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少年Z  作者: 髙田田
五月・上
68/123

・氷川朱音 15歳、どうして――――。

 ソフト付きでゲーム機を譲る代わりにした質問。


『どうして、羽田空港のZたちを殺さないんですか?

 そうすれば、この滑走路を使わなくても良いのに』


「そりゃ、命令されてないからね。今はストライキ中だけど一応は自衛隊のままだからね。

 軍人――――じゃ、ないんだけど、軍人が勝手に銃を撃っちゃ不味いでしょ?」


 吉村さんはおどけた感じだけど気さくな人で、田辺くんが倒れたというのにゲームに熱中している……フリの私にも嫌な顔一つ見せなかった。

 その視線の先が、私の顔でも、身体でも、態度でもなく、未発売のゲームソフトに集中してたから。あ、吉村さんはそう言う人なんだね。

 このゲームは発売直前にZの騒動が起きて、出荷されなかった幻の新シリーズ。

 だけど、田辺くんは何処からか持ってきた。――――やっぱり、田辺くん何か悪いことしてるの?


 自衛隊の人は命令が無いと撃てないんですか? 殺せないんですか?

「そりゃ、命令がないのに撃てちゃまずいでしょ。殺せちゃまずいでしょ。

 軍隊の人が、貴方のこと気に入らないから殺しちゃいまーすなんて言い出したら怖いでしょ?

 軍隊の人が、貴方が言うこと聞かないから殺しちゃいまーすなんて言い出したら怖いでしょ?」

 ――――怖い、です。


「――――まぁ、そんな怖いことを言っちゃってる国もあるんだけどね。

 軍人達が王様になっちゃって、その他の人は奴隷にされちゃった感じの国。

 俺様達が守ってやってるんだから、お前らは死ぬ気で働け~って感じの国。

 ……ごめん、女子高校生には興味がないお話だよねぇ。あ、もしかして女子中学生?」

 えっとぉ? ……女子ぃ――――高校生でお願いします。

 それから、もっと聞きたいです。日本の外の世界のこと。


 ――――今、世界はどうなってるんですか?

 いつになったら外国の人達は助けに来てくれるんですか!?

 一年も経ったのに、どうしてまだ助けに来てくれないんですか!?


 吉村さんはとっても困った顔をして、思い悩んで、それから私のゲーム機を指差した。

「それをくれるなら、話してあげても良いけど。貴重品だから、嫌、だよねぇ?」

 ――――貴重品?

 えーっと、田辺くんは確か百本単位で持って帰ってきて……。

 なんで同じソフトばっかりなのと愚痴ると、『箱詰めの方が持ちやすいでしょ?』……まぁ、確かに。でも、それなら百種類欲しいところだよ、田辺くん。


 解りました。差し上げます。だから私に世界のことを話してください。

「うぇぇ!? 出荷されなかった……幻の新シリーズだよ? 良いの? ほんとに良いの?」


 そんな小さなことはどうでもいいですから、私に話してください!!

「……う、うん。えっとね、外国の人は……助けに来ない。良く言えば、自分たちの国で精一杯だから」

 ――――そんな、気はしてた。

 けど、軍隊の人に聞かされると、心にきちゃうなぁ……。助けは、無いのかぁ……。


「宗教とか、解るかな? 違う宗教もあれば、同じ宗教でも色々派閥があって……世界には一杯、喧嘩の原因があってね。――――Zが一体生まれれば、その地域全体が全滅しちゃう。だから、石油が届かなくなったんだよ。まず、Zを使ったテロの報復合戦が起きたんだ」

 え? こんな世界なのに……宗教で、テロ?

 それとも、こんな世界だからこそ宗教なのかな?


「資源を巡っての隠れた戦争もあったんだよね。Zを排除して、平和になった街や施設があった。でも、潜入した特殊部隊のスナイパーが弾丸を一発。――――内部でZが一体でも発生すれば……あとは解るよね?」

 私は頷いた。資源。色んなものを巡って奪い争いあう。そんな世界……。

 Zが持ち主を滅ぼした後なら、自分のものにしちゃっても誰も文句は言わない。

 ――――私達の生活そのものだもの。いつか文句言われる日が来るのかな? だったら良いな。


「軍隊が政治から離れちゃった地域はもっと悲惨だよ。軍人は聖人君子じゃないからね。悪い奴ばかりじゃないけど、悪い奴もちゃんと居る。軍人達が集団で色々なものを軍隊から持ち出したまま脱走して、民間人からも物を奪いまくって、レイ……っと、好き勝手のやり放題だよ」

 ――――田辺くんが強制的に見せた映画みたい。

 モヒカンの人達が出てきて……ガソリンを奪い合ってた。もっと酷い映画もあった。

 あれは、映画なのに……。作り物なのにな……。


「さっき言ったみたいにさ、軍隊が王様になっちゃった国もあるんだよね。

 でもさ、軍隊も一枚岩じゃないから俺こそが王様だって人が沢山出てきちゃってね。

 ……傍にZが居るのに戦国時代。すげぇ馬鹿みたいでしょ?」

 生きてる人間同士で殺し合い!?

