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『みこがたり』  作者: 朝ノ月
幕間
40/75

第5話 噂


ーーーーーーーーーーーーー






「お待たせしました!ご注文のお茶とお菓子です!」


「ありがとう。」


「美味しそう〜。」


長椅子に座って待っていた二人組のお客様にお茶とお菓子をお出しして、「ごゆっくりどうぞ!」と挨拶をした。そして、ショーケースの陰に隠れてそのお客様をじっと見つめた。


「ん〜!甘くて美味しい〜。癒される〜!」


「うん、美味しい。何だか実家に帰って来たみたいで落ち着くね。」


その会話に一人小さくガッツポーズをして、お茶も美味しいと言って貰えるかなと再び覗き見をしようとした時、調理場からお盆を持った健が現れた。


「美子?そんなとこで何してんだ?」


あの二人組のお客様からとても目立つ所で平然と私に話しかける健に、慌てて腕を引っ張ってショーケースの陰に隠れるようにした。


「しー!見つかっちゃうよ!」


「?見つかるって誰にだよ。」


覗き見をしているとバレたくないがために必死な私と、お手伝い中なのにかくれんぼをしていることが不思議でたまらない健のやり取りに、お会計係をしていたおばあちゃんがふふっと笑った。するとその時、扉が開いて涼しい風と共に一人の女性がお店の中へ入ってきた。


「こんにちは、おばあちゃん。」


「あらまぁ、お久しぶりですね、梅沢さん。」


そのやりとりから常連さんの一人だと思って挨拶をしようとショーケースの前に出ると、その大きなお腹に目を瞬かせた。


「…あら?この子達は?」


突然現れた私達に少し驚いたような顔をしたその女の人を無言で見つめていると、おばあちゃんがまたふふっと小さく笑って口を開いた。


「この子達は美子ちゃんと健君と言いまして、お店を手伝ってくれている私のお友達です。お菓子作りの弟子、とも言えるかもしれませんね。」


私達をそう紹介してくれたおばあちゃんはどこか誇らしげで、私と健を見つめていつもの柔らかな笑顔を浮かべた。


「まあ!それじゃあ貴方達が噂の“座敷童子”ね!まさか本当にこの目で見られるなんて!」


「座敷童子?」


まるで幻のお宝を見つけたかのように喜ぶ梅沢さんだったけど、私には何のことだか全く分からなかった。だから答えを教えて貰おうと健のことを見つめてみたけど、健も分からないと言わんばかりに首を横に振った。


「座敷童子はね、子供の姿をした妖怪のことよ。悪戯をしたり子供と遊んだりするのが好きだと言われているわ。」


「よ、妖怪!?」


妖怪と噂されるほどのことをしてしまったのだろうかとショックを受けつつも、噂を聞いてしまったお父様に叱られた時の言い訳のためにと必死に最近の出来事を思い出していると、平然とした様子の健がおばあちゃんと梅沢さんに向かって口を開いた。


「ふーん?そんじゃあオレらがその妖怪ってことか?」


「ええ。でも悪い意味じゃないのよ。」


「…えっ?で、でも妖怪って…」


閉店後のお菓子作りで失敗し過ぎてしまったのが悪戯をしていると誤解されて噂になったんじゃ…と心配していた時に聞こえてきたその否定の言葉に顔を上げると、梅沢さんがお腹をくすぐられたみたいに笑った。


「確かに妖怪って聞くと、悪いことだけをする生き物って思うかもしれないけど、座敷童子は住み着いた家に富をもたらしたりその姿を見た人には幸せを運ぶと言われていて、神様みたいに有難がられている妖怪なのよ。」


