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『みこがたり』  作者: 朝ノ月
幕間
46/75

第11話 祈りと想い


ーーーーーーーーーーーーー






「おじいちゃん!もうのれん下ろしていいよ!わたし看板片付けるから!」


「はい。」


用意していた分のお菓子を売り尽くして店仕舞いを始めたのは帽子の子が帰ってから二時間程経った頃で、太陽が西に傾いて空が宵闇に染まる頃だった。


「おじいちゃんのおかげでお菓子がいっぱい作れるようになったからお店もこんな時間までできるようになったね!」


「ええ、本当に有難いことね。」


いっぱいお菓子を食べてもらえて嬉しいね、なんておばあちゃんと言い合っていると暖簾を下ろし終えて戻って来たおじいちゃんの後ろから健がひょこっと現れた。


「あっ!健!今日もお迎えに来てくれたの?」


「おう!こんな暗くなってんのに美子一人で歩かせる訳には行かねーからな!」


稽古のためお店のお手伝いには来られなくなったけど、こうしてお店が終わる頃には必ずお迎えに来てくれる健に「ありがとう!」と満面の笑みで伝えた。そして、健と一緒にお店の片付けをしようとした時、今度は「こんばんは。」と言う綺麗な声が扉の方から聞こえてきた。


「あ!こんばんは!梅沢さん!」


大きなお腹のその女性は前に私と健のことを「座敷童子」だと言った常連さんの一人の梅沢さんで、買い物帰りなのか荷物をたくさん持っていた。


「ごめんなさい、お菓子はもう売り切れちゃって…」


この前みたいにお菓子を買いに来たのかと思ってそう謝ると、梅沢さんは小さく笑って私の頭を優しく撫でてくれた。


「心配しないで。今日は電話で先に注文してあるの。」


そう言って顔を上げた梅沢さんの目線を追うように振り返ると、調理場から黒い重箱を持ったおばあちゃんが現れてそれを丁寧に風呂敷に包んだ。


「急な注文で大変だったでしょう?明日親戚が集まることになって、皆ここのお菓子が食べたいって言うもんだからダメ元でお電話したんだけど、大丈夫と言ってくださってとっても助かりました。」


「いえいえ、有難いことですよ。あ、そうだ。美子ちゃん、少しお会計をお願いしても良いかしら?」


「…?はい。」


おばあちゃんにそう言われてレジの前まで行ってお会計を済ませると、梅沢さんは佐藤のおじいちゃんを見つめて口を開いた。


「…あら?そう言えば、暫く来ないうちにまた新しい方がいらっしゃるのね。お弟子さん?」


「ああ、失礼しました。佐藤と申します。こんな見て呉れですが、この中では一番若い弟子です。」


そう言って会釈するおじいちゃんに梅沢さんは可笑そうに笑ってからお返しの会釈をした。


「…ふふ、なるほどね。電話をした時、おばあちゃんの声が何だか嬉しそうだなと思ったんだけど、新しいお弟子さんが増えたからだったのね。」


私達の顔を順に見ながら独り言みたいに言った梅沢さんは、鈴が転がるような声でずっと笑っていた。だけどそれは、面白くて笑っていると言うよりも安心して笑っているように感じた。するとその時、二階に上がっていたおばあちゃんがゆっくりと階段を下りて現れたかと思えば、その手には薄紅色の丸くて小さなボールがあった。


「…まあ、これは…」


「いつかお渡ししようと作っておいたんです。宜しければ受け取ってくださいな。」


「ばあちゃん、それ何だ?」


何か見たことあるなー…と思いながらその光景を眺めていると、健が首を傾げながらそう尋ねていた。


「これは手毬よ。女の子の手遊び道具で、昔から自分の子供に良縁が訪れるように、何事も丸く収まるようにと手毬柄の産着や七五三のお祝い着を着せてあげる風習があるのよ。だけどほら、着る物って成長したら着られなくなってしまうでしょ?だから私はいつもお祝いに手毬を作ってお渡ししているの。御守りとして、いつまでもその子を守ってくれればいいなと思ってね。」


