第27話 四神祭り
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「うわぁぁ〜!!」
赤い提灯が照らす大通りは、立ち並ぶお店の色とりどりな看板や香ばしい煙の匂い、車道を当然のように歩く大勢の人々や何処からか聞こえる笛や太鼓の音に満ちていた。
「すごい!すごい!!これがお祭りかぁ!!夜なのにこんなに賑やかで、ピカピカしてるんだね!」
祭りの活気に当てられて興奮したまま思ったことを口にすると、手を繋いでいた健がニカッと笑った。
「すげーだろ!オレも祭り、大好きなん」
健が言葉を切った瞬間、健の頭があった位置に物凄い速さの蹴りが飛んできた。すごくビックリしたけど、今日一日で何度も見たその蹴りが誰のものかは嫌でも判った。
「…だーかーら!勝手に美子を連れてくなって何回言えば分かんの??」
飛び蹴りから華麗な着地をした秀は、避けた健を睨みながらそう言った。
「美子が行きてーって言ったんだから別にいいだろ!てかお前も、一日に何回も首飛ばそうとすんじゃねーよ!」
そう言ってワーワーと言い争いを始めた二人を眺めていると、馨と透夜が少し遅れて到着した。
「ふ、二人とも、一応人の目があるから喧嘩は控えて…。」
周りを気遣いながら何とか場を収めようとする馨だったけど、当の本人達には全く声が届いていないようだった。
「…美子、祭りは人の往来が激しい。故に一人行動は極力避けてくれ。」
そして透夜はと言うと、そんな二人の争いを完全に無視して私の元まで来てはそう注意した。ちなみに、人の目があるからか顔はいつものようにあの大きい布で隠していた。
(…もう、仕方ないな…)
四人の性格がよく表れている光景に内心溜息を吐きながら、言い争う二人に近寄ってそれぞれの手を取った。
「お腹空いちゃったね!何食べよっかな〜!お祭りで美味しいのって何だろうね〜?」
そう言って手を繋いだまま歩き出すと、健も秀も呆気に取られた顔で私を見つめてから降参するかのように笑った。
「それなら焼きそばとたこ焼きは外せねーな!あと、飲みもんならラムネとかサイダーはシュワシュワしてておもしれーぞ!」
「美子は甘い物が好きなんだから、わたあめとかかき氷は食べた方がいいねー。あとはミルクせんべいとかベビーカステラとかもいいんじゃない?」
振り返ると、そう提案してくれた二人の後ろからやれやれといった表情を浮かべる馨と透夜が近付いてきた。
「食べ物以外にも輪投げや射的、千本引きやヨーヨー釣りといったゲームもあるから遊んでみると良いかもね。」
「…ああ、他にもお面や扇子、風鈴や簪などの工芸品を売る屋台もある。」
「へえー!いっぱいあるんだね!それじゃあ四人とも、案内お願いね!」
笑顔でそうお願いすると、四人は返事をする代わりに笑って私の手を引き、大通りの人波に向かって走って行った。
…駆けていく背中はキラキラと眩しくて、その頼もしさに胸が高鳴り、静かに笑みを深めた。
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「おじさん、これ一個ください!」
「あいよ、好きなの持ってきな。」
屋台のおじさんにお金を渡して、一番美味しそうなりんご飴を選んでニヤニヤする私に、秀は呆れたような目を向けた。
「まーだ食べるの?さっきお腹いっぱいって言ってたじゃん。」
「違うよ!これはお兄さまへのお土産!わたしと一緒で甘いのが好きだから、喜んでくれるかなって!」
そう言ってりんご飴を自慢するように秀に見せ付けていると、向こうから健が私の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
「美子が好きそうなもんがあったから買ってきたぜ!ほい!」
得意そうな笑顔でそう言った健の手には、割り箸に刺さった長くて茶色い物体に折り紙の切り屑みたいな細かい何かが振り掛けてある不思議な物が握られていた。
「これ何?」
「チョコバナナっていう食べもんだぞ!甘いからオレはあんまり食わねーけど、美子は好きかなーって思って買ったんだ!」
