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物理を嗜む人、異世界で魔法解析学概論を開講する  作者: 大葉 伽耶郎
魔法を知る
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 僕は足早に理学棟会議室314へ向かう。新学期最初の会議だ。少し暖かくなり始めたので、移動で汗をかいてしまう。新参者のであるため会議室にはなるべく早く入っておきたいのである。


 「失礼します……って誰もいないのか」


 会議室314はかなり大きな部屋で、向かい合って話すために机が教室の中心部を向くように並べられている。なんと贅沢な使い方だろうと思いながら、入口の近くの席に座った。

 

 先ほどの講義の講義ノートとMacブック(パソコン)を机に置く。少しだけ講義を振り返り、もっとうまい説明方法がなかったのか反省することにした。Macブックを立ち上げ、反省の内容を箇条書きにして打ち込んでいく。

 

 5分くらい経つとちらほらと人が増え始めた。他学科の教授だったが別段話すこともないので会釈して作業を続ける。

 集中が高まってきた頃だった。


 「朝永(ともなが)くん」


 「わぉ、あこんにちは。森本さん」


 不意に肩を叩かれて条件反射的に変な声を上げてしまった。

 彼は同じ学科に所属する9才上の准教授である。比較的若い部類である僕らはときどきいっしょに行動する。去年この大学に就職する事が決まって初めて会話したのも彼であるし、今でも昼食を誘うとしたら彼くらいしかいない。先輩後輩の関係である。


 「復習とは偉いな、俺そんなのやった事ないよ」


 「暇つぶしみたいなものですよ。今から特に暇になりますからね」


 「そうだね。さて、内職するかな」


 森本もカバンからMacブックを取り出して開く。すぐに文字が表示されているところから察するにスリープモードだったようで、さっきまで論文を読んでいたのであろう。 

  

 「何読んでるんですか?」


 これだよ、と言って橘はパソコンを傾けてくれた。『The Wormhole as the Solution of Modified Einstein Gravity Theory(修正重力理論の解としてのワームホール)』というタイトルで始まる論文で、今朝ネット上で公開されたらしい。


 「おめでとう、君、異世界いけるよ」


 冗談を言う森本に何言ってるんですかとツッコミを入れる。

 彼は話を続けた。


 「いや、可能性の話だよ。解としてある時空と時空をつなげる事ができるなら、多元宇宙論(マルチバース)を繋ぐ事ができる理論も作れるかもしれないだろ、って意味で異世界と言ってみた」


 「なるほど、そうゆう意味で」

 

 うむ、と彼はうなずきさらに尋ねてきた。


 「異世界行きたくない?」


 「行けるなら行ってみたい気もしますけどね。エネルギー的に厳しそうですけど」


 「まあな。原理的にどうこう言うのは簡単だけど、現実的にどうかって言われる厳しい物ではある」


 「そうですよね」


 うんうんと僕らはうなずく。

 森本はカバンに手を入れて片手に収まるくらいの本を取り出した。


 「実は昨日学生からこういう本を紹介されたんよ。いわゆるライトノベルという奴なんだけど」


 「森本さんが興味持つなんて意外ですね。どんな内容だったんですか?」


 「普通に異世界いく感じかな」

 

 「いや分かんないです」


 それから5分程内容について話した。その物語では主人公は突如異世界に召喚される。それから様々な美少女と事件を解決しながら、その時代の人類の共通の敵、魔王を倒すらしい。彼はまだ途中までしか読んでおらず、あまりネタバレをするのが好きではないらしいので物語の外観しか分からなかった。

 話が終わったところで時計を見る。会議の5分前でほとんどの教授陣が腰を下ろしていた。ただ、学部長はまだ来ておらず不思議に思う。

 

 「珍しいですね、百武さんがまだ来られないのって」


 「なんでだろう。たまに寝てるところ見るし、寝てるんじゃない?」


 「そんな事ありますかねえ……」


 「まあ、一応人間だし」


 百武は学部長の名前である。自分にも他人にも厳しい方で教員、生徒からも恐れられている。去年は(僕にとって)どうでもよい事で大目玉をくらった記憶があるが、何で怒られたのか忘れてしまった。

 他の教授陣も百武が来ないことを不思議に思っている様子。こうなると1番若く、出入り口に近い僕が呼びにいくことになる。


 「ちょっと百武さん呼んできます」


 「おう、よろしく頼む」


 僕は会議室を出た。



――――――――――



目の前には塗装が剥がれかけの木製のドアがある。自分の目線より少し下には円形の厚紙が画鋲で刺されてあって、その紙に『在室』や『不在』、『ゼミ』などと書いてある。紙は回す事ができてルーレットのように目印の上に『在室』が来ている。


 ノックする前に、深呼吸と話す内容を頭の中で整理。そして一通りの礼儀作法を思い出してノックする。


 コンコンコン


 「失礼します、朝永です」


 ドアを開ける。目の前にはホワイトボードがあって本人の姿は見えない。それに返事もない。不思議に思ってホワイトボードの先を恐るおそる覗く。


 「誰もいない……?」


 部屋の左の方のある区画が丸ごと無くなっていた。真向かいにある百武が座っていたであろう机の大半が消えていて、バランスを取る機能を失ったそれは倒れてしまっていた。書類がバラバラになって散らかっている。それに赤い。

 

 物凄い違和を感じた僕はホワイトボードの先に進むことにした。厳格な男性であった百武の部屋は、前訪れたとき引くくらい整然としていたのを思い出す。

 

 ちょうど一歩を踏み出した瞬間だった。僕に見える景色が青空と森に変わった。森がすぐ眼下に見え、床がない事に気がついた。


 「え、ちょ」


 ちょっと待って、という暇もなく僕は落ちた。

 

次回から本編入ります。


なんとか毎日書こうとしてるけど大変ですね。根気が必要です。

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