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少年Z  作者: 髙田田
四月・上
23/123

・四月十七日、少年保護デー

「生存記録、三百八十二日目。四月十七日、天候は晴れ。記録者名、田辺京也。

 先日捕獲してきた人的物資は、それなりに快適に生きているようだ。

 神奈姉の恋人ではないが、知り合いだ。

 そのまま見捨てたなら悲しむに決まってる。それはちょっと嫌だな。

 なので、物資運搬要員として連れて来た。あるいは奴隷だ。


 食事が与えられるだけありがたく思え!!

 そう宣言すると、

『ありがとうございます』

 こう返されるのだからやりきれないし締まらない。

 アザミさんに極悪な司令官の演技指導を受けたのだが、付け焼刃ではこんなものか。情けない。

 あるいはカレーライスが良くなかったか。賞味期限切れのレトルトだと言うのに美味しそうに……あぁ、一人だけ辛そうに食べてたな。

 どうだ? 通常よりも45倍美味いカレーの味は? 味覚がしなかっただろう?

 誠司君に酷い事をするな! と、女の子たちが……約一名、四十代が混じっていたな。すこしだけ奴を見直した。

 七人全てを女の子扱い、自分より年上も女の子扱い、四十代も女の子扱い、心もイケメンだなぁ。

 ……アザミさんも女の子扱いされると喜ぶのだろうか?

 今度試して……みる度胸は無いな。逆に嫌われそうだ。

 逆にオバさん扱いしてみたらどうだろう? ――――考えるまでも無い。鳥肌が立ったわ。


 デパート内部における資材の搬入、途中からは葉山誠司も混ぜて行った。

 ……日が昇るまでが勝負だったからなぁ。

 威厳と資源、重要なのはやはり後者だ。仕方が無い。

 Zに対する基本的な姿勢は理解しているようだが、さすがに外での単独行が出来る錬度ではなかった。

 そもそも、外に出ていないんだ仕方が無い。


 今日は奴等の愛の巣の補強に勤めた。

 指を引っ掛けられそうな部分はパテで平らに、鉄格子は内外に設けることにした。

 一室をセーフルームに決定し、重点的に補強。高級金属板で内外を囲った。なにせ桐山さんちの高級車を解体したんだ、高級金属板に決まってる。

 応接間に後部座席の特製ソファーを運び込んでやったときにはスッキリした。

 家壁の強化には残り少ない発泡性素材を用いた。瞬間的に硬化し、ゴキブリの動きを止めるスプレー剤。分類は殺虫剤だが、個人的には壁材だ。……人体への影響は知らない。

 Zが殴打する際の衝撃を分散させる効果がある。最後にシリコンコートを噴霧すれば完成である。

 最近は自宅の強化が完了してしまったので、新しい家の強化もなかなかに良いものだ。

 それぞれにコンセプトを変えて強化試験を行って見るのも良い。


 デパートから持ち帰った資材で、ようやくZの操作網も完成した。

 これでポチに苦労をかけることも無くなった。ご苦労だったな、ポチ……いや、引退はまだだよ?

 赤外線受信装置……レーザー銃の玩具の的とスピーカー、太陽光パネルによる逐電装置のセットだ。

 これを周囲の建物の上に太郎を操作して設置した。

 その気になればZのマラソン大会だって行える。……今度、試してみようかな? 試さないけど。

 人間に対する備えとしてのZバリアの集合装置。そして解散装置。

 これで大半の有事に備えることができた。戦車と爆撃は、むーりー。


 ――――葉山誠司。人垂らしの好青年。たぶん善人。普通の世の中なら。

 百人近い人間の中で、最後まで生き残った男。……なのに一欠けらも信用できない。

 救援を屋上で待ち続けたと彼は手紙に書いたが、それは美談ではない。

 彼を慕う女性達のために残ったと口にするが、女性達のために冒険を行う気はないらしい。

 勇気ある者は外に出て死んだ。彼はそのお零れを待ち続けたのだ。繰り返すが美談ではない。

 無自覚に自らを演出することが上手な男。これが彼に対する評価である。

 なんでこんな男に女は引っ掛かるのやら――――やはり顔か?


 ……鼻毛、やっぱり出ていなかったな。

 自然に生きていればどうしても出てしまうもので、身だしなみに気を使わなければ手が回らないところだ。

 毎日、鏡を見てセットしていたのか? 女性受けを考えて? 大したものだ。

 ……強襲し、確認して正解だった。迎えにいくと伝えたなら合否が解らなくなる。

 彼は、不合格だ。こちらの家に招き入れて良い人間ではない。

 でもそれを四人娘に説明し、理解して貰えるだろうか?


