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少年Z  作者: 髙田田
四月・上
9/123

・四月六日、コンビーフの日

「生存記録、三百七十一日目。四月六日、天候は大雨。記録者名、田辺京也。

 念願の性奴隷を手に入れた。

 三十秒と経たずに奪われた。

 思春期男子の下半身事情にも気配りが必要だと思う。

 この家の福利厚生はどうなっているのだろうか?

 そんな福利厚生の整った会社では働きたく無い。ブラック企業だ。通り越してダーク企業だ。

 悪事がばれた悪党どもは、みずから逃げて行くかと思ったが、外はZの大海原。Zバリアーが裏目に出た形であった。

 真夜中の起床ラッパとZと銃声と、戸部の母娘の連立方程式は解けなかったようで、何故だか俺が正座で説教を受けるはめになった。

 神奈姉は笑いを堪えるのに大変そうで、顔を背けてプルプルと震えていた。

『ほら! お姉ちゃんも何とか言ってやってよ!』の一言は流石に耐え切れなかったらしい。

 怒りに震えた神奈姉が、無言のままにリビングから、脱兎のごとく逃げ出した。

 クールビューティな神奈姉の面白動画を見られて、気持ちがホッコリとした。

 二人と違い、神奈姉はなかなかに笑いにはシビアだからなぁ。

 ……頭が切れるのも良し悪しだ。不幸の想像が得意というのは、あまり幸せな性質ではない。

 そんな神奈姉のレアシーンに緩んだ俺の表情がたいそう気に入らなかったらしく、二人と宮子ちゃんに叱られた。

 宮子ちゃんが、純真な天使が、この二人に汚されていく……。


 アザミさん……は、終始どうして良いのか解らない顔でオロオロとしていた。

 Zの海に親子ともども放り出されると考えていたようだ。

『なんでもしますから! どうか宮子だけは!!』

 抱きつかれ、瞬間、あんなこんな何でも・・・を想像した。

 正面から、背面から、あるいは俺が下で、彼女が上で。夢と鼻の穴と海綿体が広がった。

 気が付くと硬くなっており、『信じられない! なに考えてるの!!』ときたものだ。

 ナニを考えてはいたわけだが――――仕方が無いじゃないか!!

 二人が揃って、『変態』という単語の使用法を宮子ちゃんに懇切丁寧に指導していた。

 やめろ! 俺の宮子ちゃんを汚すんじゃない!!


 ――――二階の窓から突き落として皆にリアルグロ動画を見せるわけにもいかなかった。

 だからドローンのポチを使ってZの大海嘯を取り除いた後に出て行ってもらう――――言い換えれば叩きだす予定だった。

 Zの世界では多数決、民主主義は怠けている。

 力を持った独裁者の手に全ては委ねられるものなのだ。

『京ちゃんの好きにして。私は優しい京ちゃんが好きよ?』

 ……ずるい。政治家はいつもこうだ。全ては部下が自分の判断で勝手にした事になるのだ。


 有無を言わさず追い返す。

 この他に皆が幸せになる選択肢は無かった。襲撃者たちを含めてだ。

 来客を知らせるチャイムという存在を完全に忘れていた自分の記憶力に失望だ。

 お風呂と食事を与えた時点で、アザミさんと宮子ちゃんの不幸は決まっていた。

 たとえ二人が強盗ではなく泥棒だったとしても、美味しい食事と暖かいお風呂。安全で柔らかい寝床の記憶は、酷く、長く、心を苦しめることだろう。

 毒殺強盗なら、俺達が不幸だ。もちろん、その選択肢は与えない。今でも警戒中だ。

 押し込み強盗だからといって兼任しないわけじゃない。

 戸部の母娘を追い出せば、今度は、まもりと朱音が苦しむことになる。……また、精神が不安定になられるのは俺もキツイ。

 明らかに害意を持って――――銃を持って、彼等は土砂降りの中をやってきた。

 Zに気付かれないように車を動かし、我が家の資源を狙ってきた。アザミさんの話では前々から狙われていたらしい。

 このご時世、羽振りの良さそうなガキの居る家があると。その分析は正しい。

 ただ、羽振りの良さを過小評価しすぎたな。

 子供なのに羽振りが良い。それに違和感を感じておくべきだった。

 Z歴一年の毛も生えない小僧どもが、世界の終末に備え続けたプレッパーズに敵うと思ったか?


