94話 『元盗賊、アルスとカルスが仲間になった!』
「ダンの兄貴! とうとうあのガキが見つかりましたぜ!」
「やっとか……全く。少し手こずりすぎじゃねぇーかたかが一人のガキ探すのによ……」
「すいません! ガキの情報が名前と容姿以外なかったもので……」
「もういい。わかったからガキがどこにいるのかさっさと教えろ」
どこかの廃墟の中そんな会話がされていた。
廃墟の中にいるのは今は二人だけ。
一人は弱々しくいかにも下っ端といった感じの男。着ているのはボロボロのズボンとローブ、そしてボロボロのブーツ。明らかに貧しいものの服装だ。
だがそれとは対照的なのがもう一人の『ダンの兄貴』と言われた男。上半身には黒のコートを素肌に着ており下には上質な黒革のズボンと黒のブーツをはいており足には金色の足甲をつけている。ズボンについているベルトには何本ものナイフが付けられており輝きを放つ。どことなく危ない雰囲気を感じる緑髪、赤い目の男の名はダン・グリード。
とある闇ギルドのリーダーだ。
彼らはある一人の少女を数年ほど前から探していた。少女を探す理由は一つ。
彼らの理想を叶えるため。
「はい! ガキが見つかったのはアフォレスト街近辺です!」
「アフォレスト街……だと?」
ダンはその街の名前を知っていた。
いや逆にその街の名前を知らない人間の方が少ない。
闇ギルド【魔石】。
闇ギルドの中でも上位のギルド。
その【魔石】の本拠地があった街。そして闇ギルド【魔石】のリーダー、マクシスが殺された街。
闇ギルドの中ではかなり有名な話だ。
「アフォレスト街か……そうか。ならちょうどいい……明日にでもアフォレスト街に行くぞ。殺る気のあるやつらを全員すぐに集めろ!!」
「了解です!」
マクシスとはダンも何回かあった時がある。ダンは今まで自分より強いと思えた存在には全くと言っていいほど出会ったことがない。
マクシスという存在はダンにとってそんな数少ない、自分より強い、自分と互角だと思えるものだった。だからマクシスが殺されたと聞いた時は驚いたものだ。
自分と互角だと思っていた存在がやられた。
それはつまり自分より強い存在が現れたということ。
(楽しみだぜ……アフォレスト街……。そういえばマクシスの野郎を倒しやがったのは確か冒険者だったはず……確か名前は……)
アフォレスト街に行くことを楽しみにしながらダンは笑う。その笑顔は邪悪なものだ。
ダンはマクシスという己と互角の存在を殺した冒険者の名前を記憶の中から引っ張り出した。
モルス・ディアス。
それがマクシスを殺した冒険者の名前だった。
☆☆
「ここがあんたの泊まってる宿屋? 狭いわねぇーめちゃくちゃ。あとなんか古くない? この部屋」
「まぁ一人部屋だしそりゃ狭いだろうけど……古いっていうのは店主さん、ガルシアさんに失礼だからやめてね」
「ほ、本当にここに泊まらせてもらっていいんですか? モルスさん」
「うん、もちろん。これからは同じ冒険者で同じパーティーの仲間なんだからさ。あ、二人はベッドで寝ていいよ。俺は床で寝るから」
アルスとカルスの冒険者登録を終えて酒場宿屋【ベオ】に帰ってきた時にはもうとっくに日は沈み時間帯は夜になっていた。
二人を外で野宿させるわけにはいかないのでこうして俺の部屋にまで連れてきたのだが……元は一人部屋のために三人が部屋に入るとそれなりに部屋は狭く感じられた。
アルスとカルスにはベッドで寝るように言って俺は部屋の床で寝ることにする。
「は? そんなの当たり前でしょ? 私は最初からベッドで寝るつもりだったし!」
「そうですか……」
「すいません。こんなお姉ちゃんで……」
俺が二人にベッドで寝るように言う前からベッドを占領し、枕をぎゅっと握っているアルスの言葉に俺は疲れ切ってそう返す。
今日はそこまで疲れたことをしたつもりはないが俺の体は疲れ切っていた。
そんな俺を心配してくれるカルス。
「じゃあ明かり消すけど……早く寝てよ? 騒がないでね?」
「騒がないわよ! 子供じゃないし!」
「はいはい。じゃあアルス、カルス、おやすみなさい……」
「はい、お姉ちゃん、モルスさん、おやすみなさい」
「……おやすみ」
カルスに俺は軽く笑顔を向けて部屋に置いてあるランタンの明かりを消して二人に『おやすみなさい』と言った。
いくつかあった毛布を何枚かとって、それをばさりと頭からかぶって俺はすぐに眠りに落ちた。
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