 神奈姉は、かなりシビアだ、解ってもらえるだろう。

 まもりは、心配だ。上手く言葉で丸め込まれかねない。

 朱音は、どうなんだろう? ……カッコイイ彼が欲しいとか書いてたしなぁ。

 宮子ちゃん。うん、あっさりと騙されそうだ。あのおにいちゃんに近づいちゃ駄目だよ?

 アザミさん。流石に男には懲りたようで、葉山誠司に対して不信感を募らせていた。口にするまでも無いようだ。むしろ、嫌ってる?

 俺は、彼を、信用しない。信頼しない。背中は預けない。それだけは伝えておこう。

 理想のパートナー、モヒカンくんはいずこに……」


 ◆  ◆


「田辺くん。判断の基準が鼻毛って、おかしくない?」

「おかしくない。ドッグフードを食べる生活をしながら身だしなみには気をつかってるんだぞ? それこそ異常だと思わないか?」

 俺が熟考した結果なのに、女性的にはおかしくないことだったらしい。

 武士は喰わねど高楊枝。女は喰わねど無駄毛処理。

 いつ死ぬか解らないからこそ、常に美しくありたいのだそうだ……生意気な。

 むしろ、衣食住に満たされながら、たまに飛び出す俺の鼻毛に批難の声があがった。

 お前等も油断してるとき飛び出してるぞと口にすると、四方から侮蔑の言葉が投げかけられた。

 ……モヒカンくん。どこぉ?

「とにかくだ、俺は、女のためと言いながら玩具のトランシーバーで救援要請してただけの奴を信用しない。たとえ危険でも外に飛び出し、米の一粒でも持ち帰ろうとするのが女のためだろ?」

「京ちゃんは飛び出しすぎ。少しは残される人のことを考えて?」

 神奈姉、それは酷いよ……。

「私は解らないでもないかな……。悪い人だとは思わないけど、信用もできない……かな? 要するに、他人の力をあてにしてばかりの人なんでしょ?」

「まもり……熱でもあるのか? 急に頭の良いことを言って」

「ねぇ京也、信じて欲しいの? 欲しくないの? 殴って欲しいの?」

 アザミさんは色々と悩ましげに考え込んでいる。……色っぽい。

 ……女のために食料を取ってくる男というものに、良いイメージが無いんだっけな。

 失言だったかもなぁ……食料と、生活の、等価交換は奇麗事じゃ無かった。


「田辺くん、もっと他に何かないの? 決定的に信じられそうな言葉」

「黙って俺について来い」

「解った、そうするね。ちゃんと責任とってね? 不束者ですが、末永くよろしくお願いします。子供は二人? 三人?」

「朱音ちゃん? 氷川朱音さん? ちょっと、調子にのってないかな~?」

 駄目だ、男女比が偏った弊害だ。助けてモヒカンくん!!

 なにか、なにか……。

「あぁ、そうだ。道具だ」

「京也さん、何か思いついたんですか?」

「食料が底を尽きたら皆で移動するって手紙には書いてあった。でも、何の武器も用意してなかったんだよ。デパートにはあれだけの資材がありながら、何一つZの対策をしてこなかったんだ。インターネットはあった、なら、Z対策の一つもしてて当然なんだ」

「バリケードも無かった、ですね」

 アザミさんが補足してくれた。

 ただ、デパートという良い立地に恵まれ、ただ、資源を浪費し続け、確定された終わりを想定しながら足掻かなかった。

 既に終末の世界でありながら、終末に備えなかった。

 危機の最中さなかにありながら、玩具を片手に平常のふりをし続けてた。

 正常性バイアス、だったっけ。脅威がそこにあるのに、ないふりを続けて心の安定をはかる心理学の用語。

 ……テスト前には掃除をしたくなる、あれか?

 そういう、ことだったんだな。

 平和な世界で危機のフリを続けるプレッパーズとは正反対の人。

 どうりで爽やかな好少年風味なのに嫌悪感を感じるわけだ。……決してイケメンハーレムに嫉妬したわけじゃない。

「簡単に纏めよう。自力でハーゲンダッツをとって来れない奴だ。大した奴じゃない。だから信用するな」

「……田辺くん、基準おかしい」

「じゃあガリガリくんとパピコも追加で」

 まもりと神奈姉が頷いてくれた。しぶしぶながら朱音も。

 女の信用を得るには花より団子なんだなぁ……。

 そういえば、アザミさんの好きなアイスって何なんだろう?


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