まじまじとチョコバナナとかいうそれを眺めてから、「いただきます。」と言ってから受け取って一口食べてみた。
「ん、本当だ!甘くて美味しい!」
「だろ!美子ならそう言うと思ったんだ!」
すると、チョコバナナを食べながら盛り上がる私達を何も言わずに見つめていた秀が、急にくるっと振り返って「あんず飴」の屋台へ歩いて行った。
「お姉さん、これ一つちょーだい?」
「はいはーい!それじゃあ、あたしとジャンケンしてー…」
他の子とジャンケンをし終えた屋台のお姉さんがそう言いながら秀を見ると、そのまま固まってしまった。
「…お姉さん、ジャンケン…する?」
…ゾクっとするほど妖しく美しい微笑みと痺れるほどの甘い声に、屋台の近くにいた私と健を除いた全員が動きを止めて秀に熱い視線を送った。
「…ま、負けたわ…好きなだけ持っていって…!」
「いいの?ありがと!」
そう言って花が綻ぶような笑顔をした瞬間、秀を見つめていた老若男女が頬を染めて甘い悲鳴を上げながら崩れ落ちた。その異様な光景に呆然と立ち尽くしていると、事の首謀者である秀は屋台の台に置いてある大きな氷の塊からあんず飴を一つ取って振り返った。
「ほら、美子。…“好きなだけ”、だって。」
私に微笑んでから、健に挑発するような目を向けた。
(…そういうことね。張り合うことでもないのになぁ…。)
それを見て漸く秀の動機を理解し、小さな溜息を吐きながら秀に近寄ってあんず飴を受け取った。
「ありがとう。でも一つだけでいいよ。」
「何で?全部美子のなのに?」
「だって独り占めはよくないし、お腹いっぱいだもん。」
「ふーん。」
そう言って面白くなさそうな顔をしていたけど、私の「美味しい」に機嫌を直したようだった。その様子に、争いを未然に防げたことを悟り安堵した。
「えーと…あ、いたいた!透夜ー!」
それから辺りを見渡し、電柱の下に立っていた透夜を見つけて走り寄った。
「これ、お兄さまのお土産にするの。だからお願いしていい?」
「…ああ。」
私のお願いに頷くと、組んでいた腕を指で二回トントンと叩いた。すると、その電柱の後ろからビニール袋を持った小人の式神が現れて袋を広げた。
「ありがとう。えーと、ラムネと焼きそばとたこ焼き、ミルクせんべいにりんご飴…うーん、もっとお土産あった方がいいかな?」
「…どうだろうな。適量が分からない。」
二人でお土産問題について頭を悩ませていると、ペットボトルの緑茶を手にした馨が現れた。
「はい、夜でもきちんと水分補給しないとだよ。」
「うん、ありがとう!あ、そうだ!馨はどう思う?お土産、もっとあった方が嬉しいかな?」
お茶を受け取りながらそう尋ねると、馨は袋の中にあるお土産を見つめて考える仕草をした。
「…うーん、人によるとは思うけど僕は美子が一生懸命考えてくれたってだけで嬉しいから、十分だと思うよ。でも、もし不安なら食べ物以外のお土産も喜んでもらえるんじゃないかな。」
「食べ物以外…あ、さっき言ってたお面とか扇子とかってこと?」
「そう。あとは欲しい物が手に入るかは分からないけど、輪投げや射的の景品とかも良いんじゃないかな。」
馨の提案に透夜も賛同するように頷いたのを見て、私もよしっ!と気合を入れて腕を捲った。
「お土産を手に入れるために頑張るぞ!まずは輪投げの屋台探しからね!」
「…美子、遊戯関係の屋台なら公園通りの方に集中している。闇雲に探すよりはそっちに移動した方が確実だろう。」
「そうなの?じゃあそっちに行こう!」
そう言って駆け出す私を慌てて追い掛ける二人の足音を聞きながら、どんなお土産を買おうかと胸を高鳴らせていた。
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「おお!お嬢ちゃん、運が良いね〜!今度は「パチンコセット」だよ!人に向けて打ったりはしないようにしてなー!」
屋台の陽気なおじさんから景品の「パチンコセット」とかいう物を受け取った私はがっくりと肩を落とした。
「…はあ…本当は「すごろく」とか「かるた」が欲しかったんだけどなぁ…」
