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少年Z  作者: 髙田田
五月・中
81/123

・五月十六日、旅の日

「本当に居るんですかね!?」

「あぁっ!? あのクソガキが言うんだ、居るに決まってるだろ!!

 目を針にして良く探せ!! それでも狙撃手か!!」

「いえ、自分は音楽隊ですが!? パートはトロンボーンです!!」

「うるせぇ!! なら丁度良いだろ、相手はハーメルンの笛吹きピエロだ!! 良いから探せ!!」

 あのガキが、泣きながら口にしやがった。

 笛吹きのチンドン屋。――――まさか、とは思ったが、確かにとも思っちまった。

 全ての不合理に合理がついた。


 ◆  ◆


「今な、お前の家から強盗してるんだ。すまねぇな」

「後藤は無職」

 ――――ご・う・と・う、だ。あと復職しちまったから、もう無職じゃねぇよ。

 自宅警備員も卒業だ。俺は自衛官、いや、やっぱり強盗だな。


「今、奥多摩に向かってZの群れが行軍してる。それもキッチリ揃って東と西からだ。

 正確な数は解らないが、十万以上は確かだよ。絶望的だ。

 ……なのに、現場の連中が逃げようとしねぇんだ。

 奥多摩の住人が二千人。自衛官が八十人。警察官が少々。

 それでも、奥多摩を守って戦うんだってよ……。

 だから、この滑走路のキャリバーを借りて……いや、奪わせてもらうな?」


「西Z山が東Z海のお相撲さん」

 いや、Z同士が戦ってくれるならわけねぇんだけどよ。

 襲われるのは人間だからな? 竹槍構えた人間だからな?


「幸い、戦場はダムの上の直線通路になる。大口径さえあればZの十万や二十万、どうってことねぇ。

 カールも貰ってくぞ? あんまり溜まるとZの肉が邪魔になるからな?」

「はっけよいが、一緒」

 一緒じゃなきゃ相撲にならないだろ?

 行司の不意をついた卑怯相撲なんざ見たくねぇよ。


「じゃ、そういうわけで、無職の後藤さんは今から空賊の後藤さんだ。

 三十六歳、空賊の後藤様が滑走路の物資を美味しく頂いていくぜ!」

「一緒、はっけよい、一緒、はっけよい、一緒、はっけよい……。

 また、失敗した。どうして、失敗するの? ボクは、駄目なのでしたか?」

 あ? どうした? 急に普通に喋りだして……。


「オキシトシンを投与され理性を回復したZによるZ集団のコントロール戦術。

 ハーメルン、レミングス。音をたてながら集団の先頭を歩く理性持つZが作戦のかなめ。

 オキシトシンの効果切れは恐怖。その恐怖を盾に脅迫が行われた可能性が大。

 あるいは、オキシトシンそのものの持つ被従属性を高める効果を利用した可能性もあり。

 東と西から襲撃のタイミングが同時となる時間調整。それは軍人の考え方。Zのものではない。

 Zの治療薬ではなく、Zを兵器活用するための薬として利用されてしまったんだ。

 これはZの意思じゃない。彼を操る人間の悪意だ!!

 ――――殺せ! 先頭付近を歩む笛吹きZを見つけて殺せ! そして止めろ!!

 あとは、爆竹でも何で使って――――何でも――――どうでも、いい。

 どうせ、ボクが、また失敗したんだよ……」

「お、おい……何を急に……」

 また、倒れやがった。


 ZはZを襲わない。Zは集団であることを好む。そしてZは音に敏感、だったか?

 なら、動画にあった理性を持ったZが旗を振れば? ――――他のZ達は後をついてくる。

 新潟から長岡に、百万のZが真っ直ぐ向かってきたのは――――扇動したチンドンZが居たからか。

 そして長岡の油田で使い捨てにされて、だから長岡の油田からはZが去らなくなった。


 なるほど、理屈は通った。

 理屈は通るが、俺は自衛官なんだよな。

 プランが二つあるなら、二つとも実行させてもらうだけだ。

 弾薬と銃は頂戴する。笛吹きも見つける。二段仕立ての作戦だ。

 ――――あぁ、不味いな。この功績で俺の階級が上がっちまうかもなぁ?


 よし、急ぐぞ――――。


 ◆  ◆


「俺なら銃には撃たれず、かつ、先頭に近い場所に置く。

 よく探せ!! チンドン屋のZは音を立てている筈だ!!」

「このヘリの音で何にも聞こえませんよ!!」

「吉村ぁ!! お前、音楽隊だろ!? それで立派な音楽隊が勤まると思ってんのか!!」

「いや、さっきは狙撃手って!!」

「狙撃手で音楽隊なら見つけられて当然だろ!!