 馬鹿みたい。馬鹿みたい。馬鹿みたい!!


 ――――そんなの馬鹿そのものじゃない!!

 ……あ、そういえば私達も一度はフグの毒で殺されかけたんだっけ。

 ガソリンを寄越せって……銃で、撃たれたんだ。――――馬鹿、そのもの。


「まぁ、そういう理由で羽田空港のZを俺達は殺せないんだよねぇ。

 殺せって政府から命令されてないからね? あくまで今は平和的なストライキ中なんだよね。

 あとね、あんなに沢山のZを殺す為の銃弾も兵隊さんも、実は今、自衛隊にはないんだよねぇ~。

 朱音ちゃん。――――氷川ちゃんは、銃とか銃弾とか作れる人?」


 解ってて聞いてますよね? もちろん作れません。

 あと、呼び方は好きな方で良いですよ?


「だよねぇ~。実は俺もなんだよ。氷川ちゃんとお揃いだねぇ。運命とか、信じる方?

 作れる材料がない。作れる機械がない。作れる人が居ない。ないない尽くしで減る一方。

 ホントのこと言うとね、田辺くんが集めてきた銃弾が欲しくて欲しくてたまらないくらい。

 実はさ、それっくらい貧乏なんだよね。今の自衛隊ってさ。食うのがやっとって感じかなぁ」

 ――――それじゃあ、どうして、わざわざ佐渡島からやって来たんですか?


「それなんだけどね、これが泣ける笑い話でさぁ――――」

 自衛隊の偉い人の話。

 無理難題を押し付けられた話。

 そのために大量殺人の罪をきせられた話。

 その人の家族が、防衛省の地下に閉じ込められている話。

 ――――どうしても、その子を助けてあげたいんだって、そんなお話。


 吉村さんには、やっぱりゲームは要らないって言われたけど、約束通り、ちゃんと譲った。

 吉村さんは怖い顔した上司の人に怒られて返しに来たけど、百個以上あるから大丈夫って教えてあげたらビックリしてた。

 大声で、持って帰っても大丈夫なようにわざとらしく喚き散らして……なんだか楽しい人。

 据え置きのゲーム機も物凄く余ってるって教えてあげたら飛びついてきた。

 やっぱり、そういう人なんだね。なんだか、工事中の田辺くんみたい。


 お話を聞いて、そんな姿を見て、少しだけ優しくしてあげたくなちゃったんだ。

 ごめんね、田辺くん。せっかくのゲーム機、勝手にあげちゃって。

 ――――食べ物じゃないし……駄目かな? うん、田辺くんにはちゃんと謝っておこう。


 ◆  ◆


 田辺くんのお見舞いに行くと、川上さんが気をきかせて席を外してくれた。

 ――――ま~た、鼻毛の王子さま。この機会だし、私が勝手に切っちゃおうかな?

 まさかこれが自分流のお洒落スタイルだとか思ってないよね? 髭はあっても鼻毛は無いよ?


 薬の点滴で眠っている田辺くんの胸元に抱きついて、トクントクンと鳴る心臓の音の確認。

 とっても安心する音。そのまま、耳を澄ませながら、色んなことを話した。


 謝ったり。褒めたり。罵ったり。――――大好きって告白してみたりぃ~。うへへ。

 吉村さん達は、大切な誰かの、大切なお孫さんを助けに来たんだよって教えたりもした。

 自衛隊の人達は悪い人達じゃないから大丈夫だよって。だから安心しても良いんだよって。

 あと、ゲーム機を勝手にあげちゃって、ごめんね?


 ――――田辺くん、薄っすらと目を開けてた。


 やばい!? え? どこから!? どこから聞かれてらっしゃいましたか!?

 ちょ、ちょっとまって!? なにを待つのよ!? 私、今、超恥ずかしい人でらっしゃりなますか!?

 う、うひゃああああああああああああああああああ!!

 ――――逃げちゃいました。


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