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『みこがたり』  作者: 朝ノ月
幕間
69/75

第34話 特別な日

ーーーーーーーーーーーーー






桜も散って緑が芽生える頃、学校生活にもすっかり慣れて楽しい日々を過ごしていた私だけど、そんな楽しいはずの学校のトイレで一人眉を顰めていた。


「…おかしい、絶対におかしいよ…。」


一番奥の個室でそう呟くと今日覚えた違和感を一つずつ思い出した。


「…まずは学校に着いた時だよね、下駄箱と机にお花とか動物の折り紙が置いてあって…その次は先生が授業の時たくさん当ててくれて…それでそれで、給食の時はご飯大盛りにしてくれて…さっきはお掃除で使う雑巾を絞ってくれた……なんで…?」


いつも優しいみんなだけど今日はいつも以上に優しくて少し不気味とすら感じてしまいブルっと肩を震わせた時、放課後のチャイムが鳴り響いた。それに慌ててトイレから飛び出すと走って教室へ向かった。


「あっ!美子ちゃん!」


「あ、咲!麻美(まみ)と帰るの?」


「うん!今日は麻美ちゃんのお家にお泊まりなの!」


「へえ!いいなー!」


楽しそうだなと目を輝かせていると咲と麻美は顔を見合わせてからにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべて私を見た。


「…ねぇねぇ、美子ちゃん。今日はどうだった?」


「え?どうだったって…今日も楽しかったよ?」


「本当?いつもよりいーーーっぱい!楽しかった?嬉しかった?」


「う、うん。本当だよ。」


何でそんなことを聞くんだろうと不思議に思いつつもそう答えると、咲は嬉しそうに笑って後ろ手に隠していた花柄のちょっと分厚い手紙を私に渡した。


「これ、お家で読んでね。みんなで書いたの。」


「あとあと、これも。」


手紙を受け取ると今度は麻美が私の首に、折り紙で作った花輪をかけてくれた。


「あ、ありがとう…でも、どうして…?」


困惑しながらも受け取ってお礼を言うと二人はニコニコと満足そうな笑みを浮かべた。


「ふふふ!なーいっしょ!」


「お手紙読んだら分かるから!それじゃあね!」


「えっ、あっ、ま、またねー!」


私の横を通って廊下を歩いていく二人に慌ててそう言うと、二人は手を振ってから仲良さそうに話して廊下を歩いて行った。


「おーい!美子ー!」


今起こったことにぼーっと立ち尽くしていると入れ替わるように健と八重が現れた。


「…あっ、健と八重。おかえり。探し物見つかった?」


「おう、木に聞いたらすぐだったぞ。」


健がそう言うと八重は手に持っていたタオルを見せてくれた。


「…すごいね、健くん…本当にお話しできるんだね。」


「別にすごくねーよ、フツーだろ。」


八重の褒め言葉に照れる様子もなく答えた健は私の首にかかった折り紙の花輪と分厚い手紙を見てニカッと笑った。


「お、ちゃんと渡せたんだな、それ。」


「さっき咲と麻美がくれたの。それより健、「ちゃんと渡せた」ってどういうこと?」


何か知ってるような様子の健にそう尋ねたけど、健はニコニコと笑うばかりで何も言ってくれなかった。


「ちょ、ちょっと健!何か知ってるなら教えてよ!」


「さぁーな?なーんも知らねーよ?」


「う、嘘だよ!絶対何か知ってるでしょ!」


ランドセルを背負う健に詰め寄ったけどやっぱり教えてはくれなくて、私のランドセルと手提げかばんを持って廊下へ出て行った。


「あっ!待ってよ健!自分で持つから!」


「いいって、今日は休み前で荷物多いって言ってただろ?」


「確かにそう言ったけど大丈夫!重くないもん!」


健から何とか荷物を取り返して持つと、ズシンと岩でも背負っているかのような重さが肩と腕にのしかかった。それと格闘していると3組から出てきた八重が歩いて近付いてきた。


