仔猫の気持ち
「・・・・・・・・・・・・。」
気持ちの良い秋の日差しの当たるリビングの、柔らかいソファーの上でまどろむ様に丸まっていたら、どうやら本格的に眠り込んでいたらしく、自分の名前が呼ばれたような気がして目を覚ますが、本統にそれが自分の名前であったという自信をもてなかった。
「フィル?」
今度こそ自分の名が明瞭りと聞こえた。だから矢張り、先ほども聞こえた気のした声も、自分を呼んでいたのだ。
「うみゃぅ」
生返事をしながら、少しだけ顔を上げて、名前を呼んだその人を確認して、又丸くなる。こんな天気の日は、こうやって丸くなっているのが一番だ。他に何もする気に成れない。しばらくして、いや、それ程でもないのかも知れないが、ソファーが人の重さに沈むのが感じられた。自分を拾って家に置いていて呉れる青年が、背中を優しくなでて呉れる。その心地良さに大きな欠伸が出た。
「今から出かけるけど、一緒に行くか?」
「みゃ?」
出かける?何処へ?何時もの所?
人の言葉を喋る事は出来ないが、彼は何時だってきちんと解って呉れる。
「紅葉狩り。フィルの知らない人が沢山来るけど。」
「うぅみゃぅ」
出かけるのは好きだけど、知らない人が一杯居るのは嫌。知っていても会いたくない人も一杯居るし。それに、多分今日はあの子も一緒。彼の雰囲気が一人で居る時と、どこか微妙に違う。そんな時はいつもそうだ。ふてくされて、丸くなる。邪魔してはいけない事を、識っているから。
彼はその後、すぐに出かけて行った。本統はフィルと話している時間も無かったのかも知れない。
「にゃうぅ」
独り家に取り残されて、それでも一言声を掛けて呉れた事に満足して、一声鳴いた。