたし頑張るよ!」
そう言うと私はお茶を飲み干して勢いよく立ち上がった。
「よしっ!透夜!河童に会いに行こう!」
「…ああ、分かった。」
「ちょっと待って!」
透夜も立ち上がってさあ行こう!という時にそう声を上げたのは八重のお母様だった。なんだろうと振り返ると少し怖い表情をしたお母様がじっと私達を見つめていた。
「河童に会いに行くってもしかして川に行くの?ダメよ、雨が降っている時は川の水が増えるから危ないわ!」
「で、でも、今会いに行かないと“虹色きゅうり”が…」
真剣な表情と声に怒られてるような気がしてモジモジと反論したけど八重のお母様は首をしっかり横に振って「ダメ!」と言った。どうしようと考えを巡らせているとそれを黙って見つめていた透夜が突然お茶をテーブルの上に溢した。
「と、透夜!?何して」
慌てる私とは対照的に透夜は落ち着いた様子でお茶に触れるとお茶がまるで吸い寄せられるように手にくっ付いて丸まり、お茶の玉が手のひらの上に浮かんだ。
「…俺は北の守護者、【玄武】の北野宮透夜だ。水なら容易く操れ、また水空の術や水隠の術が使える。故に美子が水難事故に遭うことはない。」
透夜の自己紹介に沈黙が落ちた。そしてその目は乾いたテーブルと透夜の左手に向けられていた。
「…あっ、えっ、えっと!透夜は、その」
「すっごいですねぇ〜!!」
透夜は変な子じゃないと説明しようとした時に重ねられたのはそんな賞賛の言葉で、見上げると八重のお父様がキラキラと輝く瞳を透夜に向けていた。
「透夜君は【玄武】の子でしたか!引っ越してきて間もないですがワタシも知っていますよ!玄武は水の神様です!それなら安心でしょう!ね!ママさん!八重ちゃん!」
八重のお父様がそう言うと八重は小さく頷いた。そして八重とお父様が難しい表情を浮かべているお母様を見つめるとお母様は溜息を吐いた。
「…分かったわ。でも、絶対に川には入らないって約束してちょうだい。」
「…!は、はい!約束します!」
私がそう言うと八重のお母様はやっと笑ってくれた。それに胸を撫で下ろすと透夜と一緒に玄関へと走って行った。
………
……
…
そして八重の家からバスを使って私の家の方に戻り、歩いて清良川に辿り着くと土手を下って河川敷に降りると当たりを見渡してから大きく息を吸った。
「おーーーい!!河童さーん!!出てきてー!!」
茶色く濁った川に向かってそう叫ぶと、暫くしてから川の真ん中くらいに水柱が三つできたと思ったら河童の三兄弟が私達の前に降り立った。
『アンタ、アタイたちを呼ぶなんて何なノヨ!』
『尻子玉!今度こそ尻子玉をくれるんだモン!』
顔を合わすや否や立て続けにそう話しかけてくる河童の子達に私は首をしっかりと横に振った。
「ううん、そうじゃなくて今日はお願いがあって来たの。」
『『おねがい??』』
一番背の高い河童の子以外の二人が声を合わせて私の言葉を繰り返したのを見て今度は首を縦に振った。
「あのね、“虹色きゅうり”は人間のわたし達だけが育ててもダメってことが分かったの。だから、三人にも協力して欲しいんだ。」
私がそうお願いすると河童の子達はびっくりした表情になってから慌てたように口を開いた。
『ほ、ほら!やっぱり作れなかったノヨ!だから言ったノヨ!“虹色きゅうり”はお伽噺なノヨ!!』
『そ、そうだモン!協力したって、できっこないんだモン!』
「そんなことないよ!確かに土と水はまだ用意できてないけど一緒に考えたらきっと解決できるよ!」
そう言ったのが良くなかったのかもしれない。河童の二人は更に捲し立てた。
『土も水もないなら“虹色きゅうり”はできないノヨ!一緒に考えたって無理なものは無理なノヨ!』
『解決できるか分からないことに時間を使うより川に来た人の尻子玉を取った方が簡単なんだモン!』
「それはダメ!尻子玉は大事なものだから取ったらダメ!」
平行線のままのやり取りに僅かな焦りを感じていると肩に手を置かれた。なんだろうと振り返ると透夜が冷静な表情で私を見つめていた。
「…美子、俺が交渉しよう。」
「えっ?本当!?じゃあお願い!」
思いがけない言葉に救われたような気分になって頼もしさを込めて見つめると透夜は頷いてから河童の子達に向き合った。そして、ポケットから白いお札を取り出すとバチバチ!っと光を纏わせた。
「…五秒やる。協力するか否か答えろ。拒否する場合は退治する。」
『『ひぃっ…!!』』
「と、透夜!!ちょっと待って!!!」
悲鳴を上げて抱き合う河童の子達に慌てて透夜を回収すると顔を近付けて首を横にブンブン振った。
「透夜!それは交渉って言わないの!!脅迫って言うんだよ!!」
「…?妖怪相手の交渉はこうするのだと父上が仰っていた。父上は間違わない。故にこれで良いと思うが…」
「あ、あの子達を見て!怯えてるでしょ?!交渉っていうのは誰も嫌な思いをしないことであってー…」
『協力するんダゾ。』
透夜を説得している時に聞こえてきたのは思いもよらない返事でその声のした方を振り返ると一番背の高い河童の子が真剣な表情を浮かべていた。
『…オマエ達に協力してやるんダゾ。だから、“虹色きゅうり”ができたら水神様に捧げるんダゾ。』
「……えっ、ほ、本当に『にいちゃん!!』
私が確認しようとした時に声を上げたのは女の子の河童の子で、一番背の高い河童の子の手を掴むと顔をグッと近付けた。
『何言ってるノヨ!“虹色きゅうり”なんてあるはずないノヨ!!』
『そ、そうだモン!にいちゃんもあるわけないって言ってたんだモン!!』
左右から挟まれるような形で口々にそう言われていたけど、その子は何も答えずに私を真っ直ぐ見つめた。
『その代わり、もし“虹色きゅうり”ができなかったらオマエの尻子玉を寄越すんダゾ。それが条件なんダゾ。』
『『にいちゃん!!』』
焦ったような声に少し混乱していたけど、向けられた真剣な目にもう迷いはなくて私は覚悟を決めて笑って頷いた。
「…分かった。“虹色きゅうり”ができなかったらわたしの尻子玉をあげる。」
そう言って右手を差し出すと、河童の子は首を傾げて近付いては私の手をクンクンと犬みたいに嗅いだ。
「あはは!握手しようってことだよ!これからよろしくね!」
そう笑って河童の子の右手を掴んで少し強引に握手をすると、河童の子は照れたように笑った。
『そうと決まればまずは土からなんダゾ。今から見に行くんダゾ。』
「うん!案内する『にいちゃん!!』
私の言葉を遮ったのは悲鳴に似た声でその方を見ると、信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた河童の子達がにいちゃんと言ったその子を見つめていた。
『……案内はいらないから先に行くんダゾ。』
二人を見ることも応えることもなくそう言い放つと一番背の高い河童の子は川に飛び込んだ。
『に、にいちゃん!待つノヨ!!』
『にぃちゃぁーん!!』
泣きそうな表情になって慌てて川に飛び込む二人の後に残ったのは雨と川の音だけだった。その音に包まれた私達は顔を見合わせて頷いてから八重の家へと急いだのだった。
続く…




