ボスの命令には逆らえない
俺は愛車である赤いポルシェを転がすように走らせる。今日もいい感じに滑るように走るコイツが俺の一番のお気に入りであり、相棒だ。
今日のコースは……なるほど、普通の車ならドリフトを決めなければ到底曲がり切れないであろう急カーブの続く上級者コース、と、言った所か。
──面白い。
俺のドライブテクニックを舐めているようだが、今日の相棒のコンデション最高。いつにも増して赤い車体が輝いて見える。そんな相棒を転がすのは誰かって? ……この俺さ。
定められたスタート地点では、敵である車の面々がエンジンを蒸している。その轟音でビビってるようじゃ、超一流ドライバーとは言えない。
いつでもいいぜ、かかって来いよ。待ちくたびれて欠伸が出るぜ?
そしてついにカウントダウンの如く、合図を告げる赤いランプに火が灯った。
スリー、ツー、ワン……ゴーッ!!
「ブーンッ!! キキーッ!! いっけーッ!! うりゃぁぁぁぁッ!!」
「ケンちゃーん? うるさいわよー。遊ぶならもっと静かに遊びなさーい?」
「……ごめんなさーい」
はあ……がん萎えだ。せっかく気分も乗ってきて、これから相手の車を相棒の必殺技『超ウルトラスーパーレジェンドアタックバスター』で倒そうとしていたのに。──しかし、母親の命令は絶対だ。これに逆らう事、即ち、死に繋がる。俺はまだ六年しかこの世に生を受けていなので、死に急ぐような真似はしないのだ。昔の人も言っているだろ? 『君子、危険に近寄らない!!』って。きっと君子さんは超聡明な人だったんだろう、六年生になったら君子という人物のことを習うかな? 今から楽しみで仕方がないぜ。
しかし、すっかり気分が萎えてしまったので、これ以上車で遊ぶのも難だ。残念だが愛車と敵役に配置していたブルドーザーとショベルカーと消防車をオモチャ箱に戻して、不貞寝でもしてやろうとソファを陣取る。──しかし、またしてもボスが苦言を言いに来た。
「ケンちゃん、お昼寝ならベッドでしなさい。ここに寝たらママが座れないでしょう?」
「はーい」
全く、注文の多いボスだな。ここは料理店か? 我輩は猫なのか?
そろそろボスの視線が死線になりそうなので、にゃんごろとソファから落ちるように下りてから自室へ向かった。
俺の自室は組織から身を隠す為に電磁波が出ている。この妨害電波によってやつらに発見される心配はない。つまり、俺のおかげでこの『山田家』は守られているのだ。感謝はされど、叱咤される謂れはないのだが……少々、宝物と武器が部屋に散乱しているのも事実。片付けの命令が下されたのは三日前だが、俺は機能を優先しているので、この命令だけ無視を決め込んでいる──けど、そろそろ片付けを遂行しなければとも思う。機能を優先するか、整理を優先するか、この問題は国会でも議論されるほどのお題目で、俺は大統領からの指示を待っていた。
取り敢えず眠ろう、戦士だからこそ休息は取れる時に取っておいた方がいい。ベッドに寝転がり、目を閉じた──その時、例えようもない殺気が俺の脳裏を過ぎった。
馬鹿な、この場所が奴らに見つかるはずがないッ!! しかし、どうにかして奴らはこの妨害電波を……えっと、あの……アレしたらしい!!
俺は護身用にと枕元に置いている『シャイニングソード』を片手で手繰り寄せ、ベッドに立ち上がった。
「──そこかッ!! てやッ!! デュクシッ!!」
奴らは自分の身体を透明に出来るスーツも身につけているようだが、俺くらいのソルジャーになると、その姿を視認できる。ふふふっ、甘かったな……と不敵な笑みを浮かべて、奴らにトドメを指すべく、必殺技を放った。
「スーパーギャラクシー斬りッッッ!!」
スーパーギャラクシー斬りは伝説の秘奥義で、これを喰らった相手は死ぬ。悪に対して絶対的な力を誇る、最強の必殺技だ。奴らはこの一撃を受けて満身創痍、もう虫の息になっている。だが、俺の必殺技を受けてなお、息があるとはさすがは腐っても機関の構成員といった所だな。
「さてと……最後に言い残す事はあるか?」
俺はまだ息のある構成員の一人の首元にシャイニ……剣を突きつけた。
すると、奴は俺に命乞いをするかのように片手を差し伸ばして、最後の力を振り絞るように、か細い声を上げる──。
「ケンちゃーん!! お二階で暴れないのーっ!!」
「……はーい、ごめんなさーい!!」
チッ……命拾いしたな、貴様ら。
本来なら消し炭にしてやる所だが、ボスには逆らえん……いけッ!!
はあ……どうしてママはいつもいい所で邪魔してくるんだろう……?
完
■あとがき■
『ボスには逆らえない』を読んで頂きまして、誠にありがとうございました。
この作品は現在執筆している【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】に出てきた一節から思い浮かべた途轍もなくくだらない作品ですが、皆様が少しでも笑えたのなら、この作品も書いた意味があったかなと思います。
実際にこんな事を考えている子供はいないと思いますし、この歳でこんなに変な知識を持ってる子供とか……まあ、そこは言及しませんが、取り敢えずぶっ飛んだ話が書きたくてダラダラと駄文を書いてみました。
もしよろしければ、上記に書いてある作品も読んで頂ければ幸いです。
駄文長文、失礼いたしました。
by 瀬野 或