5話 『冒険者についての話。ときどき神様』
ちなみにモルスは元殺人鬼ですが基本は常識人。基本は!
「と、冒険者についての話はこんなもんだ。どうだ、わかったか?」
「はい、 教えてくれてありがとうございます……!」
「おう、こんぐらいいいってもんよ! 俺はただ常識をあんたに教えてやっただけだからな」
そう言って笑うゴーグ。常識を教えただけ……というが世界にはそんな常識さえ教えてくれないもの、常識さえ知らないものがいるのを俺は知っている。
だからなおさらゴーグが優しい人だと感じた。
☆☆
冒険者。それは魔物退治、薬草採集、案内役、人探しなどといった色々な仕事を請け負ういわば便利屋的な仕事らしい。冒険者の強さによっては国の軍事力、治安維持としての必要性も高い。この世界では最も簡単に、実力さえあればつける職業? のようだ。
受けた依頼をこなし、それを組合に報告することで金銭、収入を得る。実績がものをいう冒険者社会は完全な実力社会らしく、このアフォレスト街にいる冒険者たちの強さは平均的なもので他の街の冒険者たちに比べれば中の中ぐらいの強さらしい。
冒険者はその実力、実績によりランク付けされていて、
銅ランク……冒険者として素人
青銅ランク……冒険者としてまだまだ
鉄ランク……冒険者としてそこそこ
金ランク……冒険者として強い
白金ランク……冒険者として純粋に強く、実力も実績も兼ね備えている
高炭素鋼ランク……冒険者として恐ろしいほど強く、実力も実績も兼ね備えており、知名度もかなり高く、一つの街に一人いるかいないかのレベル
の6つのランクがあるようだ。
ゴーグが教えてくれた冒険者の話はこんなものだ。ゴーグはこの話をほんの一、二分で言い終えていた。
「つまりは……冒険者が一番簡単に稼げる仕事ってことか……」
「簡単に言えばそうだな。だが危険はつきものだし自分の身を守る武器も必要な色々と物騒な仕事だ。モルス、あんたが冒険者になるつもりならしっかり準備しろよ?」
俺のことを心配してくれているのがすぐにわかるような優しさのある声音でゴーグは言った。
本当に優しい人だな……この人。
「はい」
物騒な仕事……か。元いた世界で毎日のように命を狙われていた俺だがそれよりも物騒なものなのだろうか?
俺の目標はこの世界でスローライフを過ごすこと。そのためにはまず今の無一文状態からいち早く脱しなければならない。
なら、この世界で一番簡単に働ける冒険者になって金を稼ぐか……! 騒がしい酒場でカウンター席に座りながら俺はそう決めた。
☆☆
「いや〜やっぱり面白いなぁ彼の人生を見るのは。彼の第一の人生を知ってるからそのギャップでさらに面白いね!」
とある真っ白な空間で一人の少年が宙に浮く白い水晶玉の中を見ながらそう言って笑い声をあげた。そんなアマスの隣には背中から白い羽が生えている女性。
白い水晶玉の中には酒場にいるモルスの姿が映っていた。
「また人間の人生の閲覧ですか? アマス様」
「うん、まぁね。これは僕の趣味みたいなものだからね」
「嫌な趣味ですね……それよりいいのですか? 彼に第二の人生を勝手に与えて。死の檻の管理者のナトス様にバレたら大変ですよ?」
「ナトスか……たしかにこのこと知ったらめちゃくちゃ怒るだろうねあいつ」
死の檻から魂を無断で取り出すのはルール違反だ。それも第二の人生を与えたというならなおのことだ。それがわかっているにもかかわらずアマスは楽しそうに笑っていた。
「笑い事じゃないですよまったく……」
アマスの秘書をしている女神は呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「そんなに彼、元殺人鬼に価値があったのですか? 第二の人生を与えるほどの」
「価値? 違うよ僕はただ彼のファンだから彼の人生をまた見たくてーー」
「そんなくだらない理由であなたが法を破り、人間に第二の人生を与えるわけないということぐらい知ってますよアマス様」
「むぅ…………」
女神の言葉を聞いてアマスは口を尖らせた。
「まいったな……その通りだよ。僕は彼、モルスには第二の人生を与えるべきだと、神として思ったから死の檻に連れていかれそうだったモルスの魂を勝手に魂の檻に連れてきて転生させたんだよ」
「最初からそう言えばいいものを……でもいつも自分のことを神様としてポンコツとか言って仕事をサボるあなたが神としてですか……」
女神はふふっと少しだけ笑う。
それを見てさらに口を尖らせるアマス。
「じゃあ彼にあらゆる言語の解読を可能にできるよう力を与えたのも神としてですか?」
「いや、それはただ単に言葉が理解できたほうがモルスも色々楽かなと思って」
「…………」
女神は先ほどより長いため息をついた。
頼むから気まぐれで人に力を与えるのはやめてください! とは言わない。
そんなことは今までも何度も言ってきたことであるし、気まぐれな神である彼には言っても無駄だとわかっていたから。
「モルスが次にぶつかる壁はお金か……ならモルスにこれから一生遊んで暮らせるぐらいのお金をあげーー」
「いい加減にしてください!」
「!? 痛いっ!!」
また気まぐれで人間に何かを与えようとしているアマスの頭に女神は思いっきりチョップした。
言っても無駄なのはわかっている。
だがせめて限度は考えて欲しい。
そう思う女神であった。
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