お土産にしようと私が目を付けたのは「千本引き」というくじ引きの屋台だった。色々なおもちゃやゲームが糸の先に付いていて、選んだ糸の先にある商品をそのままくじの景品として貰えるというルールのくじで、大人数でも遊べるおもちゃが沢山あったから挑んでみたのだが、手に入ったのは「チャンバラごっこの刀」や「シャボン玉セット」、そして「パチンコセット」といったお兄様やお父様と遊ぶには少し難しいおもちゃばかりだった。
「おお!坊ちゃんすごいねー!有言実行だなんてかっこいいなぁ!」
おじさんの声に屋台の方を向くと、そこには申し訳なさそうに笑う馨がいて、私の欲しかった「すごろく」と「かるた」を持っていた。
「横取りするみたいになってしまってごめんね。実力で取るって言ってたから悩んだんだけど、落ち込む姿を見ていられなくて…」
「えっ、えっ!?ど、どういうこと?!な、何でわたしが欲しかったやつが取れたの!?」
馨のその言葉に驚きと疑問しか生まれず、思わず近寄って早口で言葉を紡いでしまった。
「え、えっと…ここではちょっと言いづらいんだけど…」
距離の近さに戸惑いながらも、屋台のおじさんをチラリと見てから私の耳に口を近付けた。
「…実はね、何となくなんだけどどの糸が外れか当たりかが判るみたいなんだ。光って視えるって言うのかな。」
「えっ…それって、朱雀の力?」
私がそう小声で聞き返すと、馨は優しく微笑んで「美子のおかげだね。」と言った。
「す、すごい!すごい!おめでとう!」
馨を苦しめていた最大の問題が良い方向に進んでいることが、なんだか自分のことのように嬉しくて興奮しながら祝福の言葉を伝えた。
「うん、ありがとう。だから、これは僕から美子への感謝の印として受け取って欲しいな。」
そう言って差し出した景品のすごろくとかるたを見つめていると、思わず泣きそうになってしまった。
「…うん!ありがとう!すごく嬉しい!きっとお父さまとお兄さまも喜んでくれるよ!」
グッと涙を堪えて笑顔でそれらを受け取ると、馨もとても嬉しそうな笑顔になった。
「あっ!それじゃあ、これのお礼にわたしもあげる!」
幸せな気分に忘れそうになったお祝いとお礼を慌てて考えた。そして、ちょうど手に持っていた「パチンコセット」を馨に渡した。
「ほら、弓はしばらく使っちゃダメでしょ?だからその代わりというか、何か武器みたいなのがあったら良いのかなって思ったんだけど…」
急拵えだけど理に適った理由に自分でも驚いていると、馨は「パチンコセット」を手に取って動かなくなってしまった。
「…弓に代わる物……飛び道具…」
そう言って考え込んでしまった馨に声を掛けようとした時、背後から子供の荒々しい声が聞こえてきた。
「ちくしょー!ぜってーインチキだよなぁ!!あんなの取れるわけねーじゃん!!」
「子供だからって舐めてるんだよ!いやーなおっさん!!」
声の主は私と同じくらいの男の子と女の子で、その顔は怒りや憎しみに染まっているようだった。
「ねえ、どうしてそんなに怒ってるの?」
そのただならぬ様子が放っておけなくてそう尋ねると、二人は私を見て待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「聞いてくれよ!あっちのヨーヨー釣りでよぉ、黄金のヨーヨーを釣り上げたら超ゴーカお菓子セットをくれるって言ってたからやってみたんだ!そしたらその黄金のヨーヨー、すげー重くて絶対に釣り上げられねーんだよ!」
「そうそう!何回もやったけど、水にも濡らしてないのにヨーヨーの重さだけで紙が千切れるのよ!あんなのインチキじゃない!!」
怒りを発散するかのように説明した二人はそのヨーヨー釣りの屋台がある場所まで案内してくれた。
「ほら、あそこだよ!子供がいっぱいいる店!」
人集りが出来ている屋台の看板には確かに「ヨーヨー」と書いてあって、「挑戦者求む!黄金のヨーヨーを釣って超豪華お菓子セットをゲットしよう!」という立て看板が目立つ所に置いてあった。
「いらっしゃーい!いらっしゃーい!今夜限りの大目玉!!黄金のヨーヨーを一つ釣るだけで超!超!!豪華なお菓子セットをプレゼント!!さあさあ、皆さん寄ってって!!」
