8話 『冒険者ランス・ウィリアム』
僕、ランス・ウィリアムは冒険者だ。
それもこの街では数少ない金ランクの冒険者であり、そこらにいる無能な素人冒険者とは違う。魔物の討伐依頼をこなした僕は受付カウンターにいる受付嬢に依頼達成の報告をしていた。周りからの視線を感じながらあえて気にしないふりをする。
レベル30にもなれば大抵の依頼は簡単にこなすことができて、今達成した依頼も簡単にこなせて何一つとして物足りなかった。
僕が冒険者になった理由は自分の力を試すためだ。決してこんな簡単な仕事をするためではない。
僕は少し苛立ちを抱いていた。
「まったく、もっと難易度の高い依頼はないのか? 僕にふさわしいーー」
『レベルの依頼は』そう言おうとしていた僕の言葉を遮るようなタイミングで耳に組合の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
なんだいったい?
音のした方、組合の出入り口の扉に目をやればそこには黒髪赤目にフォレスト街ではあまり見ない黒い服を着た細身な青年が立っていた。
「えっと……お、おじゃまします」
おどおどした様子でそう口にした青年はしばらく冒険者組合内を見渡してこちらに向かって歩いてきた。その様子から組合にきたのが初めてだということがうかがえた。
☆☆
「君、冒険者になるつもりかい? やめたほうがいいよ。君のような細身で弱そうな人は特にね」
僕は言葉を遮られたことは少し根に持ちながら青年にそう忠告をした。
だが青年は、
「あの、どなたか知りませんがすいません。冒険者にはなりたいので……」
とだけ言って紙に自分の名前を書く。
人がわざわざ忠告してやってるというのに……。
本当にこの街の人間はバカなやつらばかりだ。
青年は紙を受付嬢に渡すとギルドカードを受け取った。バカなやつらばかりだがここの受付嬢の仕事のはやさは確かだ。
受付嬢からギルドカードを受け取った青年。
「ありがとうございます」
ギルドカードをしっかり握り、僕の横を通り過ぎて冒険者組合から出て行こうとする。
「まったく僕の忠告を聞かないなんて……君はどうやらかなりバカな人間のようだね」
「……離してもらえませんか?」
僕はそんな青年の腕を掴んだ。
腕を掴まれた青年は見るからに嫌そうな表情をした。その表情が僕をさらに苛立たせた。
だから僕は彼の腕を掴む力をさらに強くする。
だが次の瞬間、
「よっと」
「っ!?」
青年は僕に、あきらかに意図的に足をかけてきて尻餅をつかせた。予想もしていなかった彼の行動に僕は困惑した。
僕は慌てて青年を見上げる形で見た。
「すいません。足がすべりました」
青年はそんな僕を見て軽く頭を下げるとさっさと出入り口の扉に向かっていった。
「待て! スキル発動!」
僕はすぐに立ち上がり、そんな青年の後ろ姿を見てそう言った。
スキルというのはこの世界に生まれてきたものがまれに持っている特殊な力のことだ。
僕のスキルは『戦闘力解析』。このスキルがあったからこそ僕は安定してレベルを30まで上げてきた便利なスキルだ。
効果は見た相手のレベルを知ることができるというもの。
僕はそんなスキルを使って青年を見た。
そして、
「……は、はぁ!?」
驚きに声を上げた。
スキルを発動した結果、青年のレベルは、
『?』と表記された。
今までこの力が間違ったレベルを出した時はない。効果が発動しなかった時もない。
「なんなんだ……あいつは……」
組合から出て行った青年に俺は呟いた。組合内はあまりにも突然の出来事に静まりかえった。
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