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少年Z  作者: 髙田田
五月・中
75/123

・大久保沙耶 18歳、イシキリさん――――。

 ブリキのキコリさん。泣いてた。鳴いてた。啼いてた?

 可哀想で、抱きしめようとして、私、汚かった。それが、悲しかった、泣いちゃった。


 お風呂、綺麗なお風呂。真っ白なスベスベなお風呂。

 白、汚すのが怖くて、シャワー、いっぱいシャワー。ゴシゴシすると、火傷が痛い。

 女の人。自衛隊の人。だけど、女の人。だから、偉い人だ。

 ごめんなさい。ごめんなさい。いっぱい謝った。許してくれた。優しい人。


 服。綺麗な服。色んな色。リボン。フリル。大人の。子供の。

 沙耶は今の服のままで良いです。でも駄目だって。この服は汚いから駄目だって。ごめんなさい。

 お母さん、選んでくれた。可愛い服。沙耶がこの服を着ても良ろしいのでしょうか? 奥様?


『えっと……。まだ結婚、出来てないから。奥様じゃなくて山本さんが良いなぁ。あははは、はぁ~……』


 ちゃんと、綺麗に土下座して、謝りました。

 でも、そしたら、服が、綺麗に汚れて、また、謝りました。

 もうしわけありません。山本さま。


 どうして、山本さまは泣きそうな顔をしてらっしゃるのですか?

 どうして、お母さんも泣きそうな顔をしてるの?

 駄目だよ、泣いたら、また、お仕置きだよ? 酷いお仕置きだよ?

 熱い熱いだよ? お馬さんだよ? ポカポカさんだよ? 芋虫ちゃんだよ?


 川上さまが、色々とお尋ねになるので、沙耶は正直に答えました。

 大奥様には、私達を使って遊んでいただいて、大変、感謝しております。

 大奥様に怒り、ですか? そんなものは、感じて、感じて、感じて、感じて、感じて――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 注射、チクリ。そんなに、痛くない。ポカポカさんより、痛くない。優しい人。


 ◆  ◆


 ご飯、お米、炊きたて。食べてもよろしいのですか?

 お肉、唐揚、揚げたて。食べてもよろしいのですか?

 はい、美味しいです。沙耶は、今、美味しいです。

 ケーキ、チョコ、イチゴ、美味しいです。明日は、沙耶が、芋虫ちゃんになる日ですか?

 違うのですか。安心――――安心するのをお望みですか? それから絶望するのをお望みですか?

 沙耶の思い込みでした。申し訳ございません。

 沙耶は、明日は立派な芋虫ちゃんになります。


 ◆  ◆


『ブリキのキコリ? 京也は木よりも石を切ってることの方が多いわよ?』

 まもりちゃんは自衛隊じゃない人の家族。

 私と同じ、奴隷の子。だから、ちゃんと話しても良い人。


 キコリさんじゃなくて、イシキリさんですか?

『キコリ、イシキリ……ボンバーマン? ――――石切りで良いんじゃないかなぁ?』

 キコリさんじゃなくて、イシキリさん。

 ブリキのキコリさんじゃなくて、ブリキのイシキリさん。

 ブリキは脱いじゃったから、ただのイシキリさん?


『京也に何か用? でも……ずっと寝てるから話したり出来ないよ?』

 イシキリさんに、お礼を言いたいんです。

 何かの、何の? お礼を言いたいんです。


『――――あっ、そっか……うん、京也なら、あの車の中で眠ってるから。

 ちゃんと、お礼、いっぱい言ってあげると京也も喜ぶと思う。ありがとうね?』

 感謝。なぜ? 私が感謝するのに。


 ◆  ◆


 川上さま、お邪魔をして申し訳御座いませんでした。

 沙耶は、今すぐに出て行きますので、どうか、お許しくださいませ

 ここに来たのは、イシキリさんと、お話、したかったんです。申し訳御座いません。

 今すぐにロッカーに戻りますので、どうか、お許しくださいませ。


 ここで、お話しても、よろしいのですか?

 はい、沙耶は、今、とても幸せで御座います。

 あ、――――明日は、芋虫ちゃんでしょうか?

 申し訳御座いません。沙耶の思い込みでした。

 沙耶は、明日は立派な芋虫ちゃんになります。


 ◆  ◆


「イシキリさん。イシキリさん。イシキリさん?

 どうして、沙耶を助けてくださったのですか?