見事な口上を高らかに述べたふくよかなおじさんが、不意に私を見つめてニヤリと笑った。
「おやぁー!これは可愛いお嬢さん!黄金色がよく似合いそうだ!お菓子は好きかな?ちょうど素敵な催し物をしているんだが、挑戦してみないかい?」
「わたし、ヨーヨー釣りはしたことないんですけど…」
舐めるような目が気味悪くて少し後退りながらそう言うと、おじさんは嬉しそうに手を叩いた。
「それはそれは運が良い!初めてのヨーヨー釣りが記念の日になるよぉ!さあさあ!やり方は教えてあげるからおじさんの前までおいで!」
「オレ達の仇を取ってくれよ!」
「あの狸じじいをギャフンと言わせて!」
挑発と懇願に挟まれて断れない状況になってしまい、意を決してヨーヨーが浮いている水槽の前まで移動した。
「ルールは至って簡単!このこよりと釣り針から出来た道具をヨーヨーの持ち手にある輪っかに引っ掛けて釣り上げるだけさ!こよりは水に濡れると破れやすくなるからなるべく濡らさないようにすると良いよ!」
「なるほど…」
二百円をおじさんに渡して受け取った釣り具を見てから水槽に浮かぶ色とりどりのヨーヨーを見つめた。
(…大きさに違いはほとんどない。だけど、あの黄金色のヨーヨーは…)
見つめた先にある一際輝くそのヨーヨーが釣り上げなければならない物だということは火を見るより明らかだった。しかし、他のヨーヨーと違っていたのはそのド派手な色だけでなく、大きさや水にほとんど沈んでいるといった点であった。
「さあさあ!糸が切れるまで好きなだけ釣ってくれて構わないよっ!勿論、お金さえ払ってくれれば何度でも挑戦できるからね!」
「絶対に釣ってくれよな!」
「がんばれ!がんばれ!」
いつの間にか増えた期待の目に鼓動が早まり体が震えてきた。
(…き、緊張するけど、頑張らないと!皆が応援してくれてるんだもん!)
緊張に震える身体と心を鼓舞して釣り具をヨーヨーへ進めようとした瞬間、それを止めるように後ろから手を重ねられた。
「…透夜?」
振り返ると重ねられたその手は透夜のもので、感情の読めない目が私を真っ直ぐ見つめていた。
「…美子が楽しめないのなら意味がない。だが、悪を討たんとする心には付き従おう。」
淡々とそう告げると、私の手から釣り具を取って隣にしゃがんだ。
「…え、えっと、君が挑戦するのかな?それならお嬢ちゃんから取り上げたりしないでお金をー…」
ぽちゃんっ!
戸惑いながらも笑顔で話し掛けるおじさんの言葉を無視した透夜は、何故か黄金のヨーヨーのすぐ側の水面に釣り具を勢いよく下ろした。その跳ねた水飛沫が屋台の光に照らされながら透夜の前髪や隠し布を濡らしたのを見届けた後、水槽に浸かった釣り具に慌てて口を開いた。
「と、透夜!ヨーヨー釣りは釣り具の紙が千切れたらダメなんだよ!」
「…ああ。承知している。」
そう答えた次の瞬間、素早く手を動かしたかと思ったらあの黄金色のヨーヨーが透夜の顔の前で揺れていた。その光景に、子供が大勢いるはずの空間が静まり返った。
「…釣り上げたぞ。」
透夜の声が静寂に響くや否や、取り囲んでいた子供達が一斉に歓声を上げた。
「すげー!すげー!!マジで釣り上げてんじゃん!!」
「すごい!すごい!!かっこいい!!どうやったの!?」
詰め寄る子供達には何も答えずに透夜はじっと屋台のおじさんを見つめていた。すると、おじさんは頭を掻き毟って大声を上げた。
「な、な、何でだぁぁあ!??何で釣れるっ!?絶対にっ!どうやってもっ!取れないはずなのにぃぃ!!?」
「…答える義理はない。」
「わ、分かったぞ!!イカサマだなぁ!!釣り具に細工したんだろぉ!?そうだ!きっとそうだ!!」
負けを認めようとしないおじさんに流石の透夜も呆れたのか、小さく溜息を吐いてヨーヨーごと釣り具をおじさんに投げて渡した。
「…確認したければ好きなだけしろ。ただし、調べて何も出なければ不正を認めて景品を渡せ。」
「い、いいだろう!!どうせ、あの一瞬で釣り具を別の物にすり換えてー…」
そう言っておじさんが釣り具を持ち上げた瞬間、さっきまで黄金のヨーヨーを釣り上げてもびくともしなかったこよりがぷちり、と簡単に千切れた。