 見つけられなかった場合はゲームは取り上げだ!!」

「いや、もう自分、取り上げられちゃってますんで……」

「じゃあ、佐渡島で飲み食いした分、お前が確保する役な?」

「……あ、それは神奈ちゃんから責任者である後藤さんにやらせるようにって言い付かってます」

「嘘だろ!?」

「いや、本気ですよ? 本気でありますよ!?

 京也くんの心を壊しちゃった件で、かなり怒ってるみたいですよ?

 四人とも……笑って飲んで、楽しんでるのに、誰一人として俺達を信用しちゃくれませんでしたから。

 宮古ちゃんだけは良く解ってなかったみたいですね。病気の京也くんを心配してましたよ。

 それから、朱音ちゃんに冷たい声で言われましたよ――――貴方達は持ち去っていくだけの人だって」

 ……くそっ、言い返せる言葉がねぇ。

 滑走路に来た。物も貰った。救出を手伝って貰った。民間人の介護も手伝って貰った。

 クソガキの治療をしているが、そもそもアイツを壊したのは俺たちだ。

 ――――持ち去っていくだけの人、か。確かにその通りだよ。


「後藤一尉!!」

「なんだ北沢!?」

「三時の方向、200m、赤い屋根の付近、あれがおそらくチンドンZです!!」

 確かに、ラジカセを持って音楽を鳴らしながら歩いている……フラフラとじゃなく、あれは、人間の意志を持った歩き方だ。

「後藤一尉!!」

「なんだ北沢!!」

「禁酒は終了で宜しいでしょうか!?」

「よし、許す!! そして、吉村は俺の退職願一万枚の手伝いだ!!」

「……いや、もう、俺の分の退職願を一枚で良いんじゃないですかね?

 こんなブラック上司の下とか簡便ですよ。滑走路に戻ったら、向こうの仲間に入れてもらっちゃいますね?」

 バレットM82A1、弾丸をキャリバーと同じくする――――米軍の意図的な忘れ物だ。

 こんなご時世でも、金や宝石には価値が残るものらしい。

 着飾ることが大好きな女が、世界に半分は残って居てくれて助かったよ。鼻の下を伸ばす男もな。

 射程はキャリバーと同じく2000m。だが、精度はさらに上だ。

 一射目、ラジカセを破壊。あわてふためく姿を確認――――理性を持ったチンドンZ、発見。

 まだ若い男だな。――――どこかその辺で捕まえて、薬漬けにして、ただ時間に合わせて歩かせた……実に効果的な使い捨て役だな。

 二射目、チンドンZの頭をスイカ割りだ。薬に浮かされたとはいえ、祖国を売っちゃ駄目だろう?


 Z集団の行軍方針そのものは止まらず、か。

 クソガキの言うとおり、爆竹でも撒いてみるかね?

 いざとなれば拡声器を使って歌でも歌えば良い。幸い、音楽隊がここに居る。

 ゲームでスナイパーをやっていたら、実際に撃たせてみても上手かった。

 お得で便利な奴だよお前は、吉村!!


 ◆  ◆


 東西、両方のチンドンZを排除。奥多摩の危機は回避された。

 オキシトシンを投与すれば、Zでも理性を取り戻すんだろ?

 なら、心神喪失の言い訳も効かないよな? お前らは立派な破壊工作員だよHELLポートが待ってるぞ?


 即時、北海道に移った防衛省に直接の情報伝達。

 奥多摩以外にも数箇所、同時進行でやられていたらしい。

 黒幕は、北か、北西か、西か……。


 海に近い分には沖に逃げられても、陸の孤島では逃げられない。

 クソガキの名前は――――出さずにしておいた。

 相手側の作戦を失敗させたなら、その報復の心配だってあるからな。

 決して、手柄を独り占めにしようとしたわけじゃない。

 功績を盾に、退職願の枚数を減らそうとしたわけじゃない。

 うん、奴の安全のためだ。そうに違いない。


 ――――だが、これは逆手にとれる良い手段かもしれねぇな。

 日本全国から四国にでもZを閉じ込めてしまえる、絶好の機会だ。

 攻撃は最大の防御? あぁ、お前等が考えた攻撃で最大に防御してやるよ。

 どこぞの若い兄ちゃんじゃねぇ。現役の自衛官や警察官もZになってるんだ。

 薬で理性が戻れば喜んで協力してくれるだろうさ。お前等みたいに脅迫しなくてもな。


 しかし、どうしたもんかねぇ……。

 弾薬を沢山奪っていきましたが、結局、四発しか使いませんでした、ごめんなさい。

 それで謝って許してくれる――――姿が思い浮ばねぇ。

 あの女帝から、どんな陰湿な虐めが待ってるやら、今から恐ろしくてたまんねぇよ。


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