私と健に手毬を見せながらそう丁寧に説明すると、おばあちゃんはもう一度梅沢さんにその手毬を差し出した。


「私にはこんなことしか出来ませんが、いつもご贔屓くださる梅沢さんのお子様に幸せが訪れますようにお祈りしております。」


「…ありがとう、ございます。おばあちゃん…」


涙ぐみながらお礼を言ってその手毬を受け取った梅沢さんは、おばあちゃんをぎゅっと抱きしめてからもう一度「ありがとう」と言ってお店を出て行った。


「手毬かぁ…わたしのお家にもあったような気がするなぁー…。」


「オレんちにはねーな。探してみたら意外とすぐに見つかるんじゃねーか?」


健のその言葉に確かにそうかもと思って頷いてから、明日の仕込みのために調理場へ入ろうとした時、おばあちゃんが「待って。」と私達を呼び止めた。


「実はね、明日から一週間お店をお休みすることにしたの。だから今日はお片付けだけでいいわ。」


「えっ、一週間も?」


その言葉に思わずそう答えてしまった。と言うのも、おばあちゃんの用事とかで定休日以外にお店を休むことはこれまでもあったけど、お休みするのは一日だけで一週間もお休みが続くことなんかなかったからだ。だから、そんなに休まなくちゃいけない程のことが…?と心配しながらおばあちゃんを見つめていると、そんな心配を吹き飛ばすかのような穏やかな笑顔を浮かべた。


「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫よ。ただ、遠くにいるお友達に逢いに行ったり孫の所に顔を出そうと思っているの。特に孫は妊娠しているから、少しでもお手伝いに行きたくてね。」


「あ、そうなんだ…」


行き先が病院じゃなくて良かったと胸を撫で下ろして、おばあちゃんにゆっくり休んでもらう良い機会かもと納得して口を開いた。


「分かりました。じゃあ、今日はお片付けだけして帰ります!」


「ええ、お願いしますね。」


その言葉に「はい!」と元気よく返事をしてから健とおじいちゃんと手分けして食器や掃除をして片付けていった。


「よしっ!お片付け完了!おばあちゃん、他にもやることありますか?」


最後の湯呑みを拭いて食器棚に戻してからそうおばあちゃんに聞くと、おばあちゃんはお店の中を見渡してから首をゆっくり横に振った。


「いいえ、もう大丈夫よ。お疲れ様でした、美子ちゃん、健君、佐藤さん。」


「オレは片付けしかしてねーから、全然お疲れ様じゃねーけどな。」


健のその言葉に皆で笑うと、おばあちゃんは冷蔵庫から今日のお駄賃を取り出してそれぞれに手渡した。ワクワクと包みを開けてみると、中にはまん丸の最中が入っていた。


「わぁー!今日は最中だぁ!ありがとうございます!」


笑顔でおばあちゃんにお礼を言ってから、お会計台の裏に置いておいたリュックの中にそれを慎重に入れて背負った。


「あ、佐藤さん。明後日、どうしてもお断り出来なかったご注文がありまして、私の代わりに作っていただきたいんです。でもまだ佐藤さんにお教えしていないお菓子なので、この後少し残っていただけますか?」


「分かりました。」


「えっ!?わ、わたしも教えて欲しい!」


帰ろうと扉に伸ばした手を急いで引っ込めて振り向いてそう言うと、おばあちゃんはクスッと笑って頭を撫でた。


「そうねー…でも美子ちゃんはお大福を綺麗に包めるようになってからかしら?」


「うっ…!」


今の課題となっている豆大福の餡を包む作業を思い出しては冷や汗を流すと、笑顔のおばあちゃんに背中を押されてお店の外まで連れて行かれた。


「ふふ、さあさあ、子供はもうお帰りなさい。夜は怖ーいお化けが出ますよ?」


「…お化けなんか怖くないです。」


拗ねたように口を尖らせてそう言うと、おばあちゃんは益々可笑そうに笑った。


「あらそうなの?でも私は怖いわ。二人がお化けに悪戯されるって考えたらもっと怖いの。だから、婆のためだと思ってまだ明るいうちに安全なお家にお帰りなさい。ね?」


お菓子作りでおじいちゃんにまた置いて行かれると思うとすごく嫌だったけど、おばあちゃんは私達のために言ってくれているのだと解ったから渋々頷いた。それにおばあちゃんはまた小さく笑って頭を撫でて「良い子ね」と言ってくれた。


