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『みこがたり』  作者: 朝ノ月
幕間
68/75

第33話 因縁

ーーーーーーーーーーーーー






「ふんふんふーん♩ふーんふんふーん♩」


空が茜色に染まる頃、学校の廊下の水道で上機嫌に手を洗っていたのはもちろん私で、蛇口を閉めて手を拭いていると名前を呼ばれた。振り返るとそこには教室から出てきた同じクラスの男の子達がいた。


「今日は楽しかったな!また遊ぼうな!」


「うん!サッカー楽しかったね!また遊ぼう!」


「おう!じゃあなー!」


「またねー!」


そう言って手を振っているとまた教室の方から名前を呼ばれて振り返った。すると今度は同じクラスの女の子達が笑顔で私を見つめていた。


「美子ちゃん!明日もまた鉄棒で遊ぼうね!」


「うん!逆上がり頑張ろうね!」


「うん!それじゃあバイバーイ!」


「またねー!」


…入学式から早くも二週間が経ち、ドキドキの遠足も無事終えて仲良くなったお友達たちとそう言ってお別れすると、みんなの背中が見えなくなるまで大きく手を振った。


「…さてと!わたしも早く帰らないとね!それにしても健、遅いなぁ。」


お手洗いに行った健がなかなか戻って来ないことに少し心配した時、一番奥の教室から大きな笑い声が聞こえてきた。それに何だろうと近付いてみると小さな啜り泣く声が聞こえて慌てて教室に入った。


「…ん?何だよ、お前?」


飛び込んだ教室の中には五人の男の子達で、その子達に囲まれるように壁際で女の子が一人泣いていた。


「な、何してるの?!」


「何って遊んでやってるんだよ。な?」


男の子達の中で一番背の高い子がそう言うと、女の子は肩をビクッと跳ねさせて小さくコクンと頷いた。


「遊んでないよ!だって泣いてるもん!楽しくなさそうだよ!」


「はあ?こいつだってうんって頷いたじゃねーか。なあ?」


またそう言うと女の子は震えながら何度もコクコクと頷いた。それがどうしても本当のことには思えなくて堪らず両者の間に割って入った。


「何だよ!邪魔すんなよ!」


「やだ!とにかく離れ「あーーー!!!!」


私の腕を引っ張って退かそうとする男の子にそう言った瞬間、その騒ぎを打ち消すような大声が聞こえてきた。それに驚いてその声の方を見ると見覚えのある帽子を被った男の子が目と口を大きく開けて私を指差していた。


(…あれ?この子どこかで…)


「お前!あの時のあいつだろ!!ちゃんと覚えてんだからな!!」


「あの時…?……あー!!思い出した!!道でボールぶつけられそうになって、はなのえんで無理矢理遊ぶために連れて行こうとした帽子の子だ!!」


ようやく思い出したその顔にポンと手を打つと、その子は一歩二歩と私に近付いてきた。


「おれは帽子の子じゃねえ!田村直希(たむらなおき)っていうちょー!かっこいー!名前があるんだ!覚えとけ!」


「わたしだってあめっ……て、天地美子ってお名前だよ!お前じゃないもん!」


危うく滑りそうになった口を慌てて塞いでから怒鳴るようにそう自己紹介をした。するとその時、私の後ろに立っていた女の子が私の服を掴んでボソッと眼鏡…と言った。それに田村直希くんの手を見ると、レンズが大きくて丸い眼鏡が乱暴に握られていた。


「その眼鏡、この子の?それなら返して。」


「はあ?!そんな証拠がどこにあんだよー!つーか!こんなおもしれーもん、遊ばねえと損だろ!なぁ!?」


そう言って握っていた眼鏡を自分の目に掛けると、田村くん達はゲラゲラと笑い出した。


「あっははは!見ろよこの眼鏡かけるとボヤボヤすっし目もデカくなる!トンボの目みてえで面白いな!」


「!ちょっと!そんなこと言わないで!早く返して!」


ひどい言い方に思わず大きな声を上げて眼鏡を取り返しに掛かると、田村くん達はポイポイと眼鏡を投げて返してくれなかった。


「あははは!ほら!返して欲しいなら早く取れよー!」


「全然届いてねーぞ!」


「ほらほら〜!こっちだぜ〜!」


「っ…!か、返してっ…わっ!」


必死に食い付いていた私だったけど、上に気を取られるあまり足元を気にしていなくて机の足に自分の足を引っ掛けてしまった。その弾みに転びそうになった時、咄嗟に伸ばされた手が私を抱き止めた。