「…あ、あ…こ、この釣り針はっ…!」
「…お前の店で使用している釣り針は他の店と比べて大きく重い。それが何よりの証拠だろう。」
透夜がそう言い放つと、おじさんは魂が抜けたように椅子から崩れ落ちた。
「…お前にもう用はないが、約束は違えるな。」
そんなおじさんを見下ろしながら容赦のない言葉を降らせる透夜に、おじさんは操り人形のようにお菓子セットを屋台の裏から取り出して差し出した。
「…失礼する。」
右手でお菓子セットを抱え、そして左手で私の手を握るとそのまま屋台を背にして歩き出した。
取り囲んでいた子供達の歓声と拍手が聞こえなくなるまで歩いた頃、手を引き前を向いていた透夜が足を止めて振り返った。
「…遅れてすまなかった。」
いつもの淡々とした声とは違った少し沈んだ声に驚きながらも首を横に振った。
「ううん、助けてくれてありがとう。でも、どうやったの?」
そう言って抱えていたお菓子セットに目をやると、透夜は私にそれを渡した。そしてそのまま自分の顔に手を翳し、軽く握って胸の高さくらいまで下ろして手を開いた。開いた手の上には、ビー玉くらいの水の玉が浮かんでいた。
「あ!玄武の力を使ったってこと!?」
「…ああ。こよりが水やヨーヨーの重さで千切れないように水で補強した。…ああいう使い方をしたことがなかったため、少し時間は掛かったが上手くいって良かった。」
そこまで説明し終えると浮かんでいた水の玉を足元に落として地面を濡らした。
「…だからわざと釣り具を水に沈めたんだ…あ、それじゃあ釣り針が違うっていうのはどうして分かったの?」
今度はイカサマを暴いた釣り針のことについて尋ねると、袂からたくさんの、小さな数字の3のような銀色の物体を取り出した。
「…ヨーヨー釣りの屋台はあの店を除いて九店。疑いのない店と比較すれば不正が浮かび上がる。また、ヨーヨー釣りで細工が出来るとしたらヨーヨー本体か、もしくは釣り具に限られる。」
「比較って…実際に他のお店にも行ったってこと!?そんな時間あった!?」
「…俺が行ったのは不正をしていたあの店だけだ。それ以外はこいつらに行かせた。」
そう言った透夜の後ろからひょこっと顔を見せたのはあの小人の式神達で、その手にはそれぞれヨーヨーを持っていた。
「…ヨーヨーと釣り具を一つずつ拝借した。集合させるのに少し手間取ったため、あの店に到着するのが遅れた。すまない。」
「…。」
謝る透夜を見つめながら、私は開いた口が塞がらなかった。
…説明を聞き終えて衝撃的だったのは、不正を暴いた方法よりも透夜が、自分の判断で行動したということだった。誰かからの指示通りにしか行動できない姿をよく知っている。お昼を食べたあの時もそうだった。なのに、今目の前にいる透夜は玄武殿も私もいない状況でやるべきことを判断して行動した。…当たり前のはずなのに、それがとてつもない衝撃で、泣きたくなるくらいに嬉しかった。
「…何だか、別人みたいだね。でも、すごく嬉しい…。」
「…変わったとしたら、美子のおかげだろう。「自分で判断しろ」と言ったのは、美子だからな。」
「…そうだけど、そうじゃないんだなぁ〜!」
そう言って渡されたお菓子セットをぎゅっと抱き締めて笑うと、透夜は不思議そうに首を傾げた。だけど、私はそれ以上答えなかった。
「あっ、お菓子返すよ。わたしさっきのヨーヨー屋さんの所に置いてきちゃったすごろくとかるたを取りに行くから。」
「…いや、それは美子が貰ってくれ。あと、戻る必要はない。」
透夜がそう言った直後、私のすごろくとかるたを持った小人の式神が走って来た。
「ごめんね、でもありがとう!それじゃあそのままお願いしてもいい?」
「…ああ。」
ついでに貰ったばかりのお菓子セットもその子に預けてから透夜の手を握った。
「行こう、透夜!皆を探さなくちゃ!」
そう言って手を引く私に小さく笑った透夜と一緒にあの三人を探すために走り出した。嬉しくて、楽しいことばかりの祭りの熱狂に溶けるように、夜の闇と提灯の明かりが満ちる世界を進んでいった。
続く…




