92話 『元殺人鬼の提案 前編』
「ふぅ〜食べたわ。もうお腹いっぱいよ私」
「うん僕も。久しぶりにお腹いっぱいになるまでご飯食べたよ」
「それはよかった……ってアルス、君結構食べたね……え、皿が一枚二枚三枚……カルスくんの分は含まれてないよね……これ」
「はい。お姉ちゃんが食べた分だけです」
「……まじでか……!?」
昼ご飯を食べ終わった俺はアルスの席に積み重なって置いてある食べ残し一つない皿を見てギョッとした。
確かアルスが頼んでいたのはステーキとかの高いものばかりだった気が……もしかしてその皿、全部ステーキが乗ってた皿じゃないよな……?
『多分3人分の飯代ぐらいだせる』
……果たして本当にだせるのか不安になってきた……。
「る、ルールさん! か、会計お願いします!」
「はい、わかりました!」
俺はそんな不安を心の中に無理やりしまい込みルールを呼ぶ。できるだけ隣に座る子供二人にはその不安を悟らせないように無理に笑顔を作る。
どうだろうか? ちゃんと自然に笑えているか?
……わからない。もしかしたら側から見たら不自然すぎる笑顔に見えるかもしれない。
ルールが会計するのをそんなことを考えながら待つ。そして会計、アルス、カルス、俺の3人分の飯代が告げられた。
「合計金額は銀貨8枚に銅貨10枚です」
「ぐはっ!!」
「も、モルスさん! だ、大丈夫ですか?」
伝えられたその金額に俺は立ちくらみを覚えて倒れそうになるがカルスがギリギリのところで支えてくれたようだ。小柄なその体のどこに俺を支えれるだけの力が? と疑問に思いつつ「あ、ありがとう」とだけカルスに言う。
「? なんでそんなに驚いてるのこいつ?」
「お姉ちゃん……それ本気で言ってる?」
「?? そうだけど」
(このアルス……まじで言ってるのか?)
盗みをしていたのに銀貨8枚、銅貨10枚という飯代の異常さを理解していないのか!? と思う。
普通に考えて見てほしい。
俺が少し前、一時間ほど前に買った短剣。これは基本的な短剣より値段が高いもので値段は銀貨5枚だ。
この銀貨5枚がどれほどのものかというと丸一日ならなんの不便もなく生活できるぐらいのもの。
これよりも一度の食費、飯代が高いというのは普通に考えてやばい、やばすぎる。
そんな大金、果たして俺の皮袋の中に入っているだろうか……?
「……あった。ぴったり……」
偶然所持金は全部合わせて銀貨8枚、銅貨10枚あった。冒険者の仕事、依頼を受けた時にもらった報酬をそのまま皮袋に入れていたのが幸いしたようだ。
「はいたしかに。銀貨8枚、銅貨10枚。ありがとうございました! モルスさん! またぜひきてくださいね!」
あとお金大丈夫ですか? と俺にだけ聞こえる声で聞いてくるルールに「大丈夫……ですよ……はい」と言い俺とアルスとカルスはルレット夫妻の宿屋を出た。
宿屋を出る時に俺を見てきたカルスの目にこもっていた感情『申し訳ない』をすぐに察知した俺は泣きなくなってきた……がそんな俺とカルスを見て首を傾げているアルスが視界に映ったのでそんな思いもすぐに消えた。
☆☆
「アルス、カルス……君たちに聞いておきたいんだけど」
「? 何よ?」
「な、何ですかモルスさん?」
「この後も……盗みとかするのか? 反省せずに……?」
「盗みをするもしないも、生きるためにはそうするしかないんだからしょうがないわよ」
「そう……ですね。生きるためには僕たちはそうするしかありませんから……」
アフォレスト街の広場でアルスとカルスはこれからも盗みはする。そう遠回しに口にした。
それを聞き俺は「なら」とある提案を二人の盗賊にした。
「一つ提案なんだけどーー」
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