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キミとボクと狂想を  作者: 燈火
終り、始る
1/2

一話

以前上げていたもの大幅改稿、と言うよりほぼ別物です。

登場人物は一緒です。

 ――ずっとキミを待っていたよ


 目の前に現れた『何か』が、俺にそう告げてきた



 大学に入学してから、もう半年以上が立っており、本格的な冬の到来が目前に迫っていた。

 サークルにも部活にも入らず、バイトもせず、ただ家と大学とを往復する毎日。おかげで大学には友人は居ない。


 家から大学までは電車とバスで大体一時間半くらいだ。

 このくらい通学に時間がかかる人なら大抵は一人暮らしに変えるらしいのだが、俺は特に苦と言う訳ではないので今でも実家から通っている。

 まあ朝の電車はアホほど混むけどな。


 大学では、午前の講義を受け、昼食をとり、午後の抗議を受け帰宅。このサイクルで過ごしている。代わり映えしないと言われればまあその通りだろう。

 しかし別段不満があるわけではない。むしろ、身の丈に合った生活スタイルだと思っている。

 前期の単位も落としたものは無かったし、このままいけば後期の単位も落とすことはないだろう。良くも悪くも普通なのが俺の唯一の取り得なのだ。

 辞書で普通と調べて出てくる代表例にされても問題ないほどに普通を極めたと言っても過言じゃない。

 ……いや、やっぱり言い過ぎた。そんなものに載ったら、むしろ異常だ。


 そんな普通な俺なのだが――あの時は、あの時だけは、何故か体が勝手に動いてしまった。

 よく今のような表現を耳にすることがあるが――それこそマンガやアニメなどの主人公に限られること――現実世界ではありえない、そんな事はないと心の内で断じていたのに。

 それなのに、そのはずなのに――俺は体を動かしていた。


 あれはいつも通りとは少し違う、通学途中の出来事だった。

 いつもは駅まで自転車を使うのだが、その日は親父が朝寝坊をし、電車の時間までに間に合わないと言う事だったので自転車を貸していた。

 親父もいつもなら車での出勤が多いのだが、その日は親父の兄弟の兄――通称伯父に貸しており、車での出勤は不可能だった。


「逆わらしべ」のようなものだ。車から自転車、自転車から徒歩。だんだんしょぼくなる。

 バイクを挟んでもいい様なものだが、生憎免許は車しか持っていない。

 この流れだと最初の伯父も何か貸したのだろうか? ここまでくると少々気になる。

 車よりすごい乗り物――ヘリとか?

 ないな、考えてみてバカバカしくなってきた。


 寝坊した時間でも車を使えば会社に間に合わないことはないらしいのだが、「逆わらしべ」により貸していたことを直前まで失念していたらしい。

 出かけになって俺に自転車を貸してほしいとお願いしてきた。

 四〇にもなってかなり必至な様子だったので、帰りにⅯ泉のトンカツを約束させ貸した。

 やや渋り気味だったが、背に腹は代えられんとサムズアップ付きで了承してくれた。


 俺の家族の仲は、自分で言うのもなんだがいい方だろう。

 俺から話しかけることは多くはないが、別に喧嘩をしているとかそう言う事はない。

 話しかけられれば普通に話すし、会話が弾むことだってある。

 下には一人高二の義妹――凛がいるが、こちらも別段不仲という訳ではなく普通に話し相手になったりしている。


 この義妹は、両親の再婚によりできた妹だ。

 俺が幼い頃、小学生になりたてくらいの頃だっただろう、突然親父が新しくお前のママになるんだぞ、と紹介してきた女性の腕に抱かれていた。

 出会いが早かったこともあり、あまり意識せずに馴染めたと思う。

 よく一緒に遊んだし、まあ一応喧嘩なんかもしたが、他人としての壁は感じることなく育った。


 誰の影響かは分からないが趣味が少年のような奴で、よくマンガやライトノベルなど貸し借りして読んでいる。好きなマンガは、恋愛モノよりバトル系の方が断然多い。

 俺がネットで見ているアニメなんかも気づけば横でしれっと、何くわぬ顔で見ていることが多々ある。

 ああ、誰の影響か分からないなんて濁しはしたが、あれですね――完全に僕の影響でしたね。

 このことについても両親は特に言ってくることはなく、「仲がいいのね」程度にしか思っていないだろう。

 注釈としてギャルゲーよろしくの展開も無いのでそこのとこよろしく。

 まあできた妹だとは思うけどね。


 マンガなんかのヒロインとしている妹――才色兼備、文武両道のパーフェクトヒューマンみたいな奴ではないが、それでも顔立ちも整っているし、勉強面でもMARCHレベルなら普通に狙える程の実力だそうだ。

