表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年Z  作者: 髙田田
五月・上
57/123

・大久保利通 57歳、誰が殺すの? クックロビン――――。

『お前の名前は偉人からとったんだよ』

 色んな意味で、素晴らしい父であったと今でも思いますねぇ。

 ――――大久保卿は、最後に暗殺されたんですけどねぇ?


 国外からの石油が止まった。話を聞いた瞬間には訓練と称してヘリを飛ばしてましたねぇ。

 歩兵は良いですよ? 最悪、足を使って歩けばいい。それだけの訓練をしていますから。

 でも、他はどうにもこうにもなりませんからねぇ。


 海自はオールでも漕ぎますか? 空自は鳥人間にでもなりますか?

 ――――昔々は琵琶湖を使って、そんな大会がされてましたっけ。

 いつの間にか見なくなりましたねぇ。今こそ必要な時代なんじゃないでしょうか?


 かなりの無理をして長岡の油田は守りましたよ。

 ただし、石油だけあっても駄目なんですよねぇ。

 銃を作るには鋼材から始まり、それを部品に変える工作機械と工員が山のように。

 銃弾を作るには真鍮、鉛、火薬に雷管、それらの原料集めと加工の種類を考えると頭が痛くなりますね。

 いっそ、火縄銃でも作りましょうか?


 海自はまだしも、空自の戦闘機なんてフライト毎にパーツ交換する必要があるそうで。お可哀想に。

 あぁ、うちのヘリの整備士も嘆いていましたっけ。お可哀想に。


 ――――そういえばですね、自衛隊の出動には色々と制限が、本当に沢山の制限があるんですよ。

 まず最初の渋谷でのZ騒動の際は、災害出動の名目でした。

 病気にかかったからって、民間人に銃口を向けるだなんて、とんでもないことですよ?

 地震や噴火が起きた時のように、ただバリケードを築くだけで精一杯でした。

 あの時は、機動隊の皆さんに随分と助けていただきましたねぇ。あれは大変に格好良かった。


 次は治安出動。

 警察官と同等の権限で、都市の治安維持に合同であたった――――大阪の悲劇ですね。

 首都機能の早期回復のために全国の機動隊を東京に集中し、その代役を自衛隊に務めさせた作戦の顛末です。

 警察官が犯人に発砲できる条件。これもまた、かなり厳しいものがあるんですよねぇ。

 それに準じると、我々自衛官にも発砲許可がまったく降りませんでした。

 たかだか素手の、たかだか噛み付くだけの攻撃手段しか持たない病人です。

 彼らに銃口を向けるなんて、とんでもない話ですよねぇ?


 私ら、敵を殺す訓練は散々してきましたが、犯罪者を無傷で捕まえる訓練なんてあんまりしてません。

 東京に機動隊の皆さんが集中していたのも良くなかった。

 普通の警察官の皆さんは、暴徒鎮圧に手慣れてるわけじゃありませんからねぇ。

 噛み付かれ放題、Zに仲間入り放題、東京での機動隊の皆さんの鮮やかさの対極のドロ試合です。

 ――――ボロボロの惨敗でしたよ。あれで日本の東西が分断されてしまいました。


 物流が停止し、暴動が起こり、どこかで死人がでればZになります。

 こうなれば、機動隊の皆さんが百万人居てもどうにもなりません。

 そしてこんな段階になってもまだ、日本では発砲許可が降りないんですよ。

 日本の政治家の皆々さんは、本当に責任を取るのがお嫌いでらっしゃる。

 もしかして、自衛隊が勝手に暴走して、罪無き病人たちを皆殺しにしてくれるのを待ってたんでしょうか?


 それからようやくの警護出動です。

 テロリストなどから自衛隊やアメリカ軍の重要施設を守るという名目の出動ですねぇ。

 Zの暴動はテロリストの細菌攻撃の可能性がある。なんて、お題目での出動でしたねぇ。

 かなりの拡大解釈をさせてもらい、電気、水道、ガス、油田、通信に適応させていただきました。

 実際に、『日本を転覆させられれば、それで良い』そんな物騒な考えをした海外の方もいらっしゃったみたいですし。

 長岡の油田を正々堂々と守れるようになったのは、ここからでしたねぇ。


 油田とはいえ民間の施設です。

 自衛隊が守ること自身おかしいのですが、拡大解釈で押し通しましたよ。

 避難民が駐留する避難所なども、一時的な自衛隊の基地という名目で押し通したらしいですね?