「神様みたいな、妖怪…」


褒められているのか貶されているのか混乱しながらも、悪い意味じゃないというさっきの言葉を信じることにして口を開いた。


「あの!その噂ってどんな噂なんですか?」


勇気を出してそう聞くと、梅沢さんはおばあちゃんと笑い合ってから再び私達に視線を戻した。


「最近ね、この商店街にお買い物をしに来るとよく耳にするのよ。“裏通りの閉店しかけていた「はなのえん」に二人の座敷童子が現れてお店が再興したらしい”っていう噂をね。私、このお店にもおばあちゃんにも小さい頃からお世話になっていて、再開したなら是非挨拶にと思って今日訪ねたんだけど、まさかその座敷童子達に逢えるなんて…。ふふっ、なんて幸運なのかしら。」


そう言うと、梅沢さんは私達の前でしゃがんで私と健の手をそれぞれ片方握って優しい声で「ありがとう」と言った。その時の梅沢さんの顔はとても晴れやかで、このお店とおばあちゃんのこと本当に大好きなんだなということが伝わって私まで嬉しくなった。


「梅沢さん、今日のお饅頭ね、美子ちゃんが一から作ったものなんですよ。それに月見大福は健君が包んでくれたものなんです。良かったら如何ですか?」


「…あっ!そ、そうなんです!二週間かけて覚えて、おばあちゃんにやっと合格をもらったんです!味にも自信あるので、是非!」


「オレは包んだだけだけど、ばあちゃんに包むの上手いって褒められたから自信はあるぞ!」


おばあちゃんの言葉に便乗して口々に梅沢さんにそう言うと、梅沢さんは申し訳なさそうな笑顔を浮かべて首を横に振り立ち上がった。


「ごめんなさい。お茶をしたいのは山々なんですが、この後病院へ向かわなければならないのでお買い物だけさせてもらいますね。お饅頭と大福と羊羹、二つずつお願いします。」


「…病院?」


どこか悪いところが…と不安に思っていたのも束の間、梅沢さんが大きなお腹を愛おしそうにさすったのを見て胸を撫で下ろした。


「あの、だったらまた今度ゆっくりできる時にお店に来てください!お店のこととかお話を聞きたいですし、お菓子もお茶もおばあちゃんみたいに美味しいって言ってもらえるように頑張りますから!」


お会計を済ませておばあちゃんから紙袋を受け取った梅沢さんは、そう言う私に笑みを返して私と健の頭を優しく撫でた。


「ええ、私もゆっくりお話したいからまた今度寄らせてもらうわ。だからどうか、このお店とおばあちゃんをよろしくお願いしますね。」


「はい!」


胸を張ってそう返事をしてから健と一緒に梅沢さんを外まで見送った。そして、その姿が見えなくなった頃に堪えていた喜びを分かち合うように健と顔を見合わせて笑った。


「座敷童子だって!ありがとうだって!嬉しいね!」


「だな!てか、直接ああ言われると何だか照れくせーな!」


店先でそんなことを話していると、おばあちゃんの呼ぶ声が聞こえてきた。その声にお喋りを終わりにしてお店に戻り、お手伝いを再開したのだった。






………

……






「ありがとうございます!またお越しくださいませ!」


時計の針が三時を指し示す頃、最後のお客様をお見送りすると「商い中」の看板と店先の暖簾を下げて店仕舞いをした。


「今日もお菓子全部売れたね!良かったぁ!」


看板と暖簾を元にあった場所に戻しながら長椅子の上の赤い布を畳んでいる健にそう言うと、健は振り返ってニカっと笑った。


「そうだな!それに、美子のまんじゅうもオレの大福も上手いって言ってもらえて、嬉しいことばっかだったな!」


「うん!美味しいって魔法の言葉だね!」


片付けをしながら二人で今日のことを話し合っていると、割烹着を着たおばあちゃんが調理場から現れた。


「二人ともお疲れ様でした。手を洗っていらっしゃい、今日のお駄賃をあげますからね。」


「あっ、はーい!」


お駄賃という言葉に胸を躍らせて言われた通りに手を洗いに調理場へ走って行った。羽織の袖が濡れないように気を付けながら手を洗い終えておばあちゃんが待っているテーブル席へ戻った。