 この上となると、少々努力が必要らしいが、それでも十分優秀な方だ。

 十分と言うか、十分すぎるでしょ。兄貴立つ瀬ないよ。ホントに。

 一度、凜から将来養ってあげようかと言われたときは割と本気にしたくらいだからな。元々立つ瀬などないか。


 部活はチア部に所属しており、元気いっぱい活発少女と言って差し支えないだろう。

 学校の方でも男女共に人気があるらしいが、色恋沙汰の話は聞いたことがない。

 まあ兄妹だからと言って、すべてをあけっぴろげにするかと言われればそんな訳もないので知らなくて当然なのかもしれないが。

 かく言う俺も浮いた話なんて、生まれてこの方一八年、一度もないんですけどね。

 あっしは硬派なんす。……本当に硬派な方々に失礼かな。


 そんな凛と、俺は珍しく一緒に通学していた。

 凜はいつも通り肩甲骨まで伸ばした髪を後ろやや高めの所で一本に結び、それを揺らして歩いていた。

 凛も通学には電車を利用しており、途中の駅までは一緒なのだ。

 ただ、出る時間が違い、また凛は駅まで歩いていくので一緒に駅までというのは稀だ。

 表の気温は低く、通りすがる人が皆コートやダウンなどを着ていた。

 凛もブレザーの下に厚手のカーディガンを着こんでいる。活発少女といえ、寒さには勝てない。

 年がら年中半そで半ズボンでいるような野生児タイプとは違うのだ。

 横並びで歩く駅への道すがら凛と雑談をしていた。

 駅までは自宅から徒歩二〇分、今はちょうど半分くらいのT字路近くを歩いていた。ここまでで大体十〇分だ。

 大通りから一本入った程度なので交通量は少なくない。


 雑談はいつも家でしているようなマンガやアニメに関する話、学校についての話と様々だ。

 凛も来年は受験生なので、一応大学受験の先輩として何かしらアドバイスでもできるだろうと思っている。

 実際、凛も受験についてまったく視野に入っていないことも無いらしく、センター試験の時どんな雰囲気だったとか、AO受験の人はどんな感じだったとか、時々質問してくるのだ。

 しかし、さっきは受験生の先輩などと上からなことを言ったが、実際はあまり受験生らしいことなどしていなかった。


 らしいというのは当然受験勉強である。

 大学を受験するにおいて俺は、元々高校でとっていなかった教科を選択しており――ただ楽そうだという理由だけで――その教科については完全に独学で臨んだのだ。

 目指していた大学があまりレベルの高いところではないのでその程度でも合格はできたが、受験生としてはまともなものではなかった。やはりアドバイスは遠慮した方がいいかもしれない……。

 ただそんな受験生を送った俺から一つ――受験生としてやってはいけないと声を大にして伝えられることがある。

 別に受験に失敗したわけではないので失敗談としては語れないが、気を付けたほうがいいと教えられることならある。


 それは――アニメだ。


 俺は受験期に見事にアニメにハマってしまった。

 最初は何となく休憩がてら見ていたつもりなのだが、そこに俺は現実逃避としての役割を見出してしまったのだ。

 そこで終われば救いもあっただろうが、さらに俺は深みにはまってしまい、挙句の果てには原作小説にまで手を出してしまった。

 受験勉強として――現代文の勉強と自分に言い訳までして。

 流石にこの話を凛にした時は溜め息をつかれてしまった。仕方がない、俺ですら自分に対して溜め息が出てくる。

 いやだってね? 面白いんですもの。しょうがなくないですか? 


 そんなこんなで、俺の武勇伝を語っていた時だった。

 正面からダウンを着こみ、首にはマフラー、極め付きにフードをかぶった赤いランドセルの小学生の女の子が歩いてきた。

 あの子を思う親の気持ちがひしひし伝わって来る出で立ちだった。

 その子が俺たちの十メートルほど手前まで来たとき、後ろから人を呼ぶ声が聞こえた。

「さやかちゃーん、おはよー!」

 その呼びかけにさやかちゃんと呼ばれた子も反応する。

「ゆみちゃん、おはよう!」

 そうか、目の前の子は「さやか」、後ろで呼んだ子は「ゆみ」と言うのか。

 ふむ、このように知らない人にまで名前が露見してしまうので、無暗に名前は叫ばないようにしよう。俺が小学生大好きな変なおじさんじゃなくてよかったね。


 そんなアホな感想を抱いていた俺は、通行人Aとして通り過ぎようとしたのだが――どうにもそのようにはいかなかった。

 音のした方に何となく向いてしまうように俺は後ろを振り返った。

 さやかちゃんを呼んだ友達は俺たちの後ろ、ちょうどT字路を右折するところで手を振っていた。

 友達に呼ばれたさやかちゃんは、俺たちの前を横切るように友達の方へと走り出した。

 T字路は俺たちが歩いている左側とは反対側にあるので、その行動はいたって自然なものなのだが、いかんせんタイミングが最悪だった。俺の人生の中でぶっちぎりに悪い。


 走りだした時後ろからワンボックスが走ってきた。

 もう既に走りだし、片足が道路へと出てしまっている今、急に戻ることはできないだろう。

 それに、戻るも何も車に気付いてすらない様子だった。フードで視野がかなり狭まっているのだろう。

 加えて友達に呼ばれ、手を振られていればもうそこしか見えていないだろう。

 車の運転手もこんな時に限ってと言うか、示し合わせたかの様によそを向いていた。

 左手が助手席の方へと伸びている。携帯の通知でも来たのだろう。

 運転手は何の障害の存在を知ることなくそのまま車を直進させてくる。


 ここまでの状況把握をおよそ瞬間と言われる時間で済ませられたことは奇跡かもしれない。

 しかし現状そんな奇跡は望んでいないし、需要は皆無だ。

 遅れることなく凜も状況が理解できたのだろう。ややハスキーがかった声を部活の時か、それ以上に張り上げていた。

「危ないっ!」

 周りを歩いていた他の歩行者が一斉に凜の方を見た。

 ――しかしその叫びはさやかちゃんに届くことはなかった。

「――――ッ!」

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