「…美子ちゃん、大丈夫?」


「う、うん。大丈夫…八重は重くないの?」


何だか情けなくて落ち込みながらそう聞くと、同じくらい大荷物を持った八重はケロッとした表情で頷いた。


「…うん。わたしは重いの慣れてるから大丈夫だよ。」


「そうなんだ…?」


何で慣れてるのかは分からなかったけど、八重が意外と力持ちなことを知って少し嬉しくなった。


「それにしても、美子はすげーな。」


「えっ?何がすごいの?」


「まだ一ヶ月も経ってねーのにせんせーとクラスのみんなからすげー愛されてるからすげーなって思ってさ。」


「…?どういうこと?」


何のことだかさっぱりで首を傾げると、健が答える代わりに八重が頷いて口を開いた。


「…美子ちゃんは本当にすごいと思うよ…だってわたしのクラスのお友達もお祝いしたいって言ってたもん…。」


「お祝い?何のお祝い?」


ますます分からなくなってそう尋ねたけど、八重も健と一緒でやっぱりニコニコ笑顔を浮かべるだけだった。


「な、何で二人とも教えてくれないのぉ!?」


「知らねーもんは知らねーからなー、なぁ?八重ー?」


「…ふふふ、そうだね、健くん。」


「う、嘘だぁ!教えてよ!」


「ははは!知ーらね!逃げるぞ!八重!」


健がそう言うと二人は笑いながら廊下を走り出した。


「あっ!待ってよー!!」


それに慌てて二人の後を追う私は荷物の重さなんてすっかり忘れて夕日の差し込む放課後の廊下を走っていったのだった。





ーーーーーーーーーーーーー





「…ふぅ、ただいまぁ〜…。」


…夕暮れの薄暗い中を歩き、辿り着いた裏口の扉を開けて靴を脱ぎながら疲れ果てた声でそう言うと、そのままヘナヘナと玄関に座り込んだ。というのも、世間では大型連休の真っ只中で神社のお手伝いや「はなのえん」のお手伝いで連日大忙しだったのだ。


「…はぁ〜…疲れたなぁ…お腹も空いちゃったし……」


その言葉に反応するかのようにお腹がグゥと情けのない音を立てた。よしよしと撫でて慰めてあげると立ち上がって廊下を歩いた。


「…ご飯前だけど、隠してあるおやつちょっとだけ食べよう…そしたらお米とごう…」


そう決意すると立ち上がってゆっくりと廊下を歩いた。途中でお手伝いさんに会えるかもと思ったけど、お買い物に行っているのか台所にも居間にもその姿はなく少しがっかりしながら自分の部屋を目指した。


「…もうちょっと……ん?」


部屋のある廊下へ曲がった時、ダンボールの山が私の部屋の前に置いてあるのが見えた。何だろうと近付いて箱に貼られた送り状を見てみると綺麗な見覚えのある字が書かれていた。


「…えっと、この漢字は確か「南門馨」……えっ、馨から?」


漢字はまだ難しくて読めないけど、健以外の三人とはよく手紙でやり取りしているから名前だけは何とか読めた。そして読めた名前に驚いて目を瞬かせた。


「……えっ、えっ?な、何で?この前の電話でも手紙でも何も言ってなかったのに……」


いつもお菓子を送ってくれる時は必ず先に教えてくれるし、それにこんな何箱も送ってくることなんてなかったから混乱しながら一番上の箱を下ろして開けてみると中には私好みのお菓子がたくさん入っていた。


「わあ…!これ!この前テレビの人が美味しいって言ってたやつだぁ!食べてみたかったんだよね!…あっ!こっちは期間限定のやつだ!ああっ!?これは全然買えないっていう噂の…!」


宝箱でも漁るかのように目をキラキラと輝かせながらお菓子を一つ一つ取り出しては変な声を上げていた。


「……うん、さすが馨。お菓子選びも天才だね。さてと…」


一通り感想を言い終わって満足しながらお菓子を箱に戻すと次の箱に手を伸ばした。


「うっ…?!こ、これちょっと重いかも…。」


てっきりこれもお菓子が入ってるものだと思って持ち上げたら意外と重さがあって驚いた。だけど持てないほどではないので落とさないように慎重に床に下ろして箱を開けると、中には透明のプチプチとたくさんのおもちゃが入っていた。


