パパは異世界の大魔導師(但し厨二)
「あ、もうこんな時間。サトルッ、パパを起こしてきてっ!」
そんな女王陛下の言葉に、僕はこう答える。
「ははっ、栄光ある女王陛下の命ずるままに」
女王陛下はちょっと渋い顔。
「パパの真似しなくていいの。そこは『はい』でいいの」
「ははーっ、女王陛下様」
次の女王陛下の言葉が出る前に、僕は寝室に向かう。パパはそこで寝ているのだ。
「パパッ、女王陛下がもう起きてって」
「うぐっ、ぐおおおお」
「どうしたの? パパ?」
「パパではない。異世界の大魔導師オライオンだ。また、敵に俺の正体を見抜くものが現れたらしい。さっ、『催眠魔法』をかけられた」
「パツ、パパッ、いや、オライオン、大丈夫?」
「うっ、うむ。ぐおおおお、ぐわあああ、グーグー」
これは大変。すぐ女王陛下に報告に行かねば。
「女王陛下っ、大変です。大魔導師に『催眠魔法』をかけた奴がいます。また、眠ってしまいました」
女王陛下は大きく溜息を吐いた。
「サトルッ、パパに『休みだからって、いつまでも寝てないで起きて』って言って」
また、大魔導師オライオンのところに向かう。
「オライオンッ、『休みだからって、いつまでも寝てないで起きて』って女王陛下が」
「うぐおおお。何て強力な『催眠魔法』だ。グーグー」
これはよほど強力な『催眠魔法』らしい。女王陛下にご報告せねば。
「女王陛下。凄い強力な『催眠魔法』です。起きません」
女王陛下は今度はあきれ顔で僕に命令した。
「しょうがないわね。サトルッ、じゃあ、今度はこう言ってきて。『ほほう。異世界の大魔導師も『催眠魔法』ごときが破れぬのか。大したことないな』って」
僕はまたオライオンの部屋へ。そして、女王陛下の命令を忠実に実行する。
「女王陛下が『ほほう。異世界の大魔導師も『催眠魔法』ごときが破れぬのか。大したことないな』とのことです。
オライオンはガバッと起きる。
おおっ、起きたっ! と思ったら、今度はお腹を右手で押さえて、頭を下げた。
「どっ、どうしたの? オライオン」
「て、敵もしぶとい。この私に、この大魔導師オライオンに『催眠魔法』が効かないと分かったとたん、今度は『吐き気の魔法』をかけてきおった」
「だっ、大丈夫? オライオン?」
「ふっ、こんなこともあろうかと、『吐き気の魔法』破りの錬金術を編み出してあるのだ。だが、そのためには勇者サトル。おまえの力が必要なのだっ!」
「何でも言って、オライオン」
「うむ。わしが魔力を込めた透明なガラスの短い筒に、銀の管で清められた聖なる水を入れたものと棚にある雪のごとく白い霊薬『イサーン』を持ってくるのだ。それで『吐き気の魔法』破りの錬金術は完成する」
「分かった。待ってて」
僕は女王陛下にオライオンが魔力を込めた透明なガラスの短い筒に、銀の管で清められた聖なる水を入れたものと棚にある雪のごとく白い霊薬『イサーン』を必要としていることを伝えた。
「また二日酔い? だから、日本酒の冷と電気ブランは、ほどほどにしろと言ってるのに」
女王陛下は僕に聖なる水と霊薬を渡すと、更なる命令を下した。
「サトル。異世界の大魔導師に一刻だけ休養を許す。その後、わらわが市場に視察に行くので護衛せよと伝えなさい」
僕がオライオンに女王陛下に命令を伝えると、オライオンは頷き、掛布団をかぶった。
◇◇◇
2時間後、僕とママはパパの運転する車でショッピングモールに向かった。
女王陛下、いや、ママは、何やらオライオン、いや、パパに話をしている。
「厨二もほどほどにね。サトルが真似して幼稚園で変なこと始めたらどうするの?」
「うっ、うーむ」
だけどその時、僕は全然別のことを考えてたんだ。
「ようし、月曜日は異世界ごっこの続きだぞ。僕が勇者で、ショウくんが戦士で、マイちゃんが魔法使い、ルリちゃんが僧侶。今度こそ幼稚園で一番怖い先生、『魔王』小暮先生を倒すんだ」
おしまひ