「わぁ!今日はあんころ餅だ!」


椅子に座りながらそう言うと、おばあちゃんはふふっと笑って淹れたばかりのお茶を一つずつ配った。


「電話で注文された常連さんの余りものなの。ご近所さんに配るには少ないし、一人で食べるには多かったから二人が食べてくれると助かるわ。」


「はは!役得だな!いただきまーす!」


「お駄賃いただきます!」


手を合わせておばあちゃんにそう言ってからあんころ餅を口にすると、滑らかなこし餡の優しい甘さと餡に包まれても失われないお餅の柔らかくて豊かな風味が広がって頬が落ちそうになった。


「んん〜!美味し」ガラッ


あんころ餅の感想をおばあちゃんに言おうとした時、それを遮るかのように扉の開く音が響いた。驚きながらその音のした方を向くと、扉の所には藍色の作務衣を着たおじさんが立っていた。


「いらっしゃいませ、木下さん。」


「やあ、桜井さん。注文してたものを取りに来たんだけど、今大丈夫かい?」


「お持ちしますね」と言っておばあちゃんが調理場へ消えて行くと、その木下さんが私達のテーブルに近付いてきた。そして、私と健の顔を無言で交互に何度も見つめた。


(…あれ?この人、どこかで見たことがあるような…)


「何だよ、おっさん。これはオレらんだぞ?」


記憶を必死に辿っているとあんころ餅をモグモグさせた健が軽く睨みながら木下さんに向かってそう言った。すると、少し驚いたような顔をしてからあっははは!と豪快に笑って健の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


「悪かったね、そんなつもりはないから安心して食べなさい。いやいや、噂の座敷童子がまさかあの時の子達だったとは驚いてね。」


「あの時?…あっ!お面屋さん!?」


その声と言葉に漸くモヤモヤの答えを見付けて叫ぶと、木下さんは正解と言わんばかりに頷いた。


「四神様について知っていたからこの町の子達だとは思っていたけど、こうして逢うとはね。縁というものは不思議で面白いね。」


そう言うと、木下さんは私達のいるテーブル席の近くにある正方形のテーブルみたいな大きな椅子に腰掛けた。お客様にはお茶を出さないとと思った私は慌ててまだ口を付けていない自分のお茶を木下さんに渡した。


「ありがとう。でもすぐお暇するつもりだから結構だよ。それより、君達は本当に座敷童子なのかい?それとも、青龍様の使いかな?」


「え?」


木下さんの言葉に素っ頓狂な声を上げると、木下さんはまるで懐かしむかのようにゆっくり瞬きをした。


「…応龍祭りの日に、君が触った青龍様のお面があっただろう?祭りの一週間後にそのお面を買ったご婦人が訪ねてきてね、夢に青龍様が現れて喘息を治してくれたと言ったんだ。しかもその翌日、足を骨折していた旦那さんも胃潰瘍を患っていた娘さんも同じ青龍様の夢を見て治ったと言うんだ。重なった不幸に家族みんなが落ち込んでいたから厄除けにお面でもって買ったらしいけど、こんな御利益を授かれるなんて思ってもいなかったって涙ながらに感謝を伝えられてね。その人は私のことを神様のようだと言っていたけど今までそんな話、父からも祖父からも聞いたことがなくてね。不思議に思っていたんだが座敷童子の噂を聞いてそのことを思い出して、まさかとは思ったんだがやっぱり君達で驚いたよ。」


「夢に青龍が…?」


その話に驚きながら健を見つめてもさっぱり分からないと言いたげに首を横に振った。


(…怪我とか病気が治ったのは多分応龍の治癒の力のおかげだと思うけど、私はあの時触っただけで力は使ってないはずなんだけどな…それに夢に現れたのも青龍…)


謎ばかりが募っていくけど、返事をしないとと思って考えが纏まらない頭で必死に言葉を探した。


「あの、わたしと健は、座敷童子でも青龍の使いでもないです。多分、たまたま良いことが起こっただけで、何もしてないです。多分…」


期待を裏切ってしまうようで申し訳なく思いながらも本当のことを告げると、木下さんはしばらく私を見つめて口を開いた。


「…そうか、うん。すまないね、人は神に頼らなければ生きていけないし、正体を暴きたくなってしまうものなんだ。だから重なった奇跡を君達に背負わせようとした、私の落ち度だ。申し訳ない。」


