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『みこがたり』  作者: 朝ノ月
幕間
55/75

第20話 作戦会議


ーーーーーーーーーーーーー






「…はぁ、はぁ…み、皆、大丈夫…?」


それから数分後、必死に雪の山道を走って何とか逃げることに成功した私は、透夜が作ってくれた結界の床に手を付きながら皆に向かってそう尋ねた。


「無事かどうかで言ったらそりゃあ無事だけどよぉ…」


私の問い掛けにそう返事をしたのは拗ねたように口を尖らせた健で、他の三人を見ても納得のいっていないような表情を浮かべていた。


「…あのさぁ、何で止めたの?あとちょっとでボッコボコにしてやれたのにさぁ、マジで最悪なんだけど。」


「…彼奴が美子を狙っていたのは言うまでもない。また、ああいうのは放っておくと後々面倒なことになる。故に逃亡よりも早急に退治すべきだ。」


苛立ちを全面に出して早口でそう捲し立てる秀に加えて透夜までもが珍しく私にそう抗議した。その言葉をしっかりと受け止めながら息を整えていると、不安げな表情の馨がおずおずと口を開いた。


「…美子、何か理由があるの?」


馨のその言葉に「うん」と頷くと、ゆっくり瞬きをしてから息を軽く吐いた。


「…その、上手く言えないんだけど、その、何となくなんだけど……あの猪、何だか苦しそうだったから…」


「苦しそう?」


繰り返された言葉にもう一度「うん」と頷いて答えると、胡座に片肘を立てて頬杖をつきながら私を睨む秀が鼻で笑った。


「苦しそう?何それ?あいつがいつそんなこと言ったの?てか俺には狂ったように暴れ回っているようにしか見えなかったんだけど?」


「確かにそんなこと言ってないかもしれないけど、でも、すごく苦しそうに呼吸してたから…」


「そんなの、暴れ回ってたから息切れしてたんじゃねーのか?あんなでけー身体で走り回ってれば苦しくもなんだろ?」


「それは、そうなんだけど…」


二人から問い詰められてだんだんと自信を失いつつあった時、隣に座っていた馨が小さな声で「あの…」と言った。


「…美子の言う苦しそうっていうのと直接関係するのかまでは分からないんだけど、僕も気になってることがあって…」


「気になってること?」


今度は私がそう繰り返すと、馨は私の目を見て頷いてからゆっくり口を開いた。


「…さっきのあの猪、僕の記憶が正しければ「猪笹王(いざさおう)」だと思うんだけど、その…今ここにいること自体がおかしいというか、絶対に有り得ないはずなんだ。」


「ありえない…?」


「何だよ。その猪笹王って。」


馨の言葉に私と健がそれぞれ疑問に思ったことを口にすると、結界の外に小人の式神を放った透夜がゆっくり瞬きをした。


「…「猪笹王」は、猟師に撃たれて亡霊と化した猪の妖怪だ。撃たれた際に片目と片足を奪われたためあのような姿をしており、亡霊となった後に旅人を襲っていたところをある高僧が地蔵尊を祀って封じ込めたと言われている。」


「はあ?封じ込めたぁ?じゃあ今さっきの自由に暴れ回ってた奴は何だったわけ?まさか夢でしたーとか言わないよね?」


「猪笹王」の説明に刺々しい笑顔で噛み付く秀をチラッと見ると、透夜は静かに首を横に振った。


「…封じ込めたと言っても、猪笹王には年に一度だけ自由の身となれる日が存在し、それを「果ての二十日」と言って奴の祠がある山では厄日とされている。」


「「果ての二十日」?」


「…年の果て、つまり十二月二十日のことだ。」


透夜のその返事に思わず首を傾げると、同じ疑問を抱いたのか健も私と同じように首を傾げた。


「何だそれ?十二月二十日なんてとっくに過ぎてんじゃねーか。なのになんでここにいんだよ?」


「…分からない。だが、馨の言う「有り得ない」とはその点から判断したものと考える。」


透夜がそう言って馨を見ると、馨はしっかりと頷いてそれに答えた。


「…ほ、ほらほら!やっぱりおかしいんだよ!おかしいのは、何か理由があるからでしょ?だから、倒しちゃう前にどうしたのって聞いてみようよ!もしかしたら助けて欲しいのかもしれないでしょ?ね?」


