プロローグ 『呆気ない死。そして異世界転生』
よろしくお願いします!
ある丘に一人の青年が立っていた。
空は夕焼けによって綺麗な茜色に染まり、青年はそんな空を見上げていた。空を見る青年の瞳は鮮やかな赤色。
とここで『この青年』についての説明を終わらせればこの青年はただの一般人。どこにでもいる普通の人と多くの人が思うかもしれない。
だが、彼は普通の、一般人とは言えない人間だった。ーー彼は殺人鬼、人殺しだった。
青年の周囲には死体がいくつもありそのどれもが血だらけで真っ赤な赤。あたりには血特有の鉄のような匂いが漂っていた。
「……帰るか」
青年はそう言うと丘を下りていった。
その数時間後。
この青年、殺人鬼モルスは帰り道の途中で射殺。
呆気なく死を迎えた。
ここでモルス・ディアスの人生は終了……のはずだった。
しかし、
「……は……?」
「やぁ、目が覚めたかい?」
ーーなぜか俺の目は覚めた。死んだはずなのに。なぜか真っ白な空間で。
目の前には見た目は少年なのに声が大人という不思議な子供?が立っていた。
☆☆
「あなたは……誰だ? それにここは……?」
「うん。ありきたりな反応、セリフありがとね♪ 僕の名前は転生神アマス。そしてここは魂の檻だよ」
どこまでも真っ白な空間を見渡しながら口にした俺のそんな疑問にすぐ返答はかえってきた。テンセイシン? 珍しい名前だな……と思いつつ俺はアマスと名乗った少年?を見た。
というか魂の檻ってなんだ?
「そうか……なら簡単に、俺にもわかるように教えてくれると嬉しいんだけど……」
「? なんだい?」
「なんで俺の目の前にあなたがいて、なんで俺はその魂の檻? ってところにいるんだ?」
俺がそう口にすればアマスはくつくつと笑った。
「それは君が死んだからだよ」
…………聞き間違いか? 今この子供、俺が死んだって言ったのか? いや意味がわからない。
というか俺自身、死んだ覚えも死んだ時の記憶もないんだが?
「覚えてない? あーでもよくいるんだよねそういう……死んだ時の記憶を本能的に頭の中から消しちゃう人。あ、ちなみに君は警察に射殺されて死んだんだよ」
射殺……俺の最後の記憶は丘から下りて、家に帰って……あれ? その先が思い出せない……?
「思い出せない? なら思い出せなくてもいいよ。自分が死んだ時の記憶なんて思い出しても面白くないしね」
「……そう言ってくれると助かるな……」
いまいち現状が理解できないまま俺はそう言って苦笑した。
「じゃあ説明を続けるね?」
「あぁ、頼む」
「ここは魂の檻。簡単に言えば死んだ魂が集うあの世の中間地点、そのものの魂が善か悪かを判断する場所だよ」
正直、自分が死んだことについてはまだ半信半疑だが俺はアマスの説明に耳を傾けた。
魂が善か悪か判断する場所……。
俺は何人も人を殺してきた殺人鬼、人殺しだ。そんなものの魂なんて判断せずとも悪だとわかるだろ……。
そんな俺の気持ちを読んでかアマスは口を開いた。
「そう、君の考え通り君みたいな明らかな悪の魂はすぐに死の檻に入れられる……だけどそうはならなかったんだよ! 僕のおかげでね!」
「どういうこと?」
話がまったく読めない。
しかもなぜかアマスは得意げな顔で胸を張っている。
アマスはそのまま説明を続けた。説明の途中で何度も何度も「僕のおかげでね!」と連呼しながら。
☆☆
死の檻とは悪しき魂を閉じ込める檻。
その魂が生前に傷つけたり苦しませたりした人の心の数により檻の中に閉じ込められる期間の長さや短さには個人差がある。生きている中で誰もが人の心を傷つけ、苦しませる現代ではこの死の檻には大体の人が閉じ込められる。
その期間によって死の檻はレベル分けされていて俺はそのレベル分けでも最も上のレベルである死の檻に閉じ込められるほどの悪しき魂のようだ。それもそのはずだ。俺が生前にやってきた悪行の数々を考えればそれは当然で、通常であれば俺は100年以上もの間、死の檻に閉じ込められ苦しみ続けるらしい。
「そんな君を助けてあげたのが僕、転生神アマス様ってわけだよ! どうすごいでしょ!」
だが、その死の檻に閉じ込められる前に俺はこの目の前に立つ少年、アマスに強制的に魂の檻まで連れてこられた……だから俺は今、魂の檻にいる……。
どれだけ考えても困惑といった感情ばかり湧いてくる。アマスはそんな俺の思いを知ってか知らずが「褒めて!」と言わんばかりに無邪気に笑う。
ーー何で俺を魂の檻に?