「…それじゃあ、おばあちゃん。また一週間後に来ます!」


「またな!ばあちゃん!」


「ええ、またね。」


手を振ってお別れをすると、いつものように健と手を繋いで商店街を走り始めたのだった。







ーーーーーーーーーーーーー







「…ふわぁ〜あ…」


大きな欠伸に涙の滲む目を擦ってとぼとぼと廊下を歩いていたのは夜の九時になるちょっと前で、ご飯もお風呂もお勉強も済ませて後は寝るだけだった。


(…洗う物、洗濯かごに出して置くの忘れてた……眠い…)


いつも洗濯物はお手伝いさんが朝にやってくれるから、夜のうちに洗って欲しい物をお風呂場の洗濯籠に出して置く約束があるのだが、今日は苦手な玉串と大幣を作らなければいけなくて、それにずっと気を取られていたためすっかり忘れていたのだ。


(…早く出して寝よう……ん?)


漸く辿り着いたお風呂場でもう一度欠伸をしてから引き摺って持って来たリュックを開けると、リュックの中身がいつもよりスカスカなことに気が付いた。何でだろうと不思議に思いながら最中、ノート、筆箱、タオル、三角巾、マスク、羽織を取り出して空になったリュックをぼんやり眺めた。


「……あっ!エプロンだ!」


半分寝ている頭を叩き起こしたその答えを大声で叫ぶと、今日の出来事が頭の中に映し出された。


(…そうだった…お菓子を作ってる時に水をこぼしちゃって、エプロンが濡れちゃったからおばあちゃんが二階で干してくれてたんだった…)


事の経緯を思い出してはしまったと頭を抱えた。何故かと言うと、お店を手伝うようになってからお茶をそれなりに美味しく作れるようになり、禁止されていたお料理のお手伝いも最近漸く許してもらえるようになっていたからだった。


(…私のエプロンはあれしかなくて、エプロンがないとお手伝いができないのに……それに、おばあちゃんは明日から一週間お出掛けしちゃうって……)


お店が終わった後の会話を思い出しては、立ち上がってどうしようとお風呂場をうろうろと歩き出した。そして、ある考えに辿り着いて静かに頷き、急いで三角巾とマスクと羽織を洗濯籠に、それ以外をリュックに入れて廊下を走って行った。




………

……




お風呂場を出て私が真っ先に向かったのはお布団の待っている自分の部屋ではなく靴を脱いだり履いたりする玄関だった。玄関に来た理由は勿論、お風呂場で思い付いた“ある考え”を実行するためだった。


(おばあちゃんがお出掛けする前に何としてでも取りに行かなくちゃ。じゃないとお手伝いできないもん!)


多分お父様に「取りに行きたい」とお願いしても私にお料理のお手伝いをそこまで期待していないから許してもらえないだろうと思って、それなら内緒で行ってしまえというかなり大胆で無茶な行動だと我ながら思った。だけど、エプロンがないせいで一週間もお料理ができないのはどうしても嫌だった。


(よしっ!行くぞ!)


