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添乗業務に木登りが含まれます?!

「魔除けのツアーバッチを外しちまったから、イノシシ型の魔獣に追いかけられたらしくてな。

木に登ったはいいけど、腰が抜けて、降りられなくなっちまったんだよ。

ジェード師の梟が見つけて、オレをここまで連れてきてくれたのはいいんだけどさ、

オレの重さじゃ、こんな細い枝は登れないし。」

所長は小さな声でモモに言った。


この木は、株立ちしているので、手足をかけるところはたくさんある。

あるけど、1本1本の幹は確かに比較的細めで・・・


モモは田舎育ちなので、木登りは得意だ。

まずは、郷田さんのところまで登っていこうと、ささっと手をかけ、足をかけ、登っていった。

自分がパンツスーツをリクルートスーツに選んだことに感謝しながら。


(おっと、この葉がついていない枝は、枯れているのか手をかけたらミシっと言ったから、体重をかけない方がいいかも。)

モモは誘導するとき、自分が降りるときに、どれを足掛かりにすればよいか考えながら、登っていった。


3メートルほどの高さのところに郷田さんはいた。

手が触れられるほど近くまで行って、モモは声をかけた。

「大丈夫ですか。」


郷田さんは、小さな声で、

「はい、いえ・・・ごめんなさい、木登りなんかしたことなかったんだけど、逃げるのに夢中で、気付いたらこんなところに・・・。」

と返事をした。


モモは、

「大丈夫ですよ、一緒に降りましょうね。」

と声をかけ、この足をここに、その枝を持って、あそこにこっちの足を、と誘導しながら、一緒に降りていった。


郷田さんの体が強張っていたので、モモが一人で登った時間より十倍もかかったように思える。

地面に降り立った郷田さんは、安心したのか余計に腰が立たないようだ。


「失礼します。モモちゃんはそっち。どこか座れるところに行きましょう。」

所長が郷田さんの腕を取って支えた。

モモとはさみ込むようにしながら、まずは遊歩道のベンチに向かった。


ベンチに座り込むと、郷田さんはハンドバッグに手を入れ、賢者の石を取り出した。

「すみません、これ、お返しします。」

と所長に渡す。


「まあ、預かりましょう。」


所長は、責める気も、積極的に事情を聴く気もないようで、さらっと対応した。

モモはどうして、お客様が石を盗んだのか、なぜそれが許されてしまうのかと思ったが、口には出さなかった。

しばらく無言の時間が続き、そうこうするうちに、遊歩道の向こうからジェードさんとお客様が見えてきた。


「さあ、ではツアーに戻りましょうか。みなさんが来たようだ。ツアーバッチをお返ししますよ。

これがないと、ガイドさんの話も分かりませんからね。」


ジェードさん、普通にしゃべってると思ってたけど、実は同時通訳だったらしい。

聞く人がそれぞれイメージする賢者さんらしい話し方に聞こえるはずなんだって。


郷田さんを見つけた友永さんたちが、

「祥子! よかった。」

とかけよってくる。


少し落ち着いたらしい郷田さんは、

「ごめんね。」

と二人に声をかけ、

福多さんやモモたちにも

「ご迷惑おかけしました。」

と頭を下げた。


ジェードさんは、

「この香林は全てニワトコじゃ。

エーゴでは『えるだあふらわあ』で、『えるだあ』とは年寄のことだそうじゃな。

年寄というのは、まあ、大抵色んなことをよく知っておる。

転じて賢者、つまり『えるだあふらわあ』は、『賢者の樹の花』ということじゃな。

わしらも考究に行き詰ると、この香林を散歩する。

花の香りが思索を促すので、いつからか『哲学の道』などと呼ばれるようになった。」

と説明をする。


賢者の樹と言われると、もっと大木をイメージするけど、ニワトコは優しいイメージの木だった。

株立ちした幹が、まるで空に向かって手を広げているみたい。

アジサイのように、1つの茎に白い小さい花が無数についている。


「この花は、人のようだと思わなんだか。

一人ひとりの力は小さい、しかし、集まることによって、これほどの香気を放つ。


その昔は、このニワトコで作ったゆりかごで寝かせると赤ん坊は生気を吸い取られる、ニワトコの枝で子どもをたたくと成長が止まってしまう、これで家を建てると、魔物が来る、などとも言われていたそうじゃ。

まあ、建材には向かないという戒めだったのだろう、確かに折れやすい木での。


しかし、ニワトコは『万能の薬箱』とも呼ばれるんじゃ。

ニワトコの花は各種炎症に薬用があり、葉は打ち身に、茎や枝を煎じたものはリウマチや神経痛に効くと言われておる。

普段、里には魔物は寄り付かんのだが、花の時期は薬を求めるのか、見かけることがあるの。

病んでおれば、気も荒れようぞ。」


郷田さんが魔物に追われたことをジェードさんは梟に聞いたのだろう。

そうか、魔物も薬を探しにきたんだね。


「さて、この林の中に庵があっての。

そこで一服進ぜよう。」

ジェードさんが杖を指すと、林の中に新しい道ができ、『賢者庵』が現れた。


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