「美子!大丈夫か?!」


「け、健、ありがとう…」


怪我をしなくてよかったと胸を撫で下ろしながら戻ってきた健にお礼を言うと、健は首を横に振った。


「礼なんかいらねーよ。遅くなってごめんな。」


少し心苦しそうな表情でそう謝った健は、私を背中に隠して田村くん達と向かい合った。


「オマエら、美子に手ぇ出してんじゃねーよ。全員叩っ斬るぞ。」


健のその言葉と厳しい表情に男の子達はひっ…!と小さな悲鳴を上げて後退りした。だけど、田村くんはその恐怖を吹き飛ばすように大袈裟な笑い声を上げると背負っていたランドセルを下ろして健を指差した。


「で、出たな!お前、確か健って名前だろ!」


「ああ、そうだけどそれが何だよ。」


「お、おれは田村直希だ!覚えておきやがれ!」


「キョーミねーよ、オマエの名前なんか。」


田村くんの威勢のいい自己紹介をサラッと受け流した健は、面倒くさそうに溜息を吐いて一歩二歩と近付いた。


「それ、コイツのなんだろ?さっさと返せよ。」


「…っ、あ、あっはっはっはっ!誰が大人しく返すもんか!お、お前なんか!もう怖くないんだからな!」


わずかに声を震わせながらそう言うと、田村くんは下ろしたランドセルの中からいそいそと筆箱を取り出して鉛筆を一本手に取った。


「お、おれはなぁ!あの日からずっっっと筋トレしてたんだ!だから見てろよ!!」


まるで挑戦状を突き付けるかのように鉛筆を突き立てると、眼鏡を他の子に預けて両手でその鉛筆を持ち膝に当てて力を込め始めた。すると、その鉛筆はバキッという音を立てて二つに折れてしまった。


「「「「おおー!!」」」」


「はっはっはっ!どうだ!おれはこんなに力持ちなんだ!そんなおれとケンカしたいのか?!」


褒め称えるような歓声と拍手に調子が戻ってきたのか、折れた鉛筆を見せつけながら脅迫してくる田村くんに心配が募った。


「あの、やめといた方が…」


「なんだ、その程度かよ。」


だからやめさせないとと思って口を開いたけど時は既に遅く、呆れ顔を浮かべた健は溜息混じりにそう言うと筆箱に残った鉛筆を全部取り出して片手に握り、そのまま5本の鉛筆を簡単に片手で折ってしまった。




「…そんで?ケンカが何だって?」


「ひぃやぁぁあぁあぁあ!!!」


しばしの静寂の後に健が凄みながらそう言った直後、田村くんはそんな悲鳴を上げて一目散に教室を飛び出し廊下を走って行った。そしてそれに続くように他の男の子達も悲鳴を上げながら我先にと競うように走り去って行った。


「あっ…!」


走り去る時に男の子が投げ捨てた眼鏡に慌てて手を伸ばしたけど間に合わず、ガシャンと嫌な音が鳴り響いた。恐る恐る音のした方を見るとそこには右のつるの部分が外れてレンズにヒビが入ってしまった眼鏡が落ちていた。


