7話 『アフォレスト街の冒険者』
「魔物討伐お疲れ様です。相変わらずの速さですねランスさん」
「当たり前だろ。僕からしたらこんなレベルの依頼、簡単すぎるほどさ」
冒険者組合の受付嬢に依頼の達成を報告しにきた金髪青目の偉そうな冒険者は組合にいた他の冒険者にも聞こえる大きな声で、やはりどこか偉そうにそんな言葉を口にした。
この冒険者の名前はランス・ウィリアム。
アフォレスト街ではそこそこ有名な金ランクの冒険者だ。アフォレスト街にいる冒険者の数はそれなりであり平均レベルも15と普通。だが彼、ランスのレベルは30と他の冒険者よりは明らかに強い冒険者である。
だが、性格に問題があるためにいまだにパーティーを組む相手がいない残念な男だ。
「またあのお坊ちゃんは騒いでんのか……うるせーなまったく……」
「しょうがないだろ実力は確かなんだ、それにこの街では数少ない金ランクの冒険者だ。威張りたくもなるさ……ちょっと調子に乗りすぎだがな……」
先ほどまで静かだった組合内にいた冒険者の二人組はそんな言葉を漏らす。
このアフォレスト街には高炭素鋼ランクの冒険者は1人もおらず、一番高いランクの冒険者は白金。その冒険者を除けば金ランクのランスは冒険者としてかなり上にいる存在だ。だからこうしてランスは組合に来ては度々偉そうな態度をとっていてそれが原因の一つで他の冒険者からはよく思われていない。
今回のようにランスが偉そうにしてるのはずいぶん前からのことであるため多くの冒険者は慣れていた。
「まったく、もっと難易度の高い依頼はないのか? 僕にふさわしいーー」
上から目線な発言をランスがまたしようとしたその時、バン……と冒険者組合の扉が勢いよく開く音がした。
そのあまりにもすごいタイミングに組合内にいた冒険者のほぼ全員が音がした方に視線を向ける。
冒険者たちの視線の先にはこの辺りでは珍しい黒髪に赤目、見た時もないような黒いフード付きの服を着た少し細身の青年が立っていた。
「えっと……お、おじゃまします」
組合に入ってきた青年は少し緊張した様子でそう言った。
☆☆
緊張しながら冒険者組合に入った俺はまず落ち着いてあたりを見た。店内? には結構な数の人がいて、その人たちの多くが鎧や武器を身につけていた。
きっと冒険者の人たちだろう。
「(えっと、確かまずは受付嬢さんがいるカウンターで冒険者登録をするんだったけ……?)」
ゴーグが酔いつぶれる前に教えてくれた情報を思い出しながら俺は受付カウンターを探す。
探せば受付カウンターが奥に見えた。店内? の中央部にあるカウンターに向かって俺は歩き出した。
なぜか周りの人たちからすごい視線を感じるがなんとか前だけを見て無視する。
「アフォレスト街、冒険者組合へようこそ。今日はどのような御用でしょうか?」
「えっと、冒険者登録っていうのをしたくてきたんですけど……今、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。冒険者登録ですね?」
受付カウンターの前に立っている受付嬢であろう女性に声をかけられた俺は若干早口で自分の用件を彼女に伝えた。
それを聞いた彼女はカウンターの奥にある棚を開けて中から一枚の色ムラのある紙をカウンターの上に羽根ペンと一緒に置いた。
「ここに名前をお書きください」
「はい、わかりーー」
「君、冒険者になるつもりかい? やめたほうがいいよ。君のような細身で弱そうな人は特にね」
「……?」
羽根ペンを手にとり紙に名前を書こうとした俺は突然真横からかけられた声に咄嗟に名前を書く手を止めて声のした方を見た。
そこには金髪青目の真っ白な鎧を着たイケメンがいた。
いや誰? あと、なんでちょっと不機嫌なのこの人……。
「あの、どなたか知りませんがすいません。冒険者にはなりたいので……」
というかならないとお金が……これからの生活が……!
俺はイケメンさんから目線を外し、再び紙を見て羽根ペンを手にとり丁寧に自分の名前を書いた。
「はい、確認します。モルス・ディアス様ですね? では、こちらが冒険者の証明書、ギルドカードです。どうぞ」
「(は、はやいな!)ありがとうございます」
元いた世界ではこういう登録とかにはパスワードやメールアドレスを入力しないとダメだったりで面倒くさいのに冒険者登録のスムーズさにちょっと驚きだ。
受付嬢? が手渡してきたギルドカードと呼ばれる紙は名前を書いた紙とは違って皮でできていた丈夫な紙だった。それを受け取って俺はさっさと宿屋に帰ろうと冒険者組合をあとにしようとした。
「まったく僕の忠告を聞かないなんて……君はどうやらかなりバカな人間のようだね」
「……離してもらえませんか?」
なぜかイケメンさんに腕を掴まれた。
なんなんだ? 俺なんか悪いことしたっけ? まったく身に覚えがないし、この人とは初対面のはずだが……?
彼は眉間にしわを寄せていてかなり不機嫌な様子で俺の腕を力強く掴む。
なんなんだよ本当に……面倒だな……。
俺は異世界にきて初めて苛立ちを覚え、俺の腕を掴みながら近付いてくる彼に、
「よっと」
「っ!?」
足をかけた。
突然のことに驚いた彼は咄嗟に俺から手を離し床に勢いよく尻餅をついた。
「すいません。足がすべりました」
思ってもいない謝罪の言葉とばればれの嘘を口にし頭を軽く下げた俺は逃げるように組合の扉を開けて外に出た。
「待て! スキル発動!」
そんな声が後ろから聞こえたが聞こえないふりをした。外に出て宿屋に向かう。空は茜色に染まっていて太陽は少しずつ沈んでいた。
ふと、元いた世界の丘を思い出したが気にせず俺は走る。冒険者にもなれたし明日から仕事するぞ! あとルールとゴーグにも、もう一回ありがとうって言っとかないとな、と思った。
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