そう頭を下げて優しい笑顔で私と健の頭を軽く撫でると、立ち上がってショーケースのところで包み終わったあんころ餅をおばあちゃんから受け取った。そして、扉を潜ろうとした時に「あっ」と小さな声を上げて振り返った。


「そうだ。噂と言えばもう一つ妙な噂を耳にしたんだ。」


「妙な噂?」


そう聞き返すと、木下さんは頷いて口を開いた。


「最近、この商店街とすぐ近くの住宅街で夕暮れの頃に怪異が起こるというものでね。どういう怪異なのかまでは知らないんだが、夕暮れに一人で家にいると見舞われるらしいから桜井さんも気を付けて。」


「あらまあ、それは恐ろしいですね。わざわざ教えてくださりありがとうございます。用心します。」


おばあちゃんがそう言って頭を下げると木下さんは「それでは」と言ってお店を出て行った。静かになった部屋の中でその妙な噂について考えを巡らせていると、木下さんが座っていたところに座ったおばあちゃんに名前を呼ばれた。


「明日なんだけどね、お店をお休みにするからお手伝いに来なくていいですからね。」


「え?お休み?どうしてですか?」


定休日は木曜日だったようなと首を傾げると、おばあちゃんはお茶を一口飲み込んだ。


「明日は病院へ行く予定の日なの。どこが悪いとかはないんだけど、隣町まで行かないといけないからお店はお休みにするの。」


「隣町?神ヶ森には病院がねーのか?」


今度は健が質問をすると、おばあちゃんは小さく首を横に振った。


「全くないという訳でないんだけど、大きな病院はなくなってしまったの。【応龍】の巫女様がどんな怪我も病気も治してしまうから要らないだろうってことになってね。」


「えっ…」


急にそう呼ばれて心臓が跳ねたけど、それよりも自分の力がそこまで期待されていることの方が衝撃的だった。すると、おばあちゃんは私の手から竹の菓子切りを取ってあんころ餅を私の口に運んだ。


「大丈夫よ、民間の病院なら神ヶ森にだってあるもの。美子ちゃんが責任を感じる必要なんてないわ。」


「…ん、はい。ありがとうございます。」


おばあちゃんは人の心が読めるのかななんて思いながらも、少し軽くなった心のままに笑顔でそう返事をした。それからお話をしながらあんころ餅とお茶を食べ終えると、お店の後片付けを始めた。机やショーケースなんかを拭いたり、洗い終わった食器を拭いて戻したりして終わったのは四時になる頃だった。


「今日は仕込みもないからもうおしまいね。お疲れ様でした、美子ちゃん、健君。」


「お疲れ様でした!おばあちゃん!」


「ばあちゃんもお疲れさん!」


そう元気に挨拶をしてから羽織っていた羽織を脱ぐと、それを両手で抱えておばあちゃんを見上げた。


「…あの、おばあちゃん。この羽織、もらってもいいですか?ちゃんと大事にするので…」


「ええ、もちろんよ。」


そう即答したおばあちゃんに驚きながらも満面の笑みで「ありがとうございます!」と感謝を伝えた。そして、それを丁寧に畳んでリュックにしまった。


「健君はお手伝いに来てくれた時に貸してあげるわね。」


「おう!多分持って帰ったらじいちゃんは喜ぶけど父ちゃんは怒りそうだしな!」


青い羽織をおばあちゃんに手渡した健に、木刀と腰巻を渡すと健は素早くそれを巻いて木刀を腰に差した。そして、手を繋いでお店の扉を出ると空はまだ明るかった。


「美子、少し森で遊んでから帰ろうぜ!」


「うん!わたしも同じこと言おうと思ってた!」


健と遊ぶ約束をしてからお見送りしてくれるおばあちゃんを二人で見上げて笑顔で「また来るね!」と言うと、おばあちゃんも笑顔で「ええ、また来てくださいね」と返した。そして、手を振ってから早く森へ行くために商店街の人波を避けて走り出した。


