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少年Z  作者: 髙田田
五月・中
84/123

・エリカ=ハイデルマン 20歳、from K.T――――。

 ついに、この日が来たと思った。

 解雇。免職。追放。火炙り。何でも良い。

 国家機密を流出させるほどに精神を錯乱させた私が、このCDCから追い出される日が来た。


『あとは、自分の身は自分で守れ。どうせZの餌食になるんだろう?』

 何の罪に服したわけでもないため、裁判も刑務所送りも無かったことだけが幸いだった。

 なにしろ、アメリカの国益に反する人道的行為に対する罰なんて、あたえられっこないんだものね?


 むしろ、私の方から裁判を起こして暴露本でも出そうかしら?

 非国民扱い? 英雄扱い? 出版社や裁判所がちゃんと機能しててくれると嬉しいんだけど。

 ニューヨークタイムズは絶望的よね? イギリスは亡命を受け付けてくれるかしら?


「現場に復帰してもらいたい。エリィ、お願いできるかい?」

 ボスの言葉には拍子抜けをして、次に恐怖を感じた。

 アメリカの現状は今、そこまで切羽詰っているんだろうか?


「あぁ、驚いているみたいから、順を追って説明しよう。

 キミは、アメリカの国益を損なう行いをとった。そのことで政治家に嫌われた。

 そして、国民には好かれた。望むなら、次の大統領にもなれるだろうさ。

 私としてもエリィの行為を英雄的決断だと賞賛するよ。

 けれど、CDCの局長としては政府の命令に従う他なかったんだ。

 ずいぶんと長い間、不自由な思いをさせてすまなかった。

 キミへの解雇通告は、局員が一丸となってのストライキと辞職願いで撤回させたよ。

 国民の命より国益優先? どうせ国益と言ったって、アメリカ国民の数%の財布が潤うだけじゃないか。

 俺達の家族の命を何だと思ってるんだ? あとはF語の連続を並べたててやったよ」

 ――――えっと、その? ありがとう、ございます?


「いや、良いんだ。キミが行動に出なければ、必ず他の誰かがやっていた。

 私自身、あと三日も悩めば動画を流していた所だっただろうからね。

 キミが一番勇気があっただけなんだ。本来なら、私が流すべき情報だった。

 出遅れたおかげで、この玉無し野郎とか酷いことを女性職員に言われちゃったよ。

 あと、次の大統領に成り損ねた」

 それは……すみません。


「それから、キミが日本の友人に当てた謝罪のメール。

 NYの最新情報を添えたメール。アレには沢山の返信があったんだよ。

 隔離されていたキミには悪いが、勝手に内容を確認させてもらった」

 あのロマンティスト、ミスター田辺から返信が?


「ゾンビ&サークル作戦。

 キミの友人が、オキシトシンを利用したNYの暴動に対する作戦案を返信してくれていたんだよ。

 キミほど堪能ではないが、まぁ、他の局員だって日本語を読めないわけじゃないからね。

 ペンタゴンは即時承認して実行に移した。実に単純で効果的な作戦だと褒めちぎっていたよ。

 まさか、CDCがこんな曲芸紛いの作戦を提示してくるとは、ウチに来ないかと俺にオファーが来たくらいさ」

 それは、どういう作戦、なのでしょうか?


「理性を取り戻させた軍人のZに、ミュージックプレイヤーを持たせて、ニューヨーク内部にZを集めさせて連れ戻す。

 後は橋を落としておしまいさ。NYから出てきたZ達はマンハッタン島で平和に暮らしてるよ」

 ――――それから?


「さすがにNY市民を爆撃で全滅させる訳にもいかなかったからね。

 人権家も納得。ペンタゴンも納得。ホワイトハウスだって諸手をあげて歓迎したさ。

 銃弾をアメリカ国民に向けたい州兵なんて、そんなに居ないからね。たまに居るのが問題だよね。

 それから、少しだけ問題が起きた。

 ――――この大成功が誰の功績かって話だ。政治の話だよね。それでキミの復職が遅れたんだ」

 政治ですか? それは私の専門外ですから……。

 もう少し政治を勉強し、暴露本を出版して大金持ちになることが今の私の夢です。


「あぁ、それはちょっと待ってくれると嬉しい。

 発案者はミスター田辺だ。キミの友人だ。ここはCDCで、作戦を実行したのはペンタゴン。

 NY市民への爆撃を用意していたペンタゴンと、機密情報を流出させたCDC。

 痛い腹の探り合いの調整に、少しだけ時間が掛かったんだ。

 結果は、第三者の協力に基づくCDCとペンタゴンの合同作戦。

 それで、キミにも勲章が贈られる事になった。おめでとう、で、良いのかなぁ?」

 それよりも、早く暴露本の執筆にとりかかりたいのですが?

 私の目の前にアメリカンドリームが転がってるんですよ?

 勲章よりも実物のゴールドの方が素敵だと思いませんか? ダイヤでもプラチナでもキラキラしてて。


「意地悪を言わないでくれよ。

 それから色々あって、キミの復職がようやく今日、認められたんだよ。

 勲章や式典の手回しで、復職の手回しを皆揃って忘れていたと言うのが現実なんだけどね。

 あぁ、すまない。執筆活動を始めないで、もう少し話を聞いてくほしい。

 ここからが本題なんだよ。


 ――――なぜか先日、日本がゾンビ&サークルの戦術を我が国への外交カードとして切ってきたんだ。

 オキシトシンを利用した、うまい戦術があるってね。不思議だろう?

 キミの友人は日本人なんだよね? 通信の痕跡を追跡しても、発信元は間違いなく日本だった。

 なのに、随分と遅れてから外交交渉してくるものだから、政治家たちがむしろ混乱しちゃってね。

 キミの友人のミスター田辺。彼は一体何者なんだい? 日本政府の関係者じゃないのかな?」

 ――――それを踏まえて、暴露本で明かすということにしませんか?

 タイトルは、誰がNY市民を救ったのか。政府、ペンタゴン、CDCの黒い影。

 何億部売れるでしょうか? 世界規模での販売が見込めますよね?


「頼むから、意地悪はよしてくれよ……」

 解りました。では、暫く時間をください。

 ミスター田辺に関する個人資料をまとめあげますから。

 しかし、復職して最初の仕事がコレだなんて。私はCIAに入ったつもりはありませんよ?


「あぁ、すまないと思ってる。どうか、政治家連中を納得させられるレポートをお願いするよ」


 ――――えぇ、暫く時間をいただかないと。

 そもそも、私自身、彼が何者か知らないんですもの。

 しかし、アメリカンドリームとアメリカの名誉。……これは、悩むわね。


 ――――私へ返されたミスター田辺からの大量のメール内容。

 ゾンビ&サークル作戦、その日本名はゾンビトマール……あぁ、ママが付けそうな名前ね。

 やっぱり暴露しましょう。CDC局員の無能具合を本にして。


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