その答えにやっぱり間違っていなかったんだと自信を取り戻して慌てるようにそう提案すると、秀がわざとらしく大きな溜息を吐いた。


「別に今あいつがここにいる理由とかキョーミないんだけど。てゆーか、聞くって言ってもあんな暴れ回ってる奴からどうやって聞くの?てゆーか、そもそもあんな猪に人間の言葉なんか解んの?てゆーか、倒しちゃった方が早くない?」


「そ、それはその……あ!そうだ!罠に掛ければいいんだよ!」


「罠?」


秀の集中攻撃に頭を必死に回転させて思い付いたことをそのまま言うと、皆はキョトンとした顔で私を見つめた。


「そう!罠!透夜、前に手長足長を倒した時に動けなくなる罠を使ってたでしょ?それを今回も使って動けなくしちゃえばいいんだよ!そしたら倒さなくてもお話しできるよ!」


「へー、そんなこともできんのか、オマエ。」


私の言葉に健が驚いたような顔でそう言うと、透夜は頷く代わりに顎に手をおいた。


「…呪縛の術なら確かに奴の動きを封じることは出来るだろうが、問題はあれほどの巨体を封じるのに必要な場所と呪力が不足していることだな。」


「えっ…透夜、まだ力が…?」


馨から「朱雀の焔」を分けて貰ってもまだ力が不安定なのかと心配しながらそう尋ねると、透夜はゆっくり私を見つめて首を横に振った。


「…いや、そうではない。問題なのは、単に俺の実力が不足しているためだ。…あの時、手長足長に術を掛けた際は父上がいらっしゃった。故に父上の力をお借りして強力な呪縛の術を仕掛けることができたが、俺一人となるといつまで彼奴の動きを封じられるか懸念を抱かざるを得ない。」


「あっ、そ、そういうことか…」


あの御神体破損事件のせいではないことに良かったと胸を撫で下ろしてから、どうするべきかと考え込んでいると不意に隣に座っていた健の木刀が目に入った。


「…あ、そう言えば、健は雨がいっぱい降る梅雨の時期は修行しなきゃいけないって言ってたよね?」


「ん?おう、オレんちは【青龍】だから「水」とは相生の関係で力が強くー…」


「それだよ!そうせい!それを使おう!」


突然の大声にびっくりした表情のまま私を見つめる健に笑顔で「ありがとう!」と言ってから、今度は反対の隣に座っていた馨を振り返って見た。


「馨、玄武と相生なのはわたし達の中だと誰になるの?」


「えっと、玄武は「水」だから、それを生み出す関係にあるのは「金」の白虎だよ。」


その答えにまた笑顔で「ありがとう!」と言うと、今度は私達から距離を取って座っていた秀を見つめた。


「そういうことだから秀!今すぐ透夜と手を繋ぐかぎゅってして!」


「なーにが「そういうことだから」なの?俺全然納得も理解もしてないんだけど?てか絶対【玄武】となんか手も繋がないし、ましてや抱き合ったりなんかしないから、気持ち悪い。」


「…美子、俺もそれについては遠慮したい。力を得ると共に素行の悪さ、教養の無さまで影響を及ばされかねない。」


心底気持ち悪そうに顔を歪めてそう反論した二人は、またいつものように険しい目で睨み合っていた。


「あはは!はーおもしれぇー!いいんじゃね?手ぐらい繋げよ。そしたら少しくらいは仲良くなれんじゃねー?」


そのやり取りが余程面白かったのか、床をバシバシ叩きながら大口で笑って嫌味を言う健に、秀と透夜は更に顔を歪めて鋭い視線を向けた。


「…はぁ、駄犬は黙ってろよ。てゆーかさぁ、そんなメンドーなことしなくても俺一人であいつの動きぐらい封じられるんだけどー?」


「ダメ!さっきのオコジョだって皆がバラバラで追い掛けてたから捕まえられなかったでしょ?だから、一人でやるっていう提案は受け付けません!」


秀の言葉に胸の前で大きなバッテンを作りながらそう言い返すと、一向に手を繋ごうとしない二人を見つめて溜息を吐き、自分の首に巻いていた黄色いマフラーを外した。そして、皆と少し離れた結界の壁の所に座っていた秀の元まで行くと、そのマフラーをえいっ!と秀の頭に被せてお風呂上がりにタオルで頭を拭くみたいにゴシゴシとマフラーを動かした。