 アザミさんのような女性が、まだ五人ほど向こうには残って居るらしい。――――残念なことだ。

 強盗団は自衛官が……元、自衛官が仕切っているそうだ。

 同僚の、奥さんに、よくもまぁ……。いや、だからこそなのか? 男心も複雑だよ。

 医者にも教師にも変態が居るご時世、自衛隊も聖職者ばかりとはいかないようだね。聖職者そのものがアレなご時世でしたっけ。

 水力発電所を守っている彼等を見習え。その発電の余力で生かされているだけなのかもしれないが、ありがたい話だ。

 ンドゥバくんも、多分そこに居る。

 父さんは機械技師だと言っていたし、悪い扱いは受けていないだろう。

 中央自動車道はかならず停止するから、多摩川沿いに青梅街道を自転車で、奥多摩方面に向かって。

 白丸ダム。可能なら、小河内ダムを目指せと言ったこと……覚えていて欲しい。

 人口は少なく、水力発電所があり、水と電気に困らないから長期的な生存が可能なエリアになる。

 東京でも、奥多摩の人口は五千強、となりの青梅市の十三万とは大違いだ。区になれば百万近い。

 自衛隊がその気になれば奥多摩の全人口がZに変わっても皆殺しに出来る計算。物騒な話だけどさ。

 土地が平和なら、心が荒む事も無い。平和な土地なら平和に暮らせる。

 ……という希望的観測。


 ――――本当は、強盗になった彼等の気持ちも解らないでもないんだよね。

 Zとの死線を潜り抜けた日は、子孫を残そうとする本能が強く働いて……ケダモノの自分を感じる。わおーん。

 地獄では心が荒む。戦場ではレイプが多発する。そんなの当たり前だ。

 平和の中でヌクヌクと、ハーゲンダッツ片手に非人道的だと批難するなら、お前が戦地に行って股を開いてやれ。尻の穴でも需要はあるだろ。


 ――――落ち着こう。これからのことを考えて気が立ってる。

 まもりと朱音の二人は、アザミさんと宮子ちゃんが増えることを四人家族が六人家族に増えるだけだと思っている。

 計算が違う。二人分の物資を余計に手に入れるためには、さらに一人分のカロリーが必要だ。

 計算上は最初から五人半。さらに三人増えて八人半。入手できるのは俺だけだ。

 労力が増えれば疲労が増えて、危険度も増える。危険度は二倍から三倍に上昇するだろう。

 無意味に不安を煽らないため、外での活動を詳しく教えていないのだから仕方が無いのだけど……少しばかりキツイ。

 ハーゲンダッツは余裕の証だ。簡単に手に入れてきた顔をしなければ、彼女達が不安を感じる。

 手に入らなかったよ、ゴメン。なんて、疲れ果てた顔が出来ない事にも疲れてしまう。

 これは流石に神奈姉にも気付かれてはいないことだと思う。


 …………はっ!? 三人が逃げてきたあの晩、足の怪我に気をとられていたけど、勢いに任せてエロエロでムフムフな一夜を過ごすチャンスだったんじゃ!?

 ヴァイオレンスの後はセックスだよ!! 生殖本能が暴走中で三人ともムラムラだったはずだよ!!

 今更だよ!! 今更になって気付いちゃったよ!! 一年も遅いよ!!」


 ヘッドセットを外し、記録を完了させる。

 ……昨日、殺し合いがあった。あった、ではない。殺し合いは継続中だ。

 戦端は開かれた。既に犠牲者も出た。

 講和の使者はZバリヤーが邪魔してやってこれないし、そんなものは絶対にこない。

 ついに人間同士が資源を巡って争いあう戦場になってしまった。

 根本的になにも解決していないのだから、講和への道筋もない。

 向こうは既に、他人の懐に手を突っ込まなければならない状況なのだろう。

 ……うちは誰の懐に手を突っ込まなくても、十年は戦えるんだけどなぁ。


 羽振りの良さがバレたのは、無線の頻度だったそうだ。

 これは迂闊だった。周囲の生存者との連絡に使っていたアナログ無線の電波。

 それに三角法を加えて位置が特定されてしまったらしい。

 しかし、羽振りの良さ。裕福さはその軍事力も同時に示すものなのだけども、そこには気が付かなかったのだろうか?

 田辺京也は首を傾げながら、大人の図工、戦争のための準備を始めるのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く面白いですけど。平和ボケしてハーゲンダッツ片手に人権を叫ぶマスゴミや有識者溢れる日本では、絶対叩かれる作品です。戦士の文化と戦争の危機が見えない日本では受け入れられそうになくて残念。
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