念願の旅行会社内定! 但し、Bound for 異世界?!
事務所に帰ると、泉さんが待っていた。
「反省会がてら、飲みに行きましょう!」
と誘われ、同じビルの地下に入っているバーへ。
「ドワーフのあなぐら」という変わった名前の店だった。
店に入ると、カウンターの中に、所長がいた。
あれ? 所長は私の後ろにいたはずと振り替えると、そこにも所長。
モモの視線が行ったり来たりしたのに気づいた泉さんが言った。
「あっちは所長の弟よ。」
(道理で似ているはずだ。
ドワーフ、ドワーフ・・・所長の苗字は土和富・・・
そういえば、ジェードさんも所長のこと、ドワーフって言ってなかったっけ?)
考え込みながら、テーブル席に着くと、泉さんはまたモモの考えを読んだかのように、
「所長はドワーフよ。」
と言った。まるで、当たり前のことのように。
「ド、ドワーフって、映画に出てきた土の妖精みたいな・・・」
「そう、それ。
鍛冶が得意だから、金属の名前を付けていることが多いのね。所長も鉄冶でしょう。
もっとも、「じ」は治めるじゃなくて、鍛冶の冶だって気付いてた?」
いたずらっ子のように泉さんが説明している。
「それで、泉ちゃんはエルフだ。ま、ハーフだけど。」
と所長。
(エ、エルフって、これも妖精みたいなのだよね、耳が長くて・・・!)
「という訳で、改めて。
モモちゃん、『異世界旅行社』で働いてみないか。」
所長が真剣な表情でモモに尋ねる。
「あ、あの、ハイ、働いてみたいです!
でも、私、異世界のことは本当に全然知らず・・・そんなんでお役に立つでしょうか。
私でいいんですか?」
所長は笑って、
「よかった。いや、モモちゃんがいいんだよ、魔旅力があるから。」
と言う。
(まりょりょく? 確か、初めて会ったときも所長はそんなことを言っていたような・・・。)
「魔の、旅の力ね。」
と泉さんが解説してくれる。
(でも、それでもよく分かりません!)
「魔旅力って何ですか、私、そんな力、ありません。」
「いや、ある。オーラが見える。
魔旅力は、簡単に言うと、人を旅で幸せにする力だな。
それから、他の種族や不思議な出来事を信じようという気持ち。
これがないと、異世界の添乗員は無理だ。」
人を旅で幸せにする力・・・確かにモモがやりたいと思っていたことではあるけれど。
(他の種族って言われても、所長や泉さんや、賢者さんたちみたいなもの?
だって、だって・・・普通の人だったもの。
そりゃ、ちょっと魔法っぽい出来事はあったけど。)
「モモちゃんは素直なのね。多分、それがいいの。
誰にでも優しくて、相手の意見や気持ちを受け入れようとするでしょう。
それがあなたの力ね。」
もう少し分かりやすい言葉で、泉さんが説明してくれた。
そう言われればモモは、変わった親に育てられたせいか、よく言えば寛容、悪く言えば鈍感である。
引きこもりのお兄ちゃんともうまくやっていけるのは、モモの寛容さのおかげだろう。
「ま、とりあえず夏休みの間だけでもいい。今すぐ決める必要はないさ。」
少し猶予期間ができたので、モモも安心して、頷いた。
異世界旅行社は面白そうだし、旅行はやりたかった仕事だけど、自分に務まるかが不安だった。
「じゃ、モモちゃんの初添乗が無事終わったことを祝って!」
所長の弟さんがいいタイミングで持ってきてくれた大ジョッキを掲げる。
注文してないけど、きっと、「いつもの」ってヤツなんだろう。
「「「乾杯」」」
3人の声がそろった。
時谷モモ、異世界旅行社での見習いスタート。
これからも、がんばります!!
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
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少しずつ書き溜めましたが、進行に合わせて、前に書いたところを直すこと多々だったので、書き溜めなしで連載できる作家さまたちを尊敬します。
自分の読んでみたい、「異世界(でもローで!)×ほっこり」がひとまず形になってうれしいです。
またアイディアを貯められれば、モモを別のところにも添乗させたいと思います。