「いつもはお菓子だけなのに、今回はおもちゃも送ってくれたの…?どうしたんだろう…?」


お人形さんやパズルなど色んな種類のおもちゃが入っていて嬉しいけどお菓子じゃないことの驚きの方が勝って素直に喜べなかった。


「…あっ!そうだ!手紙!どこかに入ってないかな!?」


思い出したようにそう言うとおもちゃを取り出して箱を漁り始めた。というのもいつもお菓子を送ってくれる時は必ず箱の中に手紙が入っていたから何でこんなにたくさん送ってくれたのか知りたかったのだ。


「最後はこれ…うっ!?お、重くて動かないっ?!」


何個も箱を開けて最後の箱の中身を見ようとしたけど岩でも入ってるんじゃないかと思うくらい重くてびくともしなかった。仕方ないので他の箱を動かして場所を作り、その重い箱の蓋を開けた。


「えっと…あっ!こっちの箱は絵本が入ってる!だから重かったのか…あっ!手紙あった!」


色とりどりな絵本の隙間に落ちて挟まっている横長の封筒を手に取ると表には私の名前、そして裏には「南門馨」と書かれていた。封を開けて中を読もうとした時、何だか後ろの方が騒がしくて振り向くと廊下をテトテトと見知った顔のない式神が歩いて来ていた。そしてその後ろに続くように米俵や大きなダンボールを担いだ式神達が一列になって現れ、私の前にそれらを山積みにしていった。


…突然の出来事にただその光景を眺めていると列の先頭を歩いていた式神が縦長の封筒を私に差し出した。


「…………へっ?」


何が何だか分からなくて変な声を上げるとその子は私に向かって更に手紙を差し出した。それに思わず手紙を受け取るとその子は荷物の山をよじ登って見えなくなってしまった。そして辺りに静けさが戻った頃、漸く我に返った私は慌てて荷物に飛び付いた。


「えっ、えっと…これは「北野宮透夜」…と、透夜からの荷物!?」


これまたよく知る名前の登場に驚いてダンボールの蓋を開けると中には瑞々しい野菜が綺麗に詰まっていた。


「や、野菜…?こ、こっちは…あっ、く、果物だ…それでこれはお米…な、なんでこんなにたくさん…?」


確かに透夜の住んでいるところは農業が盛んでよく旬の野菜や果物を送ってくれていたけど、馨と同様に一度にこんなにたくさんの荷物を送ることは今までなかった。


「……あっ!そ、そうだ!手紙!手紙読もう!」


色々考えた挙句思い出した手紙の存在に慌てて封を切ろうとした時だった。今度は部屋の方から音がしたと思ったら勢いよく襖が開いてその奥に大きな影が五つくっきりと見えた。


『我ガ主ヨ』


「……えっ!?し、信天?!」


その中で一番大きくて真ん中にいた影から聞こえた声に思わずそう問いかけると、その影はゆっくり歩いて明かりのある所まで現れた。


『如何ニモ、我ハ信天。突然ノ参上、失礼スル。』


そう言ったのは紛れもなく信天で、町で見かける鳥の方の姿ではなくて山伏装束の烏天狗の方の姿をしていた。


「……はっ!ど、どうしたの?!急にどうして…い、いや!それよりどうやってここに来たの?!」


混乱と驚きで上手く動かない頭を何とか働かせて早口でそう疑問を投げ掛けると、信天はゆっくりと頷いてから跪いた。


『我等ハツイ先刻白キ空ヨリ降リ立チ、ソチラノ窓ヨリ参上シタ。故ニ(ねや)ヘ足ヲ踏ミ入レタ無礼ヲ詫ビル。』


「ね、ねや……?わ、分からないけど謝らなくていいよ……あの、信天。後ろの仁天達が持ってるのってまさかー…」


漸く周りを見る余裕が出来て視線を動かした時に目に映ったそれを指差しながらそう言うと、信天はまたゆっくりと頷いた。そして振り向かずに指でふいっと何かを指示すると、後ろにいた仁天達が手に持っていた大きくてキラキラと綺麗な箱を四つ私の前に置いた。


『コレラハ我ガ主ヘノ祝イノ品。開ケテミルト良イ。』


「祝いの品…?」


何のお祝いなのか分からなかったけど、促されるままにまずは仁天が置いてくれた箱の蓋を開けた。すると中には金の装飾がされた櫛や簪、錦織の着物など眩しさすら感じる品々が入っていた。


