御令嬢の最後の恋
その日も、私はベッドの上。
病に侵されて意識がボンヤリしていた。
体があつい
頭がいたい
誰か……いないの?
涙が自然とこぼれる。
すると、誰かが私の涙を拭う。
ぼんやりとした視界の中に彼をとらえる。
私の婚約者にされてしまった可哀想な人。
あなたにこんな病弱な女は似合わない。
けれど、義理堅いこの人は婚約者としてそばにいてくれる。
私が微笑むと彼は私を痛ましそうにみて、私の手を両手で包んだ。
「神様、どうか……」
祈る彼の表情は窺い知れなかった。
彼の様子が気にかかったが、私は意識を手放してしまった。
――――――――――
目を覚ますと、私は病院にいた。
いえ、病院のような場所にいた。
私ひとりしか居らず、牢屋のような格子扉がそこにはあった。
私の体は、病に侵されているために首を動かして視界に入る部分しかわからない。
そのままじっとしていると
キィ……
と音を立てて格子扉が開いた。
「お目覚めになられましたか。」
知らない男がそこにいた。
起き上がろうと身をよじる。
「そのままで結構ですっ」
と慌てて男が止めてくる。
私はそのまま横になって、男の話を聞くことになった。
父が国庫に手をつけたこと。
それを隠そうと裏で悪いことを他にもしたこと。
そのため、父は捕まり、牢屋にいること。
父が手にしたお金はほとんど私の治療に使われていたこと。
私は、目の前が真っ暗になった。
私の病は不治の病で、治る見込みもないとも言われた。
男は言わなかったが、きっと私も父と一緒に処刑されるのだろう。
「わかりました。私は、ここで処分を待ちます。」
男にそう告げると、一礼し、ここから出ていった。
キィ……と扉が閉まる。
私は、知らぬ間に大罪人になってしまっていた。
父に罪を犯させてしまった。
彼に、迷惑をかけたくない。
――――――――――
大罪人の娘が自決した。
都はその噂で持ちきりだった。
可哀想な不治の病に侵された娘が父親のしたことに責任を感じての自殺だとされたからだ。
可哀想なお嬢様として、人々に伝わった。
国の金に手をつけたことは許し難いが、情状酌量の余地があるとして父親は処刑を免れ、国のために奔走することとなった。
世間はそれで納得し、いつしかその事件のことは人々の意識から廃れていった。
――――――――――
「どうして」
彼女の葬儀は秘密裏に行われ、その遺体を見ることすらかなわなかった。
ただ、彼女からの一通の手紙だけ遺品として渡された。
そこには、婚約者である自分への悪口が書かれていた。
冷たいだとか
触れられるのも嫌だったとか
震えた字で書いてあった。
これは、彼女の精一杯の虚勢だろう。
『もう、私を想ってくれなくていい』
そう言われている気がした。
月日が経ち、時間が彼女を忘れさせてはくれず
けれども、縁談はひっきりなしにくる。
縁談に頭を悩ませては、彼女からの手紙を手にとってしまう。
自分の悪口が書かれているのを知っているのに。
女々しいとは思いつつも、手放せなかった。
もう何度目かそれに目を通そうと開くと、便箋の端がめくれていることに気づいた。
一枚だと思っていた便箋には、二枚目があったのだ。
破らないようにペーパーナイフを使って一枚目と切り離す。
二枚目は、悪口の書かれた一枚目より短かった。
愛しています。
どうか、愛しいあなたが幸せになれますように。
「どうして」
俺が幸せにしたかったのは、
共にありたかったのは……
他でもない君だったのに。
どうして君は逝ってしまったんだ。
――――――――――
大罪人は国のために身を粉にして働き、その成果を認められ罪を償ったとされた。
地位も与えられていたが、それを固辞し国のために尽くし生涯を終えた。
娘への償いにはまだ足りないと、言い残し息を引き取ったという。
大罪人の娘は、いつしか聖女と呼ばれるようになった。
聖女の恋は、彼以外に誰にも知られることはなかった。
婚約者の存在も知られることはないままに。
世界は時を進めていく。
バッドエンドな話を意識して書いたので、悲恋にしました。
男性視点の挑戦してみたのですが、難しかったです。精進します。




