40話 『記録水晶《レコードクリスタル》』
「それで……話ってなんですか?」
ポーション屋にある客室のソファーに座る俺は同じようにもう一つのソファーに腰掛けているランスに聞く。
「話といっても大したものじゃないんだが……」
「……そうなんですか」
(大したことないなら帰れよ)
皮袋を見つけたことをソフィーに伝えようとした直前に来たランスに少しだけではあるが苛立ちを覚える。
ランスは少し間を空けてから再び口を開いた。
「君は何者だ? モルス・ディアス」
「……何者っていうのはどういう意味ですか?」
ランスが何を俺に聞きたいのかさっぱりわからない。
何者かと問われても俺はただの新人冒険者モルスだ。
「そのままの意味……とは少し違うか……。君は最近アフォレスト大森林に行ったな?」
「アフォレスト大森林……はい。たしかにゴーグさんと一緒に行きました」
リトルゴブリン討伐とビギナル草の採取のためにアフォレスト大森林には昨日行ったばかりだ。
だけどなんでそんなことをランスが知っているのかが俺には不思議でしょうがなかった。
「なんで知っているのかって聞きたそうな顔だな……僕がそんなことを知っている理由はこれだよ」
ソファーに腰掛けたままランスは身につけていたポーチの中から一つの白い布袋を出し俺とランスの間にあるテーブルの上に置いた。
中にはなにかが入っているようだがなにが入っているかまではわからない。
そして置いた布袋の口を緩めて中に入っていたものを取り出す。
それはーー、
「? これなんですか?」
「これは記録水晶。記憶水晶の中にあった魔力を移すために使うアイテム……といえばわかるか?」
ガラスのように透明な色をした小さな水晶玉だった。
記憶水晶
その単語の意味はゴーグと一緒にアフォレスト大森林に行った時にも聞き知っているし実際に実物、リトルゴブリンの記憶水晶を見た時があるので知っている。
魔物を倒せば必ず落ちるものであり、中に含まれる魔力には魔物が倒される瞬間の映像……記憶がある。
そして記憶水晶を魔法で鑑定する事によりその記憶を閲覧でき、それを見て依頼達成かを判断。
冒険者ならば誰もが絶対に覚えておかないとならない知識だとゴーグは言っていた。
だけど記録水晶という単語は初めて耳にした。
中にあった魔力を移す……つまりは魔物の記憶を移したものということだろうか?
「なるほど……まぁなんとなくわかりました」
「そうか……なら……見てもらったほうが早いな」
そう言ってまたポーチに手を伸ばし何かを取り出すランス。
取り出したのはなんの変哲も無いベルのようなもの。
「?」
「これは鑑定魔法が込められているアイテムだ。一日一回だけではあるが誰でも鑑定魔法が使える」
簡単にベルについて説明したランスは軽くベルを鳴らす。
するとベルの音が鳴ったと同時にいきなり記録水晶が青く光り出した。
青く光り出した水晶からは映像が見えた。
その映像が魔物の記憶だということがすぐにわかった俺は黙って映像に目をやる。
映像にはーー、
「これって……! アフォレスト大森林でハイウルフと遭遇した時の……!」
「その通りだ」
俺がゴーグに肩を貸し、ハイウルフを睨んでいる姿があった。
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