「…こ、これってもしかして…秀から…?」


金を贅沢に使った装飾品の数々と今日の贈り物の送り主達から推測してそう言うと、信天は少し困ったように頭をかいた。だけど、しばらく見つめていると観念したように息を吐いてその嘴を開いた。


『…如何ニモ。ソレハ【白虎】ノ若造ヨリ頼マレタモノ。ダガ、名ヲ出スナト言ワレテイルタメ他言無用デ頼ミタイ。』


「たごんむようってどういう意味?」


『…他人ニ漏ラサヌヨウニ、トイウ意味ダ。』


「秀に言っちゃダメってこと?でもお礼言いたいなぁ…」


今度は私が困ったような表情になると、信天は柔らかく笑ってその大きな手で頭を撫でてくれた。


『…心美シキ者ヨ、我ハ誇リニ思ウ、其方コソガ唯一無二ノ我ガ主ト。』


「あ、ありがとう…?」


心が美しいだとか誇りだとか何だかすごく褒められて胸がむず痒くなった。だから照れ隠しのように俯いて頬をかいていると、信天は袂から白い大きなお花を取り出して私に差し出した。


『コレハ我等ガ白旺山ノ牡丹デアル。…白天王様ハ其方ノ成長ヲ心ヨリ喜ンデオラレルゾ、美子。』


「…あっ……」


白天王からの贈り物と初めて信天に名前を呼ばれたことが嬉しくてお礼も碌に言えなかった。だからせめてありがとうの意味を込めて山牡丹の花を受け取ると、信天は嬉しそうな笑みを浮かべた。


『ウム、ソレデハ我等ハ退散スルトシヨウ。我ガ主ヨ、ドウカ良イ夢ヲ。』


「……あっ!う、うん!ありがとう!信天達もいっぱい良い夢見てね!」


慌ててそう言うと、信天は『ウム』と頷いてフワッと飛び上がると一瞬で烏の姿になった。そして同じくカラスの姿になった仁天達と一緒に窓から外へ出て夕闇の空へと飛び去っていった。その姿を追いかけるように窓へ走り寄って見えなくなるまで見上げていると、突然廊下の方から名前を呼ばれた。それに振り返ると野菜入りダンボールの山を超えて部屋の前までやってきたお手伝いさんがひょっこりと現れた。


「あ、あの、美子さん。これは一体どうしたんですか?」


「あっ、え、えっと、その、これは…ははははっ…」


そう聞かれたけど困惑顔のお手伝いさんに今起こったことをそのまま伝えるわけにもいかなくて、何て答えたら良いのか分からない私は曖昧に笑うしかなかったのだった。




………

……




それから二時間ほど経った頃、ご飯とお風呂を済ませて自分の部屋に戻ってきた私は食べ物以外の贈り物を押し入れに片付けていた。


「よし、これでおしまい!」


「お疲れ様でした、美子さん。」


最後のおもちゃをしまい終えて元気よくそう言うと一緒に片付けるのを手伝ってくれていたお手伝いさんが笑顔でそう言ってくれた。


「手伝ってくれてありがとうございます!」


「ふふふ、いいえ。それでは私はお野菜の方を片付けてきますね。」


「あっ、それならわたしも」


手伝いますと言おうとしたけど、お手伝いさんは柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。


「大丈夫ですよ。お野菜やお米は重いですから私に任せて美子さんはゆっくりお休みくださいな。連日のお勤めでお疲れでしょう?」


そう言うとお手伝いさんはエプロンのポケットから小さな四角い箱を取り出して私の手に置いた。


「…お祝いしてはいけないと言われていますので、これはいつもお手伝いいただいているお礼だと思ってくださいね。」


「えっ…?」


驚きの声を上げた私に優しい微笑みを返すと、お手伝いさんは「おやすみなさい」と言って襖を閉め廊下を歩いていった。その足音が聞こえなくなるまでぼーっとしていたけど、お礼を言いそびれたことを思い出して慌てて立ち上がった。その時、コンコンと窓を叩く音が聞こえてきて、また信天達が来たのかななんて思いながらカーテンを開けると固まってしまった。



