72話 『元殺人鬼VS魔術師 前編』
「いたたっ……顔が痛い……!」
「他の冒険者を救うために自ら時間稼ぎ役、囮になるなんて……とんだ馬鹿ですねあなたは。闇ギルド【魔石】のリーダーである私、マクシスを相手に時間稼ぎ……果たしてどれだけ持ちますかね?」
蹴られた自分の顔を手で触ると手に血がついた。
どうやら少し頭と鼻から出血したらしい。
俺は手についた血から視線を外して俺を蹴った男、マクシスを見る。
マクシスという名前を聞いて俺は緊急依頼の内容の一つを思い出した。
『闇ギルド【魔石】リーダー、マクシスの捕縛または殺害』
この男がそのマクシスって人か……。
「時間稼ぎとは言いましたけど……黙って始末、殺されるつもりはないですよ……!」
俺は壁に手をついて立ち上がり、激突した壁の隣にあった本棚から本を一冊取りマクシスに投げつける。
「おっと、本を人の頭めがけて投げてくるなんて本当に冒険者というのはーー」
「はぁっ!」
俺が投げつけた本をマクシスは簡単にキャッチしてやれやれとつまらなそうに後ろに本をぽいっと放り投げる。
そんな余裕ぶった隙だらけのマクシスに向かって俺は全速力で接近し右手に持ったナイフをマクシスの胸に向けて突き刺そうとした。
「その程度の速さじゃ当たりませんよ?」
「っ!?」
「ではくらってください。爆炎よ!」
ナイフを持ちそれなりの速度で動いた俺の右腕をマクシスは左手で軽々と掴みナイフの軌道をずらす。
俺が振るったナイフはマクシスの顔の真横をかすめ避けられ、マクシスは俺の腹部辺りに赤いマーク? のついた右手を広げそう口にした。
「がっ!? ぐぁぁぁっ!!」
瞬間俺の腹部を中心になぞの衝撃と熱さが走る。
そして爆音も。
俺はその熱さが元いた世界の爆弾のものに似ていると感じながらまたしても後方に吹き飛ぶ。
蹴られた時以上の痛みを受けながら次は壁ではなく本棚に体を強くぶつけた。
一瞬呼吸が苦しくなる。
「がっ……」
(な、なにこれ!? 腹から黒い煙……え、いつのまにか爆弾でも起爆されたのか?)
いやそんな素振りはなかったはず……。
ただ、爆炎よ、とだけ言っていた。
そんなことを思考していた俺はなぜか先ほどゴーグが口にしていた言葉を思い出した。
『魔術師』
たしかにゴーグはマクシスに向けそんな言葉を口にしていた。
俺は倒れた体勢を起こしながらマクシスの服装を見てみる。
黒いコートはまるでファンタジー世界の魔法使いが着ているようなもの……。
(あれ? も、もしかして俺が今受けたのって……ま、魔法!? い、今のが!?)
そう考えればマクシスの右手にある赤いマークが本やアニメで見たときのある魔法陣とかいうものによく似ていた。
(よく考えればファンタジーの世界なんだから魔法があってもおかしくないんだ……というかめちゃくちゃ痛い……)
立ち上がった俺はまず一番痛みを感じる腹に手を伸ばして痛みを少しでも和らげるためになでる。
そんなことをしても痛みがなくならないのはわかっている。
だからこれは痛みをごまかすための行動だ。
「おや? 今のはかなり近距離でしたし致命傷は間違いないと思っていたのですが……あなた……痛みにそれなりの耐性がありますね? ただの冒険者
だと思っていましたが……何者ですか、あなたは?」
「はぁはぁ……何者か……ですか?」
俺が痛みをごまかしているのはマクシスの言う通り今受けた攻撃がかなりの威力であり致命傷になっていないのは奇跡というレベルのものだったからだ。
立ち上がれるのは体が多くの痛みを受けある程度の痛みには慣れていたから。
耐性ができていたから。
それがなければ俺は死んでいただろう。
そう死んでいた……死んでいた……死んでいた。
殺されていた……ころされていた……コロサレテイタ……。
「ただの冒険者ですよ……」
俺の心に殺意が湧き出す。
殺されていたかもしれないという恐怖。
殺されていたかもしれないという怒気。
気がつくと俺は足元に倒れている冒険者の近くに落ちていた誰かの剣を拾っていた。
そしてーー
「あなたを殺す……ね」
ーーマクシスに剣を振っていた。
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