リュックを玄関の壁に立て掛けて靴を履き終えると、立ち上がって玄関の扉に手を掛けた、その時だった。


「…美子?」


誰もいなかったはずの廊下から名前を呼ばれて弾かれたように振り返ると、そこには寝間着姿のお兄様が驚いたような表情で立っていた。


「こんなところで何してるの?もう眠る時間だよ?」


「…え、えっと…その……」


何て言おうか必死に考えるけど、靴を履いて玄関の扉に手を掛けているところなんて誰がどう見たって外に行こうとしている姿だとしか思えず俯いて黙り込むと、廊下に立っていたお兄様がゆっくり歩いて近付いてきた。そして、お兄様が私の正面に立ち止まったから怒られるんだろうなと思っていたら、お兄様は私の手を優しく取って俯く顔を覗き込むようにしゃがんだ。


「美子、怒らないから言ってごらん?どうしてこんな時間に外に行こうとしてたの?」


微笑みながら優しい声でそう理由を尋ねるお兄様に、罪悪感のようなものが湧き上がって泣きそうになった。だから、罪を償うみたいに唇をギュっと噛んでから口を開いた。


「……エプロン、忘れちゃったから…取りに行こうと、思って……」


「エプロン?」


その言葉にコクンと頷くと、お兄様は不思議そうな顔で言葉を続けた。


「忘れたってことは「はなのえん」だよね?それならお店の人が代わりに洗ってくれるだろうし、明日もお手伝いに行くのにどうして今取りに行くの?」


「…おばあちゃん、明日から一週間お出かけするから、お出かけする前に取りに行かないと、お料理、できなくなっちゃうから……」


私がそう説明するとお兄様は少し目を見開いてから「なるほど」と頷いてくれた。


「美子、お父様には言ったの?」


その質問に首を横に振って答えると、お兄様はやっぱりねという顔で笑った。そして、私の頭を優しく撫でると扉の鍵に手を伸ばして音がしないようにゆっくり動かした。鍵の開く微かな音に混乱しながらお兄様を見つめると、お兄様は艶やかに笑って口の前に人差し指を置いた。


「…夜に出歩くなんて本当はいけないことだけど、可愛い美子のためなら僕も共犯になってあげる。でもお父様には内緒だよ?」


「…っ!はい!」


内緒という言葉から漸くお兄様も一緒に取りに行ってくれるのだと解って満面の笑みでそう返事をすると、お兄様は私の手を握って静かに玄関の扉を開けて夜の世界に私を連れ出してくれたのだった。






ーーーーーーーーーーーーー






「お兄さま、あそこがおばあちゃんのお店です!」


昼とは違って通る人がほんの数人しかいない静かな夜の商店街で隣を歩くお兄様に目的地である「はなのえん」を指差しで教えてあげるとお兄様は微笑んでくれた。


「とっても素敵なところだね。二階は電気が点いているから起きていらっしゃるみたいだね、良かった。」


そう言うと、お兄様は扉の横にあるインターフォンを押した。


『…はい、どなたですか?』


「夜分にすみません、天地と申します。妹がお世話になっております。」


インターフォンに近付いてそう挨拶すると、おばあちゃんは『あらまぁ』と驚いたような声を上げた。


「おばあちゃん!美子です!エプロンを忘れちゃったのでお兄さまと取りに来ました!」


私もいる事と来た理由を聞こえるように背伸びしながら言うと、おばあちゃんは『あっ』と小さく言って私達に少し待つように言った。それから三分後、暗かった一階に電気が点いて扉の鍵が開く音がした。そして、ゆっくりと開かれた扉の奥には髪を下ろしたおばあちゃんが少し困ったような顔で立っていた。


「こんばんは!おばあちゃん!」


「こんばんは。こんな姿でごめんなさいね。」


恥ずかしそうにそう言うと、おばあちゃんは持っていた紙袋を私に差し出した。それを受け取って中を見ると、綺麗に畳まれた私のエプロンとどら焼きが二つ入っていた。


「私も美子ちゃんが帰った後にエプロンのことを思い出してね、明日の朝に美子ちゃんのお家に届けようと思ってたの。でもまさか、取りに来てくれるなんて…本当にごめんなさいね。このどら焼きはそのお詫びよ、光君と一緒に食べてね。」


