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少年Z  作者: 髙田田
四月・上
24/123

・四月十八日、世界アマチュア無線の日

「生存記録、三百八十三日目。四月十八日、天候は薄曇り。記録者名、田辺京也。

 Zの世界から目を背け、他人の救援を待つだけだった葉山誠司。

 Zの世界に正面から向き合い、強盗団に成り下がった自衛官達。

 ――――迷惑だ。こちらはただ引き篭もっていたいだけなのに。


 住所を伝えなくとも三角法を用いれば電波信号の発信源は特定されてしまう。

 人を見れば強盗と思え。盗み、犯し、殺す、世紀の始めなのに世紀末な世界。

 神奈姉の精神的安定のために、ずいぶんと危険を冒してしまった。この子悪魔め。

 恋人じゃないと先に言っておいてくれれば……大チャンスだったのに!! バスタオル一枚の艶姿で!! なんてことだ!!


 無線が死んだ。残るは有線だけだ。心もとない。

 無線通信の受信は出来ても、送信は出来なくなった。

 お気に入りだった個人放送のご近所ラジオ。CD八枚でやりくりしていた敏腕DJ。

 晴れの日はポチがお手紙を届けてくれた。曲数が少ないからリクエストする側も大変だったなぁ。

 ……急に放送が止まったのは、あの強盗団のせいなんだろう。彼の声ももう聞けない。

 一匹居るなら三十匹は居ると思えが強盗団だ。もうこれ以上の失態は犯せない。

 Zのみならず、人間まで警戒しなくてはいけないとは世も末だ。世紀末だ。なのにモヒカンヘアーが流行らない、何故だ?

 これが玩具のトランシーバーで良かったな。本物のトランシーバーなら襲われて、奪われているところだぞ?


 ――――葉山誠司、爽やかな寝ぼけ眼の好少年。

『まるで動物園の檻のような家ですね?』

 ずいぶんと生ぬるいことを口にしていた。

 まるでではなく、あの家は監獄そのものだというのに。

『Z対策にはこれくらいしておかないといけないんですよ、ごめんなさい』

 ついでにデパートでの乱暴な対応についても謝罪した。

 救援を装った強盗の可能性があったからだと本当のことを語ったなら、

『そうか……そういう可能性もあったんですね。思いもよりませんでした』

 と、きたものだ。……よく今まで生き残ってこれたもんだ。

 基本的に善人、なんだろうな。無自覚に人を厄介ごとに巻き込むタイプの。

 他人を疑わない性根は善。その行為の結果は悪。現代社会が悪い。


 彼もご近所ラジオのリスナーだったことには驚いた。

『え? 田辺さんがあの葉書職人のプレッパープレッパーさんだったんですか!?』

 はい、そうだったんです。

 冷凍庫に入りきらない食料を送って、支援して、殺してしまったのはボクなんです。

 ……Z化、飢死、強盗殺人。そのどれがマシだったのかは解りませんけど。


 Zの文化的利用は不可能だった。

 ――――CDCの発表。彼等には学習性が認められる。

 ゾンビではなく病人の可能性がさらに高まった。

 Z式発電機は停止。拘束していた鎖を引き千切り、射殺されたようだ。

 昨日までの防壁が、今日も有効な防壁である可能性が消えた。

 ネット上の情報を見る限り、彼等の知性レベルが一年前に比べて上昇している。

 ゆっくりと時間をかけ、粘菌Zが人間の脳機能との融合を果たしたのだろうか?

 ……これで最終的にただの人間に戻ったなら――――笑い話じゃ済まないな。新人類の誕生だよまったく。

 木崎のおじさんとおばさんが、外部からの刺激もなしに動き始めていた。

 そのまま元の二人に戻ってくれたなら嬉しいが、そうはならないと予感している。

 この先、Zはどんどん知性を増す。守ることは難しくなる。

 でもそれが希望にも繋がるなんて、どんな皮肉なんだよ……。


 いつの日か、ゾンビナオールが開発されたとき、人は人の世界に戻れるのだろうか?

 今まで行ってきた全てのことをすっかり忘れて、善人面で生きていけるのだろうか?

 俺は無理でも、三人の……四人の笑顔は守りたい。仕方が無いから朱音も守ってやる。残念だけど守ってやる。

 感謝しろよ? 宮子ちゃんとアイスの交換するの止めろよ? 抹茶味でもちゃんと食べろよ?

 アザミさんの笑顔は宮子ちゃんが守ってくれる。それは任せたよ、宮子ちゃん?


 映画の中、ゾンビに学習させようとした博士が居た。大御所ロメロだ。

 映画の中、ゾンビの人権を認めろとデモをしていた人権団体が居た。たしか、サム=ライミ。

 映画の中、ゾンビが人間に恋をした、なんて話もあったっけ。ジョナサン=レビン。


 ……現実社会。都会に親戚の居ない人は少ない。

 大学にやった息子や娘、そのまま就職した兄弟姉妹。

 ゾンビは人類の敵だ、皆殺しにしろ! いや、回復の可能性があるんだから待て!

 人類同士で喧々錚々。民主主義ってのも大変だ。意見が分かれて纏まりやしない。

 文明的で居るというのも疲れるもんだね。

 十年間ほど、ずっと家に閉じこもって居たかったのに……ニートするのも難しいなぁ」


 ヘッドセットを置いて、溜息をつく。

 太郎が撮影した空撮画像を目を針にして調べ、人間が立て篭もっていない施設類を探す。

 人が増えた。一気に八人もだ。計算上、三年持たない。

 もっと大きく、外部との接触を図る必要があるかもしれない。

 田辺京也は、今日も頭を掻きながら計画を練り続けるのだった……。


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