「よっ!美子!」


「…け、健っ!?」


…そう、窓の外にいたのは装束を身にまとった健で嬉しそうに笑うと窓のへりを掴んで軽やかに飛び越え部屋の中に着地した。


「まだ起きてて良かった!いきなりごめんな?」


「う、ううん。健ならいつでも大丈夫だけど…って、そうじゃなくて!急にどうしたの!?」


慌ててそう聞くと健は待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべ、袂からシロツメクサの花冠を取り出して私の頭に戴せた。


「遅くなったけど、おめでとう!今作ってきたんだ!やっぱり美子に似合うな!」


とびきりの笑顔でそう言った健は最後の仕上げのように頭に載せた花冠の位置と髪型を整えてくれた。


「あ、ありがとう……ねぇ、健。「おめでとう」ってどういうこと?どうしてみんなお祝いしてくれるの?」


また答えてくれないかもと少し心配に不安になったけど、健は驚いたような表情になって目を瞬かせた。


「…今日が何の日か、分かんねーの?」


「え、今日はお休みの日だよ?昨日も一昨日もだけど…。」


「手紙は?読んでねーの?」


「あっ、う、うん。手紙は忙しくて読んでない…。」


ランドセルにしまったままになっている手紙を思い出して申し訳なさそうにそう言うと、健は口をポカンと開けて大きな目で私を見つめた。それが何だか居た堪れなくて俯くと突然頬に手が触れてグイッと持ち上げられた。驚いて見上げる先には健がいて嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「…そっか!じゃあまだ、誰も美子に言ってねーんだな!よっしゃあ!!」


「…へ、へっ?」


どういう意味か全く分からなくて間抜けな声を上げると、健は頬に触れていた手を離して私の手を握った。そして、真っ直ぐ私を見つめながら大きく息を吸った。



「…美子!誕生日おめでとう!!いつも一緒に遊んでくれてありがとうな!美子のこと、世界で一番大好きだ!!」


いつもの元気いっぱいな声と私の大好きな笑顔でそう言った健に胸が高鳴った。そしてその言葉に、この前からの出来事が全て思い出された。


「…あっ、あぁあ!?も、もしかして!みんなが優しかったり色んな物をくれたりしたのって…わ、わたしの誕生日のお祝いしてくれてたの?!」


「おう!そういうことだ!」


ずーーっと疑問だった謎の答えに驚いたやら安心したやらで暫くボケーっとしていると健が顔の前で手を振った。


「わ、わわっ!!な、何っ!?」


「何って、ぼーっとしてっから寝てんのかなって。」


そう言って悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべた健は私の手をしっかりと握って真剣な表情になった。


「…オレ、美子に会えて本当に良かった。毎日すげー楽しいし、すげー幸せだって思う。だから、オレー…」


何か言いかけた健だったけど、急に廊下の方に頭を向けると残念そうな表情を浮かべて小さな溜息を吐いた。


「健?」


「…ああ、いや。誰かこっち向かって来てんなーって思ってさ。」


「来たらダメなの?」


「ああ。勝手に部屋入ってるしオレも抜け出して来てるからさ、見つかったら色々めんどくせーだろ?だから今日はもう帰るな。」


「えっ…」


思わず寂しいと言わんばかりの表情を浮かべてしまうと、健は困ったように笑って頬をぷにっと摘んだ。


「け、けん…?」


「そんな顔すんなって!オレは一番に美子に誕生日おめでとうって言えたのがすっげー嬉しいし!なんだったら会えただけでもすっげー満足だから!な!」


だから笑えとでも言うかのようにニカっと元気な笑顔を見せてくれた。それにつられて私もニカっと笑顔を浮かべていた。


「よしっ!そんじゃあ帰るな!美子、誕生日おめでとうな!また学校でな!」


「うん!いっぱいありがとう!健!また学校でね!」


そう言って足早に立ち去っていく健の後ろ姿を見送っていると、閉じている襖の向こうから名前を呼ばれた。それに慌てて窓とカーテンを閉めて立ち上がると襖を開けた。


「あっ!お兄さま!」


襖の先にいたのは装束姿のお兄様で、その腕には何やら大きな包み紙が抱かれていた。


「ただいま、美子。…どうやら先を越されたみたいだね。」


「先?」


何のことだろうと首を傾げていると、お兄様は少し恨めしそうな目で私の頭の上の花冠を見つめた。その視線に隠し忘れたそれのせいで健が来たことがバレたら怒られちゃうかもと慌てて口を開いた。