「ちょ、ちょっと!?な、何してんのさ!美子!」


「もう!動かないで!手を繋いでくれないなら仕方ないでしょ!」


止めさせようと私の腕を掴んでくる秀にそう言い返しながらマフラーで秀の頭を少しの間だけゴシゴシすると、今度は手に着けていた手袋を外して秀の両手で挟むようにしてから手を洗うように動かした。


「…ねぇ、これマジで何なの?髪もボサボサにしてくれちゃって、どうしてくれんの?」


「よしっ!こんなものかな?」


腹立たしげな声は無視して頭に被せていたマフラーと手の中から手袋を取ると、今度は透夜の方へ振り向いて近寄って行った。そして、不思議そうな目で私を見る透夜の首にマフラーを巻き、手に手袋を着けてよしっ!と頷いた。


「秀でいっぱいゴシゴシしたマフラーと手袋を透夜が着けたからこれで相生になるね!だからこれで解決!」


かなり強引な解決策に、皆ポカーンと口を開けて誇らしそうにする私をしばらくの間無言で見つめていた。



「…くくくっ、あっははは!美子さすがだな!確かに解決したな!」


「……ふふっ、そう、だね。ふふっ…、ご、ごめん。笑っちゃ、いけないって分かってるんだけど……ふふっ。」


おかしく堪らないと大口で笑う健と堪え切れず身体を小さく震わせながら笑う馨により一層胸を張ると、当人達は諦めたように大きな溜息を吐いた。


「うーん、でももう一個の方はどうしようね?この山の中に広い場所なんてあるのかな?」


健か秀にこの辺の木でも倒して貰わなきゃかな…なんて少し物騒なことを考え始めた時に、隣で笑い転げていた健が目に浮かんだ涙を拭いながらムクリと起き上がった。


「はーあ……あ、美子、それならオレ良い場所知ってるぞ。」


「えっ!?ほ、本当?!」


思わぬ言葉に慌てて健に近寄ると、健はニカッと晴れやかな笑みを浮かべて頷いた。


「ああ!ここからちょっと下って登ったとこに修行の時に使う開けた場所があってさ、透夜の罠がどれくらいでけーのかは知らねーけど、多分あのブタくらいなら余裕で入るぞ。」


「そ、そうなんだ!ありがとう!健!」


有り難い情報提供に健の手を握って満面の笑みで感謝を伝えると、私のマフラーを巻き直していた透夜を見つめた。


「だって、透夜!これで罠作れるよね?」


「…相生の力が働くかは未だ不明だが、尽力しよう。」


そう言ってマフラーの次に手袋を着け直した透夜は真剣な表情を浮かべていて、その凛とした目がとても頼もしく感じた。


「それで?」


「え?「それで?」って何が?」


猪笹王に仕掛ける罠についての問題がなくなって安心している時に聞こえてきた言葉に間抜けな声でそう返すと、ボサボサになった髪を直していた秀が何度目かの溜息を吐いた。


「何その間抜けな顔。まさか罠作っておしまーいとか思ってるわけ?」


「う、うん…。」


「はっ、甘いねー美子ちゃん。罠作るのなんかはいつだってできんの。問題は、どうやってその罠にあいつを掛けるかじゃないのー?」


「あっ…」


そう小さく声を上げてから思わぬ見落としに返す言葉を失ってしまった。そして、再び険しい表情でどうするべきかと必死に頭を回転させていると、不意に透夜と目が合ってさっきの言葉が思い出された。


「…あっ!!そうだ!それなら罠のところまで鬼ごっこすれば良いんだよ!」


「鬼ごっこ…?」


不思議そうな表情を浮かべながらそう繰り返した馨に「うん!」と元気よく答えると、ヒントをくれた透夜を見つめて口を開いた。


「透夜、さっきあの猪笹王はわたしを狙ってるって言ってたでしょ?だから、わたしが鬼ごっこで逃げる方をやって、罠のところまで連れて行けば良いんだよ!」


「…美子、待ってくれ。確かにそうは言ったが、その案だと美子が最も危険な囮役を務めることになるため賛成はできない。」


私の提案にすかさずそう返したのは真剣な表情に少し不安を滲ませた透夜で、それに賛同するように頷いたのは馨だった。


「美子、僕もそれには賛成できないよ。ただでさえ険しくて迷いやすい山道なのに雪が降り積もって滑りやすくなってるし、何より猪笹王のあの俊敏さを考えると美子が囮役になるのは難しいと思う。」