ーー理由はなんだ? 気まぐれ? それともーー。
ーーわからないことだらけだった。
「……何で俺をここに? 何が目的で……?」
生前、人殺しだったということもあり疑心暗鬼気味な俺は恐る恐るアマスにそう聞いた。
「目的? そんなのないよ。ただ僕が君のファンだったってだけだよ?」
「ファン?」
「うん、僕はよく趣味でいろんな人の人生を閲覧するんだけど、君の人生は生前の頃から見てたんだよ僕。君を魂の檻につれてきたのはただ単にファンとして君と話しかったからだよ」
なんだそれ……そんな気まぐれで俺をここにつれてきたのか。疑心暗鬼気味の俺ではあるがさすがに子供? の言葉をそれ以上疑いはしなかった。
「そうか……ならもう十分話したはずだが……」
「あ、 ひとつだけ君に提案が!」
アマスは「忘れてた!」と言って俺にある提案をしてきた。それは、
「第二の人生を送ってみない? 異世界で」
「……はぁ!?」
第二の人生を送ってみないか? というもの。言葉の意味を理解するよりも早く俺はそう声を上げていた。
「ど、どういう意味だ……?」
「言葉通りの意味だよ。君のファンとして君の人生をまた見たいと思ってね……どうだい?」
神の気まぐれは恐ろしいというか……人間には理解できないものだと知った瞬間だった。つまりアマスは自分の勝手で俺を死の檻に閉じ込めずに自分の自己満足で俺に第二の人生を送らせようとしているということか……?
「そんな勝手があなたに許されるのか? 俺を魂の檻つれてきてるのもバレたらまずいんじゃないのか?」
「はっはっはっ、大丈夫だよ。僕こう見えてこの世界ではかなりの権限を持った神様だから!」
そう言ってまた胸を張るアマス。
アマスは胸を張ったまま俺を見て再度聞いてきた。
「で、選択はYESかNOどっち?モルス・ディアス」
俺の名前ももう知ってるか……まあさっき俺の人生を閲覧してたからと言ってたし驚くことではないか。
「ひとつ確認なんだが第二の人生、異世界では俺の好きなように生きても構わないんだよな?」
「そりゃもちろん! 誰かの人生を縛る神様になんて僕は死んでもなりたくないからね」
「それを聞ければ安心だ……なら」
死んだらしい俺がまた生きることができる。しかも自由に人生を送ることが。
なら俺、モルス・ディアスの選択は決まっている。
「もちろんYESだ。断る理由が見つからないし」
「そう言ってくれると提案した身としても嬉しいよ! なら今行こう! すぐ行こう!」
俺の選択にとても嬉しそうなアマスは両手を大きく広げてそう大きな声で言った。……ん? 今、なんて言ったこいつ?
「今?」
「うん!」
「すぐ?」
「うん!」
そんな元気なアマスの声を聞いてそれが冗談ではないことがすぐにわかった。
「いや、ちょ待ーー」
「じゃあ行ってらっしゃーい! いい人生を〜!」
アマスはそう口にして俺に大きく手を振った。
瞬間、俺の視界いっぱいに真っ白な光が溢れ出しだんだんと目の前が見えなくなる。少しずつ意識が朦朧としていく。
「っ!? アマス!」
「モルス、君の第二の人生に幸多からんことを」
光に包まれ見えなくなっていく視界に最後に映ったのはアマスの慈愛に満ちた笑みだった。そして俺の視界は真っ白な光に包まれ、俺は意識を失った。
ーーこうしてモルス・ディアス、元殺人鬼は第二の人生を異世界で送ることになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!