 そして最後になるのが防衛出動です。

 外部からの武力攻撃された場合、もしくはされそうなほどの状況においてのみ発動される出動命令。


 ――――要するに戦争開始、開戦のことですねぇ。

 ここで問題になってくるのは、外部・・つまり国外勢力からと法律で定められてるんですよ。

 つまり、病気の国民であるZを相手には防衛出動命令が出せないんです。

 国民を相手に開戦するなんてことは事実上、不可能ですよねぇ?

 法治国家の日本としては、まず法案を改正しないとなりません。

 そもそも九条からでしょうか? いやあれは国外向けなので、むしろ関係ありませんか。


 ――――重要施設を守るという名目ならば、Zの銃殺を国が許可します。国家が責任を取ります。

 でも、こちらから攻めることは許されません。

 厳密に解釈するなら自衛隊の施設以外、何一つ守れませんでしたねぇ。

 専守防衛を体現したかのような我々の活動記録は、常に見事にボロボロの惨敗でしたよ。

 これが、ちゃんと、我々が自衛隊であり続けた結果です。


 馬鹿みたいでしょう? えぇ、馬鹿なんですよ。

 まだ治安出動の段階だったのに、ダムを守って発砲許可を出したお方は自衛隊をクビになりました。

 それどころか、偽の命令発行による大量殺人の罪で後々には刑事告訴される予定だそうですよ?


『Zは怪物だから殺しちまえ!!』

 これを言うのは簡単なんですが、誰がその殺人行為の責任を取ってくれるのでしょうかねぇ?

 一年かけて根回しして、Zは治療回復の見込みなく、もはや殺すほかなし――――なんて話が盛り上がってきたところにあの動画。

 ははは、知ってか知らずか、アメリカさんは本気で日本を殺しに来ているようですねぇ。


 いつか誰かが言いましたっけ、自衛隊は暴力装置だって。

 えぇ、自衛隊は装置なんですよ。装置が人を殺すことなんてありません。

 包丁は人を殺しません。銃も人を殺しません。自衛隊も人を殺しません。

 持ち主が命令してくれないと、ホントに誰も殺せないんですよねぇ。

 引き鉄をひくのは私達ですが、引き鉄をひかせるのは私達であってはいけないんですよ。

 そうでなければ自衛隊は自衛隊でも軍隊でもなく、ただの暴力集団です。


 ――――私たちに身内を殺された?

 筋違いの恨みも大概にしてくださいな。

 うちは上の上からの指示で動いている、ただの暴力装置ですから。

 包丁を憎んで殺人犯を見逃してどうするんですか?


 まぁ、みなさん揃って色々とやってしまってたみたいですけどね?

 ウッカリ、瀬戸大橋に誤射してしまったとか。

 ウッカリ、青函トンネルを埋めてしまったとか。

 ウッカリ、伊豆大島で大量殺人してしまったとか。

 みなさん、いずれ仲良く監獄のお仲間達ですねぇ。……死刑にならなければ、ですが。


 さて、このまま長岡の油田を文字通り死守して、百万のZを相手にするわけにはまいりません。

 可愛い部下と可愛くない部下、第十二旅団と第一師団の隊員を殺させるわけにはまいりません。

 たった五千。されど五千。――――いつか、作戦が行なわれる時にはその一翼を担うだけの数です。

 おっと、忘れるところでした。農家の方々にも銃後の支えを期待しております。


 では、今回は私が大量殺人の罪を背負うといたしましょう。

 佐渡島の皆さんに何の恨みもありはしませんが、可愛い部下が五千ほどと民間人が五万ほど。

 そのために、佐渡島の皆様。どうか、皆殺しになってくださいな。


 ――――許されなくとも結構ですよ。

 あ、すみません。これだと厭味な言い方になりましたねぇ。

 どうか私を許さないでください。どうぞ、私だけを地獄の底に引きずり込んでくださいな。

 部下たちは全て、私が出した偽の命令に従って動いただけですから。

 全ての罪は、どうぞ私に――――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