「えっ?おばあちゃん、お兄さまを知っているんですか?」


お兄様はさっき“天地”としか言っていなかったのに名前を呼んだからビックリしてそう言うと、おばあちゃんは優しく微笑んで頷いた。


「ええ、天地さんも常連さんの一人だったのよ。だから光君が生まれたことをわざわざご挨拶に来てくださったの。」


「そうでしたか。すみません、子供の頃とはいえこんな素敵な方を忘れていたなんて。」


お兄様がそう言って軽く頭を下げると、おばあちゃんは可笑そうに笑った。


(…そう言えば、お父様もそんなこと言ってたな…お祖父様とお祖母様が好きだったって…おばあちゃんがお兄様を知っているのは、お父様がお兄様を連れて来たからだけど、おばあちゃん、私のことは知らなかった……)


おばあちゃんとの出会いやお父様のお話、そしてお兄様を知っていたことから知ってしまった寂しさにズキズキと胸が痛み出した。その痛みを忘れたくて見つめていたおばあちゃんの顔から目を逸らすと、お店の中がいつもとは少し違うことに気が付いた。


「…あれ?穴が空いてる…?」


何が違うんだろうとお店の中を見渡していると、いつもは座布団が四つ置いてあるテーブル席近くの正方形のテーブルみたいな大きな椅子に大きな四角い穴が空いていることに気が付いた。近寄ってその穴をよく見ると、中には灰色の砂が敷き詰められていてその真ん中には焼けたような黒い木が置かれていた。


「これは囲炉裏よ。」


「いろり?」


初めて聞く言葉におばあちゃんを見上げると、おばあちゃんはゆっくり頷いた。


「囲炉裏は暖を取ったりご飯を作ったりする時に使う物よ。いつもは蓋をして椅子としてお客様にお使いいただくけど、冬だけはこうして蓋を取って暖房代わりにしたりお団子を焼いたりするのよ。」


「へぇー!囲炉裏ってすごいですね!でもこれ、全然暖かくないですよ?」


そう言って囲炉裏の上の空気を撫でるように手を動かすと、おばあちゃんはふふっと笑った。


「それはそうよ。だって火を着けていないもの。」


「火…コンロみたいにボタンがあるんですか?」


ご飯を作る時に使う火と言えば台所にあるコンロだと思ってそう質問すると、おばあちゃんはまた可笑そうに笑った。


「違うよ、美子。囲炉裏は中央に置いた薪や木炭に火を着けることで暖かくなるんだ。」


おばあちゃんの代わりにそう簡単に説明してくれたお兄様に「へぇ〜!」とワクワクしながら返事をすると、真ん中に置かれた黒い木をじっと見つめた。


「囲炉裏を知っているなんて光君は物知りさんなのね。」


「昔話の絵本とかに描いてあったりしますからね。少し気になって調べてみたことがあるんです。それにしても、囲炉裏がある家なんて初めてで驚きました。」


おばあちゃんはお兄様のその言葉にゆっくり瞬きをすると、木の枠の所に腰掛けて愛おしそうに木の板を撫でた。


「…この囲炉裏はね、私の夫が作ってくれたものなの。冬は皆、焼き立ての温かいお団子が食べたいだろうからってね。あの人、不器用なくせにやるって言ったら聞かなくって、手だけじゃなくて全身にいくつも傷を作ってたわ。」


思い出を語るその声はまるで恋する少女みたいに可愛らしくて、囲炉裏を見つめる目は空に瞬く星を映したみたいに輝いていた。


「おばあちゃん、冬っていつからですか?この囲炉裏を使って早くお団子を焼きたいです!」


その姿から、きっとおばあちゃんにとってこの囲炉裏は掛け替えの無い宝物なんだろうなと思ってそう言うと、おばあちゃんは花が綻ぶような笑顔を浮かべた。


「いつからかしらね?冬を司る玄武様がこの町にいらっしゃったらだから、玄武様の御心次第ね。」


「じゃあ玄武に早く来てねってお願いしておきますね!」


私は真剣にそう言ったのに、おばあちゃんとお兄様は私が冗談を言ったと思ったのか面白がるように笑っていた。


「ほ、本当に本当だよ!わたし、玄武にお願いできるもん!」


少し怒りながら必死にそう言ったけど、二人は「うんうん」とあやすように頷きながら笑って私の頭や頬を撫でていた。






続く…

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