「秋は葉っぱがいっぱい落ちてっからな!かき集めてベッドでも作ろうぜ!」


「わぁ!落ち葉のベッドなんて楽しそ…」


そう言い掛けた時だった。前から歩いて来る一人の老人とすれ違った時、微かな寒気が背筋を伝って身体を震わせた。それに反射的に足を止めて振り返ったけど、たった今すれ違ったはずの老人の姿はどこにもなかった。


(…なに?今の…今、何をしたの…?)


…目の前に広がるのはいつもと変わらないはずの裏通りのはずなのに、背筋に残った寒気が不安と恐怖を煽って気味が悪くなった。だけどもっと気味が悪いのは、どうして自分が振り返ったのかが思い出せなくなっていたことだった。


「美子?急にどうしたんだ?」


急に立ち止まって動かない私の肩を叩いて顔を覗き込む健の目に、一つ瞬きをすると強張っていた身体から徐々に力が抜けていった。


「…け、健…今の、今…何でわたし…」


脱力感から上手く働かない頭と口で何とかそう言葉を紡ぐけど、意味を成さない言葉に健は眉を顰めて繋いでいた手に力を込めた。


「落ち着けって。どうしたんだよ?」


「…わ、分かんない…健、手、離さないで…」


どんどん力の抜けていく身体が、どこまでも沈んでいきそうな気がして必死にそう言った。するとその時、後ろから大きな手に目を覆われて何も見えなくなった。


「…忘れるんじゃ。追い求めてはならん。」


落ち着いた声の通りにどうして自分が振り返ったのかを思い出すのやめてみると、空っぽになりつつあった身体に少しずつ力が戻っていった。そして、もう大丈夫と健の手を握り返すと覆っていた手がゆっくりと離れていった。


「…ありがとうございます、おじいちゃん。」


振り向いてそうお礼を言うと、私の目を覆っていた手の持ち主である健のおじいちゃんがにこりと笑って頷いた。


「少し疲れが溜まっておるようじゃの。頑張るのは良いがその分休むことも大事じゃよ。」


そう言って私の頭を優しくポンポンと撫でると、おじいちゃんは健を見つめて口を開いた。


「健、お主は何も感じなかったか?」


「感じるって何をだよ?」


「妖気じゃよ。」


おじいちゃんにそう言われて「ううーん…」と唸りながら思い出しているような健だったけど、すぐに首を横に振った。


「妖気って、何か気味悪りぃ感じのやつだろ?そんなのこの辺じゃ感じたことねーぞ。」


「はぁ…微かな妖気すら感じられぬとは、修行も場数も足りておらんようじゃな、健。」


呆れながらそう言うと、おじいちゃんは私をおんぶして立ち上がった。


「今日はもう帰りなさい。ゆっくり休めば美子ちゃんが妖気に食われるなんてことはもうないじゃろ。」


「あっ!じいちゃん!美子を運ぶのはオレの役目だぞ!!」


役目を奪われたことがよっぽど気に食わないのか、おじいちゃんの脛を健が思いっきり蹴ると、痛がる素振りを見せることなく頭のてっぺんに拳骨をお見舞いした。そして、尻餅をついて痛がる健を放置して裏通りを歩き始めた。後ろから健が何かを叫んでいたのを聞きながら、私はさっきの出来事をもう一度思い出そうとしてみた。


(…振り返る前に、何かあったんだ…何か…妖気…?…ううん、違う。それよりもっと前…妖気を感じる前……何か、匂いがした…あれは、お茶と…煙草……?)


そこまで思い出すとそれ以上は許さないとでも言いたげな眠気が襲ってきて、私は抵抗する間も無くおじいちゃんの広い背中で目を閉じた。じんわりと温かくてゆらゆら揺れる背中は、お布団よりも気持ち良くてゆっくりお休みと言っているみたいだった。






続く…

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