「あっ、あの!お、お兄さま!この花冠は、えっと…!」


「…ふふ、大丈夫だよ。誰にも言わないから。ただ少し嫉妬してしまっただけ、かな?」


自分の言葉にクスクスと鈴が転がるような声で笑うと、お兄様は持っていた大きな包み紙を私に差し出した。


「…?これは?」


「ふふ、何だろうね?開けてごらん?」


初めて見るようなワクワクの笑顔を向けるお兄様に頷いて受け取ったそれは、大きさの割には軽くてフワフワしていた。そして、畳の上に置いてリボンを解くと中から黄色いふわふわに可愛らしい目と嘴のついた黄色い鳥のぬいぐるみが現れた。


「わぁあぁあ…!かわいい!!何ですか?これ!」


急いで取り出して持ち上げたり抱きしめたりしながらそう尋ねると、お兄様はとっても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「…かわいいなぁ………ああ、えっと、それはヒヨコのぬいぐるみだよ。」


「ヒヨコ?」


「うん。この前好きな動物は?って聞いたら黄色いからヒヨコだって言ってただろう?」


「あっ!そ、そういえば!」


そんなこともあったなとつい先日のことを思い出していると、お兄様は屈んで私と目線の高さを同じにすると頭を優しく撫でた。


「…遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとう、美子。僕の妹として生まれてきてくれてありがとう。美子のことが世界で一番大好きだよ。…だから、どこにいようとも誰が相手だろうとも僕が必ず守るからね。」


思わず見惚れてしまうほど綺麗な微笑みと、とろけてしまうほど優しい声で紡がれたその言葉に胸が高鳴った。そして、その言葉が何よりも嬉しくて思わず抱き付くと、お兄様は優しく抱きしめ返してくれた。


「…ありがとうございます!お兄さま!わたしもお兄さまのこと大好きです!」


「ふふふ、嬉しいな。美子に大好きって言ってもらえるなんて僕まで誕生日プレゼントを貰ったみたいだ。」


「お兄さまも…?えへへ!お兄さまが嬉しいならわたしも嬉しいです!」


お兄様の喜ぶ顔が見れたのが嬉しくて頭をお兄様の胸にスリスリと擦り付けると、お兄様はクスクスと笑って強く抱きしめてくれた。


「…さてと、もう少しこうしていたいけど、美子にはもう一つプレゼントを用意しているんだ。」


「もう一つ?」


お兄様から離れて見上げると、お兄様はニコリと笑って頷いた。


「うん。実はね、美子の大好きなケーキを買ってきたんだ。だから一緒に食べようね。」


「ケーキ!?わぁあ!うれしー…あっ、でもでも、歯磨いちゃったから……」


滅多に食べられない大好物に一瞬心が躍ったけど寝る用意をしてしまったことを思い出してしまって落ち込みそうになった。だけど、お兄様は私の顔を覗き込んでニコリと笑った。


「大丈夫だよ、もう一回歯磨きすればいいんだから。だから、ね?二人でケーキを食べてお祝いしよう?」


お兄様の提案に、確かに夜に二回も歯磨きしちゃダメなんて言われたことないなと納得して笑顔で頷いた。


「ケーキ!食べます!お兄さまとお祝いしたいです!」


「良かった、それなら居間に行こうか。ちょっとだけど飾り付けもしてあるんだよ?」


「そうなんですか!?楽しみです!」


お兄様の腕に抱き着こうとしたけどヒヨコのぬいぐるみがあってできなくて、どうしようと悩んでいるとお兄様が代わりにぬいぐるみを持ってくれた。それにお礼を言って思いっきり腕に抱き着くと二人で廊下を歩いていった。


…完全に忘れていたけどたくさんの大好きな人達からの手紙や贈り物に胸を踊らせながら、色々あった特別な日は過ぎていったのだった。






続く…

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