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忘却姫と永遠の橘  作者: 華月
1/2

日常

初連載です。

なるべく更新出来るように頑張ります!

無機質な、辺り一面真っ白な部屋。

まるで牢獄のように閉ざされた空間に、六歳くらいの少年と少女がいた。



「やだよ……いきたくないよ……ずっといっしょに、いるって、いった、のに……っ…ふぇ……ふ…っっ」


「だいじょうぶだよ。また、あえるよ。………うーん……じゃあ、またあえるように、ぼくのほんとうのなまえをおしえてあげる。ぼくとのひみつだよ」


「な、まえ……?」


「そう。なまえ。ぼくのなまえは___ だ」


そう言って少年は淡く微笑んだ。




**



「……夢か…………」



窓からわずかに漏れる光に目を細めながら、ゆっくりと起き上がる。


しかし、次の瞬間にはある一点を見て叫び声を上げた。もちろん、喜びのではない。悲しみの、だ。



「いやぁぁぁぁぁ! 誰か嘘だと言ってぇぇ! これ完全に遅刻だから! なぜもっと早く起きれなかったんだ私! 」


この五日間、連続で遅刻している私は昨日先生に言われたのだ。明日時間までに居なかったら、放課後居残ってもらう、と。しかし、今日は駄目だ。本家から呼び出されているのだ。放課後は絶対に帰らなければいけない。確かに、五日間も連続で遅刻した自分が悪いのだとは思うが、朝は弱いのだ。起きられないのだから仕方がない。


とにもかくにも、滑り込みでもなんでも絶対に間に合わせなければ。急いで制服に着替えて、昨日買ってあった菓子パンを咥えて家を出た。










教室のドアを思い切りバンと開けると、びっくりしたクラスメイトが全員こちらを振り返った、と同時に先生も教室に入ってきた。


「お。文月(ふみづき)、今日はギリギリセーフだな。次からも気をつけろよ。ま、とりあえずそんな所に突っ立ってないでとっとと席に着け」


どうやら間一髪で間に合ったようだ。これで放課後は帰れる。 私は胸をなで下ろした。


「今日は間に合って良かったわね。ギリギリだけど。髪もボサボサで、見るに堪えない酷い格好だけど」


席に着くと隣の席からヒソヒソと話しかけられた。

辛辣なことを言っているが、一応これでも親友だ。

名前は、藤堂梨沙(とうどうりさ)。梨沙が小学校三年生で転校してきてからの腐れ縁で、もう七年間も一緒にいる。肩まであるストレートな黒髪、ぱっちりとしている目、色白な肌、堂々とした態度は、十六歳とは思えないほどに大人な雰囲気を醸し出している美少女だ。男女関係なく学校一の人気者と言っても過言ではないほどで、ファンクラブも存在するという。おかげで、一緒にいる私まで目立ってしまっている。しかし、不思議なことに梨沙と比べれば地味な私が梨沙と一緒にいても、妬まれたり憎まれたりしたことがない。「目の保養ですから〜」と言われて、見守られている。

……どういう意味なのだろうか。




「梨沙……ひどい。ていうか私、そんなに髪ボサボサ? ………まぁ、急いで出てきたから仕方ないか。

とりあえず、後で直す……」


「……あんた、顔は良いのになんでそんなに抜けているの。夜更かしはやめなさいっていつも言っているでしょう? 気をつけなさいよ」


呆れた顔でそう宣った梨沙はお母さんみたいだ。辛辣なことを言いつつも、いつもさりげなく私を心配してくれるのだ。

梨沙のそんな所が、学校一の人気者と言われる所以なのかもしれない。

でも、この顔を褒められるのはちょっと訳が分からない。私の顔は、どこをどう見ても地味だ。梨沙のような大人な色気も皆無。こんな地味顔な私が、梨沙の隣に並ぶものなら、たちまち私の顔はのっぺらぼうと化すだろう。梨沙には自分を貶めるなとよく言われるが、一族では散々この顔で嘲笑されてきた。