「難しいって、別にオレが美子をおんぶして罠のとこまで行けば大丈夫だろ。オレ、あのブタより足はえーし。」


「はぁ、お前自分の役割忘れたの?罠を仕掛ける場所知ってんのお前だけなんだから、お前がおんぶして美子連れて行けるわけなくない?てゆーか、すぐおんぶだ抱っこだで美子に触ろうとすんのやめてくんない?不愉快なんだけど。」


その言葉を皮切りに口喧嘩を始める健と秀を呆れた目で見つめながら言われたことを整理すると、答えは意外と簡単なものであることに気が付いた。


「それなら、秀がわたしのことをおんぶして罠のところまで連れて行ってよ。そしたら問題ないでしょ?」


私がそう言った瞬間、喧嘩の声でうるさかった結界の中がまるで誰もいないかのように静まり返った。何だろうと首を傾げながら秀を見つめて返事を待っていると、秀が口を開くよりも先に私の隣にいた健が急に私の両肩を掴んで顔を近づけて来た。


「ダ、ダメだっ!!美子をおんぶすんのは!オレだけのだから!!オレがする!!」


耳が痛くなるくらいの大声で慌てたようにそう言った健は、今までに見たことがないくらい余裕がなくて必死の形相だった。


「ダメって…仕方ないでしょ?健は透夜のこと案内してくれないと困るもん。だから健がおんぶはダメだよ。」


きっぱりとそう言い切ってから健の手をすり抜けて秀の正面に行くと、石像みたいに全く動かない秀と見つめ合った。


「…?おーい、しゅーう?」


瞬きも呼吸もしてないから流石に心配になってそう声を掛けながら顔の前で手を振ると、目が覚めたみたいにはっと目を見開いてから急に顔を真っ赤にしてものすごい速さで結界の隅まで後ずさった。


「…は、はぁあ?!な、な、何言ってんの!?な、何で俺が、お、おんぶなんかしなきゃなんないの!?意味分かんない!!」


「意味分かんないって…だってさっき秀が健はダメって言ったんだよ?それに、健と同じくらい足の速い秀なら猪笹王と鬼ごっこもできるでしょ?だからおんぶし」


「やっぱダメだ!!オレがする!!」


隅まで逃げた秀に詰め寄っておんぶしてとお願いしようとするのを遮るように後ろからまた健が肩を掴んでそう叫んだ。


「だから、ダメなんだって健。さっきも説明したでしょ?諦めてよ。」


「イヤだ!!ぜってぇオレがする!!」


「俺だって嫌だから!お…おんぶなんて!子供っぽいこと、絶対しないから!!」


大声で前からも後ろからも嫌だと子供の駄々みたいに叫ばれて何だか少しムカっとした。だから私も、それに負けないようにしないとという謎の感情が湧き上がった。


「もう!うるさい!とにかく秀がおんぶして!健はお願いしなくてもわたしが歩いたり走ったりしただけでいつもしてくれるよ?!」


「はあ?!そんなの知らないんだけど!?てゆーか、お前が所構わずおんぶしまくるからこんな恥ずかしげもなくおんぶ強請れるようになっちゃったんじゃないの?!マジで反省しろよ!!」


「別にどこでオレが美子をおんぶしてたってオレの勝手だろ!!てか、おんぶも抱っこもオレが好きでやってんのに、何でオマエに怒られなきゃなんねーんだよ!?」


それから暫く三人でおんぶについて言い争っていると、申し訳なさそうな表情を浮かべた馨がおずおずと手を上げて口を開いた。


「…あの、水を差すようで悪いんだけど、そろそろどうするか決めないと…」


「だから!秀がわたしをおんぶして!!」


「だーかーら!嫌だって」


「それから!健はそんなにおんぶしたいなら罠の場所まで透夜をおんぶしてなさい!!」


秀の言葉を無視して透夜を指差しながらそう叫んだ瞬間、何かを言おうとしていた健が口を開けたまま固まった。すると突然、「あっはははは!!」という笑い声が聞こえてきたと思ったらさっきまでおんぶは嫌だと怒鳴っていた秀が床をバシバシと叩きながら大笑いしていた。