 助けて? 何から? 沙耶を? ――――アッアッアアアッ」

 イシキリさんの手が、ホッペに。

 この手、ブリキじゃなから感触は違うけど、覚えてる。

 私を掴んで――――あの地獄から引き摺りだしてくれた、手。


 ――――何処の、地獄から?


 涙。ボトボト。顔。グシャグシャ。イシキリさんの手、鼻水、ベトベト。

 怒られ――――ない。優しく、優しく、頬を撫でて――――私の鼻水で、私の頬っぺた、グシャグシャ。なのに。


「イシキリさん、どうして、私を助けてくださったのですか?」

「――――助けて、欲しがってた、から」

 イシキリさんが、話してくれた。


「助けて? 沙耶は何からも助けて貰うようなことはありませんでした」

「嘘――――つくな」


 嘘? 嘘、嘘、嘘。

 なにが嘘? どこが嘘? どれが嘘?


「嘘を、つくな。ボクに、自分に」

 はい、沙耶は嘘をつきません。

 あそこは地獄で、大奥様はクズ野郎で……吐き気のするような人間、人間、人間。人間なの?

 なのに、自衛隊の人達は、私達より別の大事な何かを守っていた。


 ――――どうして私達を守ってくれないんですか!!

『ここはね、本当ならキミ達、外部の人間が入ってきていい場所じゃ無いんだよ。

 ただ、状況を混乱させて、脱出作戦の邪魔になってしまったから仕方なく開放しただけなんだ』

 入っちゃ、駄目なところ?


 ――――しかたなく? 私達は、邪魔な人達だったんですか!?

 とても悲しそうな顔。とても寂しそうな顔で自衛隊の人が頷いた。

 皆で外に逃げると決めたはずなのに、地下にはシェルターがあるって騒ぎ始めて――――脱出作戦を混乱させた。

 あぁ、ほんとうに私達は邪魔な人達だったんだ。皆が逃げるのを邪魔した人達なんだ。


『実は、僕達の任務は機密情報などの破壊措置であって、君たち民間人の保護じゃないんだよ。

 お願いだから大人しく自治を保って、面倒事を起こさないでいてくれると僕達も助かるんだ。

 本当ならさ……自壊処理のカウントダウン。それ一つで終わってたんだ。この区画ごとドカンとね。

 流石にそれを一つ一つ、チェックリスト片手に手作業で破壊して回るのは疲れるよ……』

 自衛隊の人、肩を竦めて悲しそうに笑ってた。

 何も、守ってなかった、むしろこの施設を壊してたんだ。

 私達が迷惑を掛けたせいで……この人達が閉じ込められちゃったんだ。


 だから、私達の問題は、極力、私達自身で何とか解決して欲しいと頼み込まれた。

 私は、面倒事を起こさないように、大奥様達の言うことに従って……従い続けて。

 私は、ちゃんと小さな世界の秩序を守り続けた。私が、迷惑をかけた、張本人だったから。


 ◆  ◆


 それからしばらくして、突然、扉が開いた。

 ブリキのキコリさんは、お爺ちゃんの知り合いの知り合い。

 私を助けに来てくれたんだって。でも、自衛隊の人じゃなかった。

 自衛隊の人は助けに来てくれなかった。でもブリキのキコリさんが助けに来てくれた。


 シンデレラかな? 違う。

 白雪姫かな? 違う。

 美女と野獣? 自意識過剰。

 オズの魔法使い。心の無いブリキのキコリさん。だから、私はドロシー。靴を鳴らしてお空を飛ぶのね?


 建物の外で、上のほう。それは屋上なのにね!!

 ブリキのキコリさんは、沙耶を助けに来てくれたのにね!!

 でも、あのババア様は玄関だと勝手に勘違いしやがったって喚き散らしてましたわ!!

 旦那さまの階級や勲章やらを口にして、大奥様がどれだけ偉いのか語って聞かせてたやがりましたの!!

 

 ――――ばーか、ゾンビが話を聞くわけねぇだろ? んなこともワカンネェのかよテメェは!?


「キコリさん? イシキリさん? 京也さん?

 ――――沙耶を助けてくださいまして、ありがとう」

「どう、いたしししまし、て」

 イシキリさんの心が尽きて、手はプラリ。

 それは寂しいので、握って頬っぺたに当てて、泣いていた。

 ずっと、泣いてた。――――イシキリさん、どうして、ずっと泣いてるの?


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