自分の身の程は弁えているつもりだ。今では、開き直ってあまり気にしないことにしている。






「梨沙、今日は帰るねー! 」


「あら、今日はフルーツバイキング誘おうと思ってたのに。何か用事?」


「うん。実家に帰るの。フルーツバイキングには行きたいけど、今日は無理かな。また今度誘ってよ」


「一人暮らしも大変ね。じゃあまた今度行きましょう。気をつけて帰るのよ?」


フルーツバイキングには行きたかったけれど、仕方がない。本家から呼ばれる理由がさっぱり分からない以上、帰らないといけない。



私、桜宮詩花(さくらみやしいか)の家はいわゆる旧家というやつだ。また、異能力者を多く輩出してきた家でもある。なかでも、桜宮本家の直系の人間はより強力な未来予知の異能を操るとされており、その有り余る力を制御出来るように制御ピアスを必ず装着するというのは、とても有名な話だ。凄い者では、数十年先の未来をも見通すことが出来る。国では重宝される能力であるので、国家の裏では桜宮一族が暗躍して、国の未来を視ているという。

だから、高校では面倒事を避けるために桜宮ではなく、母方の実家である文月と名乗っている。


かくいう私も、直系筋の人間であり現当主の娘だ。しかし、私は役立たずだ。直系の人間のくせに分家筋にも劣るという、一族からは半ば捨て置かれていた存在だ。いくら修行しても強くはならなかった。だが、そのおかげで高校からは一人暮らしの許可をもぎ取ったわけだが。

今から向かう本家は、そんな嫌な思い出しかない場所だ。当然のごとく憂鬱である。なんなら今からでも、回り右して梨沙とフルーツバイキングに行きたい。


しかし、今まで捨て置かれていた私が呼ばれるとは一体どういう事なのか。嫌な予感しかしない。




**





高い塀に立派な門構えの日本屋敷が見えてきた。

その間取りは、旅館のように入り組んでいて初めての人は必ずといっていいほど迷子になる。

広大な敷地の中には、上品な日本庭園も広がっている。まさに豪邸だ。周りは森に囲まれていて、異能を仕掛けて侵入者を迷わせる、という使い方をしているらしい。異能力者の名門どころである桜宮はこの国において重要な役割を務めている。桜宮の人間は狙われやすいのだ。


――私にはもう関係ない話だと思うけれど。




「おかえりなさいませ、お嬢様。旦那様が、桜の間にてお待ちでございます」


久しぶりに中に入れば、当主である父様の側近の東條(とうじょう)が無表情を顔に貼り付けて待ち構えていた。相変わらずのようだ。他の人間に比べれば、私のことを表立って見下すことはしないが、庇うこともない。まぁ、当主の側近が私情で動くこともあってはならないのだが。でも、私にとってはやりやすい。

私の方も何の感情をのせずに接することが出来るからだ。一族の人間が相手だと、悲しんでいるというあからさまな表情をとらなければ、さらに悪化の一途を辿るばかりなのだ。もう慣れてしまっている嘲笑も、幼い頃は気になって仕方がなかった気がするのだが、いつからだったか気にしなくなった。多分、いつも優しかった母様が亡くなったあたりだったと思う。きっと、庇ってくれる人がいなくなって、嫌でも自分をしっかり持たないといけなくなったのだ。父様が私に冷たく接するようになったのも、この頃からだ。


何はともあれ、桜の間ということは一族のほとんどの人間が集まっているだろう。桜宮の大事な会議などもそこで開かれているし、一族で集まる時は大抵の場合は桜の間だからだ。今回は後者の場合での使用だろうか。そう思うのは、役立たずの私が桜宮の大事な会議に参加するなど絶対にありえないからだ。






しかし私の予想に反して、広々とした桜の間にいたのは当主である父様ただ一人だけだった。

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