「た、大変…!」


それに慌てて拾ってみたけどどうにかなるはずもなく、治癒の力も物には効果がないようだった。


「…ど、どうしよう!あ、あの、ごめんなさい!べ、べんしょーするから!」


「何で美子がべんしょーするんだよ。するなら投げて壊したアイツだろ。」


「で、でもでも!」


投げる前に取り返せなかった私が悪いと言おうとした時だった。それまで壁際で泣いていた女の子が涙を拭ってトコトコと私達に近付き眼鏡を取った。


「…あ、こ、壊しちゃってごめんなさい!あのあの、ちゃんと眼鏡直すから、その…」


私がそう言うと女の子は首を横に振った。だけどやっぱり納得いかなくて口を開こうと思ったけど、私より先に女の子の方が口を開いた。


「…だい、じょうぶ…お、お家に新しいの、ある、から……」


「よ、良くないよ!だって、その、壊されたんだから!」


「…ううん、いいの…大丈夫……」


「でも!」


「美子。」


更に食い下がろうとする私を止めたのは健で、少し冷静になった私は悪い癖だと反省して口を閉ざした。



「…あの、助けてくれて、ありがとう…。」


「…!う、ううん!全然大丈夫だよ!!」


しばらくしてから聞こえてきたありがとうに何故か胸が熱くなって思わず手を握ると、女の子は驚いたような表情で固まった。それに慌てて握った手を離した。


「あっ!ご、ごめん!つい握っちゃっただけで、その、驚かせたかった訳じゃ…」


「…う、ううん…だい、じょうぶ……」


頬を赤らめながら俯く女の子に怒ってるのかな…なんてドキドキしながら見つめていると、その子は壊れた眼鏡を目に掛けて私を見つめた。


…少し垂れ目のつぶらな瞳は、見つめる度に私の胸を高鳴らせた。だけどそれは苦しいドキドキじゃなくて、健やみんなと久しぶりに会えた時のようなドキドキで不思議と心地良かった。


「…優しい人のお顔…お父さんが、言ってた通り…。」


「…えっ?」


小さくて可愛らしい声が紡いだ言葉に思わず返事とも言えない声を上げると、その子はパチパチと何度も瞬きをしながら俯いた。


「…あの、優しい人は、ふんわりしてて、怖くなくて…笑ってなくても笑顔の人なんだよって、お父さんが、言ってたの……あなたと、同じ…。」


小さくてもしっかりとそう言って、顔を上げるとまた私をじっと見つめた。それにまたドキドキして何も言えずにいると、それまで黙っていた健が口を開いた。


「オマエ、何組だ?オレらと同じ1組じゃないよな?」


「…う、うん。わたしは3組だから、はじめましてだね…。」


「名前は?アイツらとはどんな関係だ?」


「…名前は、森本八重(もりもとやえ)……田村くんたちとは同じクラスで、その…いつも、“遊んで”くれてるよ……」


そう言うと森本八重ちゃんは暗い顔をして俯いてしまった。


「“遊んで”くれてるって…さっきみたいなことをされてるの?」


私がそう尋ねると森本さんは小さく頷いてくれた。だけどその表情は暗いままで、どう見ても仲の良いお友達ではないのは明らかだった。


「…その遊びって、どんなことをするの?」


「……隠されたわたしのものを探したり、追いかけっこをしたりするよ…で、でも、遊びだから、楽しいって言わなくちゃダメなの…。」


「それ、遊んでるんじゃなくて遊ばれてるだけだろ。本当は楽しくもねーんだろ?」


「……」


ぎゅっと閉ざされた口と震える肩に本当はその遊びが怖くて嫌なことなんだということがはっきりと判った。だから私は、きつく結ばれた手をしっかりと握って真っ直ぐその目を見つめた。


「…それなら、わたしがあなたのお友達になる!だから、あんな子達と遊んじゃダメ!」


「…えっ…?」


驚いた表情で見つめる森本さんに飛び切りの笑顔を返すと、何故か困ったような表情になって俯いてしまった。


「……ダメ、だよ…」


「どうして?お友達はたくさんいると楽しくて嬉しいんだよ!」


「…だって迷惑、だよ…クラスも違うのに…」


「迷惑じゃないしそんなの関係ないよ!だからお友達になろ!」


「…で、でもー…」


まだ何かを言おうとする森本さんの手を離して両手でグイッと俯く顔を持ち上げた。


「大丈夫!わたしが絶っ対に守るから!だからお友達になろう!」


大きく見開かれた柔らかな桜色の目は揺れていたけど、見つめ続けると真っ直ぐに見つめ返してくれた。そして、じんわりと目が潤んだと思ったら大粒の涙が零れ落ちた。



「……守って、くれる…?…迷惑じゃ、ない……?」


「うん!絶っ対守るよ!約束する!」


そう言って頬に当てていた手を下ろしてまた手を握ると、森本さんは優しく握り返してくれた。そして、ゆっくり頷くと小さな声で「ありがとう」と言った。


「じゃあ今日からわたしたちはお友達!あっ!わたしは天地美子!美子って呼んでね!」


「オレは東堂健、健でいいぞ。」


「…うん、分かった。…あの、よろしくね、美子ちゃん、健くん。」


「うん!」

「おう!」


私達が元気に返事をすると、森本さんはニコッと可愛らしい笑顔を見せてくれた。それに私達も笑顔を返すとランドセルを背負って一緒に学校を後にしたのだった。






続く…

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