61話 『BグループとAグループ一階探索班』
「なぁあんた、もしかしてモルス・ディアスか?」
「はい?」
包囲網を形成するために身動きをできるだけ取らず洋館、闇ギルド【魔石】の本拠地から一定の距離をとっていた俺に一人の冒険者が話しかけてきた。
声のした方、右横に目をやれば10メートル離れた位置に俺と同じように包囲網を形成するために洋館から一定の距離をとる男がこちらに軽く手を振っていたので俺も軽く手を振り返す。
「はいそうですけど……」
「やっぱりそうか! 他の冒険者たちがあんたのことを噂しているのを聞いてな! ここら辺ではあまり見ない黒髪に黒い服を着ている赤目の男っていう噂だったからもしかしてと思ったが……」
「は、はぁ……?」
そこまで自分が冒険者たちの中で有名ーー噂話をされる程度にはーーだと知って俺は驚いた。
「モルス・ディアス! あんたに会えて光栄だ!」
(光栄って……俺ただランスさんを無視して足かけて転ばせただけなんだけどな……)
もしかして酒場宿屋【ベオ】で広まっていたのは正しい話だったけど他の冒険者たちには全く違う感じで噂話が広がっているのでは!? と考えてしまう俺。
「ぜひ握手してくれ!」
「別にいいですけど……」
声を上げながら形成していた包囲網を勝手に崩して手を出してくる男に色々思いながらも俺は男の手を握り握手した。
(そんなくだらないことで包囲網勝手に崩すとか……自分の仕事に集中してくださいよ……)
今あたりに魔物や本拠地から敵が出てくる様子がないからいいもののそう言った油断が要らぬ危険を招くことになることを知っている俺はそう愚痴る。
自分の噂話を聞き、なぜか包囲網を一旦崩してまで握手してきた男はすぐに元の位置に戻っていった。
モルスは知らない。
新人冒険者が自分より圧倒的にランクの高い冒険者である相手を無視し、足をかけ転ばせる。
そんなケンカを売るような行為を自分より格上の相手にするということがどれほど凄い、というよりやばいことなのか。
☆☆
「この部屋で一階の探索は終了だな……皆警戒を怠らず進むぞ……!」
二手に分かれたAグループの一回探索班のクロックたちは残り一つ、探索していない部屋にゆっくりと入って行く。
先頭のクロックは手に魔法のランタンを持ち部屋の中がしっかり見えるように照らす。
部屋の中は狭く他の部屋とは違い【魔石】のギルドメンバーたちは誰も待ち伏せしていなかった。
他の部屋とは大きく違う部屋にクロックは多少の違和感を覚える。
「……跡視認」
クロックはそう唱え魔法を発動する。
魔法の効果はその名の通り普通では視認できないような数日たった生物の足跡などを視認できるようにする魔法。
討伐依頼などで魔物を取り逃がした時などに魔法を行使できる冒険者がよく使う魔法だ。
使っても大して魔力を消費しないという点でかなり使い勝手がいい魔法なのだがいくつか問題がありそのうちの一つが三日以上経過した生物の跡は視認できないというもの。
だが今はそんな問題があろうがなかろうが関係ない。
ただこの部屋のなんとも言えない違和感の正体を暴くためだけに使ったのだから。
魔法を使うと一時的にクロックの目は青色に変わる。
青くなったクロックの視界には部屋にある机についた誰かの指紋、本棚の付近についている誰かの足跡とすべての跡が見える。
そんな視界の中クロックはある違和感を見つけた。
(ここか……なるほど隠し通路か……)
あまりにも本棚のあたりに足跡が多いと思えばそういうことか。
クロックは魔法のランタンを片手にもっとも人の手の指紋がついている本がしまわれている本棚に近付く。
そして一冊だけしまわれておらず突き出している本を本棚の奥にしまうよう強く押した。
そうすれば本棚が横にスライドーーカラクリかそれとも魔法の力だろうか? よくわからない原理でーーした。
「どうやらここの隠し通路、いや隠し部屋に何かあるようだな。行くぞお前たち……!」
スライドした本棚の下に続く階段をクロックたち12人の冒険者は下りていった。
隠し通路でも隠し部屋でもなく地下に続く階段を。
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