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物理を嗜む人、異世界で魔法解析学概論を開講する  作者: 大葉 伽耶郎
魔法を知る
3/3

来訪

 僕は空から落ちたようだ。さいわい枝木や土がクッションとなり身体中を痛めたくらいで済んだ。大事には至っていない。


 「いったああああああああ!!!!」


 一通りの叫んだ後なんとか文句を言いながら、何とか近くの木にもたれることができた。現時点では歩けそうになく、スーツの一部は破けてしまっている。右足首は捻挫しているし腰骨は骨挫傷してそうだ。


 上を向くと自分の落ちたところの枝が折れて、森の中に光の面が現れる。散乱してるのだろう。


 木の高さはおよそ10メートルくらいで、それより高いところから落ちたと思うとゾッとした。冷や汗が止まらないし、何よりこの状況に対してどう頭の中を処理すればいいのか分からない。

 

 「はあ、はあ、どうなってんだこれ」


 肩で息を切る。


 しばらくすると身体中は落ち着いてきたので、考えることに神経を注いだ。


 「なんで僕は上空にいたんだ」


 たしか百武さんの部屋にいたはずだが、実際問題として突然景色が変化した。つまり位置が変化したはずだ。現象としては面白く、観測できたことから何かの体系として記述できると思うが。その前に1つの問題に気づいた。


 「腹が減ったな」


 会議に早入りして昼食を怠った自分を恨めしく感じた。食事した後の会議は眠くなるので避けていたのだが、こんな意味のわからない状況では後悔しか生まれなかった。


 「……痛っ」


 やはり立ち上がることは出来なさそうだ。これからどうすればいいのか分からない。完全に専門外だ。こういう時は人を頼るのが吉である。


 思い出したようにポケットにあるスマートフォンを取り出した。電源ボタンを押して画面右上を確認する。5本の柱が立っていない。

 



 もう一度見返す。

 



 さらにもう一度。






 (あれ、まさか詰んだ?)



 それからしばらくスマートフォンで出来る限りのことをした。電源と音量ボタンを同時押しで緊急SOS、110番、119番、森本に電話、どれもできるはずもなく。それでも何かしなければいけないと思ってひたすらに電話した。


 一通り電話が終わってしまい、次にやることを探す。そうだ、移動しなければ。近くの折れた木の枝を杖代わりに立ち上がった。持ち心地はザラザラで素手では痛いし、途中で曲がっている。しかし身長に合うくらいの長さで1番まっすぐな枝がこれしかなかったのだ。

 

 僕は歩き始めた。身体中が軋むように痛いが心の中で「気のせいだ」と言い張る。視界が霞む。それは、昨日のパソコンの使いすぎで目が疲れていることにした。とにかくまず川を見つけることが先決だ。

 

 古来より川を下ったところは文明が栄えてある。そこでは、豊富な水資源で水路を敷き、穀物を育て、人の生活の中心となった。有名どころはナイル川やティグリス•ユーフラテス川といったところか。

 

 義務教育で培った知識を総動員し、川を目指して一歩一歩進む。日没までに見つけなければ夜を森の中で過ごしてしまう、という危機感は彼の進むペースを上げてくれた。


 スマートフォンの時計で15:00、ちょうど2時間程たった頃だ。鳥のさえずりしか聞こえない森の中で、水のせせらぎが聞こえるではないか。最後の気力を振り絞って音の方向へ進む。


 (頼む、川を見せてくれ……)


 視界が開けたところに出た。小石が堆積しており、辺りにあまり木は生えていない。河川の近くでキャンプするなら大体このような場所を選ぶのだろう。


 辺りを見回すと遠くの、おそらく上流の方に1つの人影が見える。おーい、と叫ぼうとするけど声が出ない。そういえば昨日から一口も水分を補給してないことを思い出した。

 

 一歩、また一歩と小石の上を進む。足場がゆるいので慎重に慎重に。しかし、気持ちとは裏腹に前に倒れそうになる。木の枝で持ち直そうとするも


 バキッ


 木も気力も限界に来ていた。


 (そういえば昨日寝てなかったな。夜通し計算して、講義のノート作って。)


 立ち上がる事をやめた。


 (もう、寝てもいいよな)


 大丈夫、まだ死なない。まだ日は落ちてないし、一夜くらいどうにかなるさ。それにあの人影が見つけてくれるかもしれない。

 視界を閉ざして、目に力を入れると頭の中心から中耳にかけてゴロゴロという。ああ、疲れてたんだな、と確認して力を抜いた。意識が途切れる。

 


――――――――――

 


 少し肌寒い。掛布団はどこだと手を動かすも何もつかめない。それにベッドはこんなに硬かっただろうか。頬骨やら肋骨やらが圧迫され痛みを感じる。少し疑問に思うも思考を睡魔に阻害されてしまう。


 (今何時だ?)


 手を床に這わせて目覚まし時計の代わりのスマートフォンを探す。


 (近くにスマートフォンは置いて……ない)


 目を瞑っても大体の場所は分かるのだが今回は置き忘れたか。右の大腿にちょうど圧迫感があったので、ポケットに手を伸ばすとお目当て感触があった。

 目を開けると、暗闇の中で光る画面に4:58と見えた。


 (あともう少しで朝……じゃ……ん?)


 脳が起動を始める。処理能力は加速度的に上昇し今の状況を理解するべく、過去の記憶がフラッシュバックする。

 落ちる。歩く。見た人影。こける。

 結局、あの人のもとにたどり着けなかったのか。人影を見た瞬間少し安堵して気づいてもらえると思ってしまった自分がバカだった。都合の良いことは決まって起こらない。


 (くそっ)


 ああ、声が出ない。そういえば喉がカラカラだった。

 休んだおかげか体は動かしやすくなった。足を引きずりながらスマートフォンのライトを頼りに水辺に移動する。白く反射する水。すくうと透明できっと飲めるだろう。

 

 ごくっ


 すぐさま2杯目、そして3杯目をいただく。水が食道を通り、そこのむず痒さを流しとってくれると同時に水を吸収したような感覚がした。

 

 「っはああ、生き返るなーほんと」

 

 水を飲むと胃がギュルギュル言いだした。冷たくてびっくりしたのだろうか。まあいい。



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