Ende gut, Alles gut~終わりよければすべてよし
盗んで申し訳ないという郷田さんに、品物が返ってくれば、何も起こらないのと同じだと主張するジェードさんのやりとりがあって、最終的にはジェードさんの言う通りだと周りも加勢し、郷田さんは鉾をおさめた。
これにて一件落着!!
最後の立ち寄りは、お土産屋さんだった。
香しい「賢者の樹」の香りに満たされる哲学の道を通って、集落に戻り、食事処のすぐ近く。
小さな店舗に、たくさんの品物が置かれていた。
日本のどこにでもあるお土産屋みたい!
ニワトコの花のお茶、ジャムやシロップ、入浴剤、樫の木の杖、ミニ水晶や梟のキーホルダーや、賢者の石のレプリカまである。
絵葉書に、ペナント、写真集、賢者さんたちのサイン入り研究報告書・・・。
女性陣はわいわいと買い物を楽しんでいる。
(そうだ、所長にKBがいいから、よろしくって言われていたんだった!)
と、自分の使命に気付いたモモは、売り込み側にまわる。
「この賢者コスプレセット、いいですよね!
この服に杖を合わせたら、たちまち賢者さん気分が味わえそうです!」
ほほほとお客様に笑われた。
品物のセンスが悪いのは、モモのせいじゃないのに。
いや、他にも勧められる商品があるのに、コスプレセット一押しはないだろう。
「添乗さんもおひとついかがですか。」
店員である賢者さんに「賢者の里まんじゅう」の試食を勧められた。
先ほどの昼食のように、素朴だけどあったかみのある味だ。
「おいしい!」
思わず声に出すと、
「食事処のラリマーさんの手作りなんですよ。」
と言われた。
モモの食べっぷりがよほどおいしそうに見えたのだろう、お客様が、
「私も」「私も」と試食に手がのび、
「これはお土産にちょうどいいわね。」
とみなさん、あるだけのまんじゅうを買い占めた。
手作りなので、数が少ないそうだ。
他にも、日持ちのするニワトコの花のお茶やジャム、入浴剤も大人気だった。
モモが店内を見回すと、郷田さんが賢者の石のレプリカを見ていた。
「そっくりですね、本物に。」
と声をかけると、郷田さんは笑顔で、
「そうね、これを主人のお土産にするわ。
ジェードさんへのお詫びを込めて、売上に貢献しないとね。」
と答えた。
結局、土産店ではかなりの販売になり、所長はモモの隣でウハウハだった。
普段にない売上だったようで、モモと所長もニワトコの花のジャムと入浴剤がプレゼントされた。
ジェードさんに引率され、一行は再び博物館前を通って、エレベーターのある森に向かう。
所長が再び、ツアー旗でエレベーターの呼び出しボタンを押した。
モモにも今ならわかる、これは無精じゃなくて、魔法の力を込めてるんだと。
エレベーターを待っている間にジェードさんがモモのところにやってきて、モモの目の前の何かをつかむように、大きな手を握った。
手を開くと、そこにはきれいな桃色の石があった。
「『いりゅうじょん』じゃ。」
とジェードさんはまた得意気な顔をしている。
「魔法ですね。」
とモモが言うと、ジェードさんは、
「いや、幻想にすぎん。わしらは魔法は使えん。
無から有は生まれん。これは、わしの部屋から取り出したにすぎんからの。」
と言った。
(離れた場所から何かを持ってくるって、もう魔法の範疇だと思うんだけど!)
と、困惑するモモにジェードはその石を手渡した。
「これを、モモ、そなたに。
このたびは初めての『つああ』だったそうじゃな。『とらぶる』もある中、よう、がんばった。
サンゴの石言葉は成長じゃ。そなたの守り石に差し上げよう。
立派な添乗員となり、鉄や泉を支えてやってくれ。」
「ありがとうございます、がんばります。」
モモが石を受け取ると、ちょうどエレベーターが来た。
行きと同様、所長を先頭にお客様が乗り込み、モモが最後だ。
「では、みな、健やかに。」
閉まっていくドア越しに、ジェードさんの挨拶が聞こえた。
お客様も大きな声で、
「さようなら!」
「ありがとうございました!」
とジェードさんに挨拶をしていた。
エレベーターを降りると、そのまま流れ解散だった。
お客様が添乗員に声をかけて、三々五々(そんなにいないけど)お帰りになっていく。
郷田さんが最後にモモのところに来て、
「色々ありがとう。」
と言った。
「私、見習いですけど、郷田さんとご主人さまのツアー、作れるようにがんばります!」
とモモは、初めてのお客様に約束をしたのだった。
「Ende gut, Alles gut」は、<Endeエンデ>終わりが<gutグートゥ>よし、すなわち、<Allesアレス>全てがよし、つまり「終わりよければすべてよし」というドイツのことわざです。
モモの両親が好きなEndeエンデとかけてみました。