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少年Z  作者: 髙田田
四月・下
48/123

・四月三十日、春到来祭

 その人は綺麗な女性だった。アジア系と西洋人のハーフだと思う。

『私は、ミスター田辺に謝罪しなければならないことがあります。

 Zに対するオキシトシンの投与試験。その結果についてです。

 あの試験は、Zにただ沈静化をもたらすだけの結果ではありませんでした。


 ――――オキシトシンを投与されたZは沈静化と共に知性を取り戻しました。

 確かな人間性を取り戻したのです。


 記憶も確かであり、コミュニケーションすら図れるほどの回復ぶりを見せました。

 それはとても望ましい結果であったはずなのに、私は一度、真実を隠してしまったのです。

 この情報が外部に漏れた際の危険性を考えて、深く思い悩みました。

 Zは死者か生者か、怪物か病人か、加害者か被害者か――――。

 その結論。Z、彼らは公害の被害者。


 ――――ただの罪なき人々です。

 ただの病の被害者です。


 以降、彼らに対する人権保護の声も強まることでしょう。

 そして、軍隊はより動きづらく、とても動きづらくなることでしょう。

 Zの中には彼等自身の家族や親族、友人知人達も含まれているのですから。

 今、CDCの総力をあげ、人体からZを取り除くための処置法。対症療法を模索中です。

 各国の研究機関もそれに習い、あなたの掴んだ糸口から解決策を見出そうと研究中にあります。

 貴重な情報提供者である貴方に対し、実験結果を歪め伝えたことを深く陳謝いたします。


 ――――Zは愛に飢えている。

 それは、とてもロマンチックな発想でしたね。


 Zの発生当初から、ずっとZのことを怪物ではなく、

 病気の人間だと捉え続けていた貴方だからこその着想でした。

 どうか、我々の研究が実を結ぶその日まで、間違いの無い人生を歩んでください――――』


 それは、とても綺麗な日本語で、聞き間違いなど一切許してくれなかった。

 ブラインドの外では大きな炎が叫び続け……あの中には(つみなきひと)が何千……何万人居るの?

 駄目だよ……。京也がこんなこと知っちゃったら、駄目、なんだよ……?

 京也はまだ、このメールのことに気付いていない。……京也が気付いちゃいけないんだよ?

 また私の見ている前で、一人の(つみなきひと)が炎の渦に巻かれて消えて……。

 だから、私は――――。

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