「あはははは!!なにそれ最高じゃん!ちょー見たいんですけど!ほら、さっさとやれよ。お前らのだーいすきなご主人様からのご命令ですよー?」


「…は、はぁ!?す、するわけねーだろ!!オレは!美子にしかやんねーんだよ!」


「…美子、すまないがそれは断る。この山くらいなら自分で走れる。…あと、お前らはいちいち俺を巻き込むな。迷惑だ。」


「……っふふ…」


そのやり取りを通して何となく穏やかになった空気に大声を出して乱れていた呼吸を整えると、振り返ってもう一度秀を見つめた。


「はーあ、笑った〜……ん?何?あー、美子もおんぶだっけ?しょーがないなぁ〜、特別ねー?」


「…えっ、いいの?!」


さっきまであんなに嫌がっていたのが嘘だったかのような笑顔に思わずそう聞き返すと、秀はニコニコと綺麗な笑顔を浮かべて頷いた。


「本当は嫌だけどね?でも、今は面白くて気分が良いから特別にいいよー。」


「あ、ありがとう!それじゃあお願いね!」


すごい気分屋だなと内心驚きながらも気が変わらないうちにそうお願いすると、秀は「はいはい」と軽く頷いてくれた。


「よしっ!それじゃあ、透夜と健は罠の場所に行って、わたしと秀は猪笹王と鬼ごっこして連れて行くでしょ?あ、そしたら馨もいっぱい動くわたし達よりも透夜達と一緒に罠の方にいた方がいいよね?」


「そうだね。僕も何か…あ、秀が道に迷わないように何か道標でも作れないか考えてみるよ。」


「別にこの山の中ぐらいなら匂いで辿れるけど。てゆーかさ、お前【朱雀】なのに弓もなしに闘えんの?てゆーか、常に弓持ってないとか意識低いんじゃない?」


「そ、そうだよね、ごめん…」


秀のその言葉に少しビクッと身体を震わせて悲しそうな表情をする馨に慌てて口を開いた。


「違うよ!馨が弓を持ってないのはわたしと朱雀がダメって言ったからだよ!それに!今日は闘わないんだから武器なんかなくっていいの!」


「えー?でも不測の事態ってよくあるじゃん?その時に闘う手段がなかったら弱い奴なんてすーぐ終わりだよ?」


「そ、そうかもしれないけど!」


何とか言い返そうと思ったけど、馨がそっと私の腕に手を置いて「大丈夫だよ」と笑った。その優しげな微笑みに、何とか馬鹿にだけはされないようにと必死に考えを巡らせた時、さっき透夜が外に放った式神の小人が、猪笹王から逃げる時に脱げてしまった私の長靴を拾って帰って来た。


「…意外と近くに落ちていたようだな。美子、これで間違いないか?」


「えっとね、確かここに名前がー…あっ、あった!うん!ありがとう!」


長靴の内側に書いてある名前を確認してからお礼を伝えて長靴を履こうとすると、透夜が突然私の足に触れた。何だろうと見つめていると、冷たかった靴下が急に冷たくなくなって透夜の離れていく手の上には水の玉が浮かび上がった。


「…あっ!そうだ!ねぇ、透夜。その水を操る力を使ってさ、雪で何か作れないかな?」


「…雪?」


外に水の玉を放り捨てた透夜は私の言葉に驚いたような顔をしてそう繰り返した。


「そう!だって、雪も水でしょ?食べたことあるから知ってるよ!だから、水みたいに操れるんじゃないかな?!」


「……」


何かを考えるように顎に手を当てて黙り込んで雪を見つめる透夜を期待に満ちた目で見つめていると、呆れたような大きな溜息が聞こえてきた。それに振り返ると、有り得ないとでも言いたそうな顔をした秀が私を見ていた。


「うーわ、雪なんか食べたの?きったな〜い。お腹壊しても知らないよー?」


「何で?汚くないよ!ちゃんと真っ白のところ食べたもん!かき氷と一緒だよ!」


「うーん…白くて綺麗でも、空気中のゴミを含んでたりするから、流石に食べない方がいいよ。美子。」


ゴミという言葉を聞いてギョッと顔を引き攣らせていると、ずっと考え込んでいた透夜が不意に雪を両手で掬った。そして、ゆっくり目を閉じてゆっくり目を開いた次の瞬間、手の上にあった雪の山が細長い蛇のように動いて白い弓のような形になった。


「わぁ!すごい!」


「へー、意外と器用だな。透夜。」


驚きの声を上げると漸くおんぶの動揺が収まったのか、健が面白そうに笑ってそう言った。


「…物は試しとはよく言ったものだな。だが、液体の水とは違い、固体の集合である雪は扱いが複雑なため持続は期待できない。…使えても一度きりだろうな。」


そう言って作り上げた雪の弓を馨に差し出す透夜に慌てて口を開いた。


「あっ、待って!透夜!馨は大人になるまで弓を使っちゃダメなの!だから、できればその、別の…あっ!あのお祭りの、射的の鉄砲みたいなのが良いな!」


弓は身体が成長するまで使わないと朱雀と約束したためなるべく負担にならなそうな武器をお願いすると、健が不思議そうな表情で首を傾げた。


「何でダメなんだ?どうせなら使い慣れた弓の方がいいんじゃねーのか?」


「美子、一回くらいなら大丈夫だよ。それに、作り直して貰うのも大変だろうし…」


「絶っ対ダメっ!!朱雀と約束したの!弓を使って馨が肩を痛めたら、朱雀も絶対悲しむよ!」


弓は絶対ダメだと言い張ると、それを静かに見つめていた透夜がまた雪を掬ってゆっくりと瞬きをした。すると次の瞬間、掬ったばかりの雪が手の上にあった白い弓に巻き付くように動いたかと思えば、横に寝かせた弓の下に鉄砲がくっついたような武器が出来上がった。


「これは…?」


「…(いしゆみ)だ。使用したことがないため使い勝手が良いのかまでは不明だが、これで懸念は晴れるだろうか?」


そう言って私を真っ直ぐ見つめる透夜に思わず馨に目線を送ると、馨は驚いたように目を瞬かせてから躊躇いがちに手を伸ばして差し出された弩を手に取った。


「…あ、ありがとう。その…大事に、使わせてもらう、ね。」


人からの親切に慣れてないのか、少し緊張しながらも何とか笑顔でそうお礼を言った馨にほっと胸を撫で下ろすと、気合を入れるようによしっ!と立ち上がった。


「これで準備万端だね!それじゃあ最後に!皆、手出して!」


こうだよと見本を見せるように手を真っ直ぐ伸ばしてそう言うと、皆はキョトンとした顔で私を見つめていた。


「手?何かすんのか?」


「うん。「えいえいおー」って知ってる?皆で頑張ろう!って時にやるんだって!だから、わたし達もやろう!」


そう説明して一人ずつ手を引っ張って立ち上がらせると、もう一度手を真っ直ぐ伸ばして「はい!」と言った。


「えー…何それー…めんどくさー…俺抜きでやってくんない?」


「ごちゃごちゃうるせぇな!サクッとやればいいだろ!」


そう言って嫌そうな顔で私達の輪から離れようとする秀に、そう言い返すと健は秀の手を掴んで私の手の上に重なるようにかざして置いた。


「はぁ?!ちょっと!触んないでよ!気持ち悪いっ!!」


「オレだって繋ぎたくてやってんじゃねーよ!ただ美子がやりてーって言ってんだから我慢してろ!!」


触られるのが余程嫌なのか、激しく暴れる秀に早くしないと健が危ないと察して慌てて馨と透夜を見つめた。


「…俺の知っている「鋭鋭応」とは異なるようだが…美子の言う「えいえいおー」とは、ここに手を置くだけで良いのか?その先を知らないのだが、問題ないだろうか?」


「うん、後は美子に任せれば大丈夫だと思うよ。」


馨の返答に静かに頷くと透夜はゆっくりと健の手の上に手を重ね、馨もその透夜の上に手を重ねて置いた。私の手の上に重ねられた手の塔を見つめて一人笑顔を浮かべると、もう片方の手を皆の手の上に重ねて置いて息を吸い込んだ。


「よしっ!それじゃあ…猪笹王大作戦、皆で成功させるぞー!!えい、えい、おー!」


大きな声で今回の目標と掛け声を言ってから、最後の「おー」で重ねられた手を全部空に向かって投げるように持ち上げた。そして、片手で万歳をしているような体勢の皆の正面に素早く立ってその高々と上げられた手に元気を分け与えるようにタッチをして行った。


…その溌剌としたやり取りを最後に皆と笑い合ってから、作戦を実行するために結界の外へ出てそれぞれの道を走り始めたのだった。






続く…

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