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少年Z  作者: 髙田田
四月・上
16/123

・四月十一日、ガッツポーズの日

 私、なんでもします。

 言外に、下半身事情の解消が含まれていた。

『何でもされちゃ困ります。この家のなかは、モラルのある普通・・の世界なんですから』

 それが京也の答えだった。


 苦しんでいる人が居たら助けたいか、助けたくないか、その二択を並べられて前者を選ばない人間は少ないだろう。後者を選ぶ人間は、その人間こそ苦しむべきだ。

 苦しんでいる人が居たら助けたいか、助けたくないか、ただし助ける場合には貴方の財産の半分が消費されます。

 条件が付くと人は迷う。

 見ず知らずの他人の救済と、自分の財産、どっちが大事か。

 そして九割以上の人間が後者を選ぶ。九割以上の人間が前者を選んだなら、世界に貧困は存在しないだろう。気が付かないうちに、人は選択を終えていた。


 助けられるものなら助けたい。

 それは善人でも何でもない。普通の感性だと京也は考える。

 京ちゃんは優しすぎるから心配。神奈は言った。

 京也にしてみれば当たり前のことをしているだけで、自分が優しいつもりなど欠片も無い。

 結果として多くの人が助かる、そういう道を選び続けていただけだった。

『だって、それが普通でしょ?』

 神奈は哀しそうに微笑んだ。

 その助かる人の中に自分自身が含まれて居ないから、神奈は心配だと言っていたのだけれど、京也は気付きもしなかった。


 ◆  ◆


「生存記録、三百七十六日目。四月十一日、天候は小雨。記録者名、田辺京也。

 思春期の少年の夢、性奴隷をまた手に入れ損ねた。

 何でもしますというから、何が出来るか念のために尋ねてみた。

 専業主婦――――羨ましい――――だったアザミさんは、自分には料理と洗濯しか出来ないと口にした。

 仕方が無いので、履歴書のフォーマットを印刷し、記入してもらった。

 証明写真というのはなかなかに撮影が難しいもので、あまり綺麗にならなかった。

 画面上では良い感じなのに、プリントアウトすると少々残念な具合になってしまうのだ。

 せっかくの美人さんなのに、悪いことをしてしまったと思う。反省。


 そんなこんなで、また、出かけることになったわけだが、また、まもりは怒るんだろうか?

 怒るんだろうな。……説教役を神奈姉に代わってもらえないかなぁ? それならご褒美なのに。

 まもりが怒る前に優しく叱ってもらえるよう頼んでみようかな?

『京ちゃん? 危険なことしちゃ駄目だよ? メッですよ♪』

『ニヤニヤ笑いキモイ!!』――――まもりの拳が飛んでくる未来が想像できてしまう自分がキモイです。

 さて、出発侵攻。明日の朝までには帰ってこられますよ~に。

 今日は何に祈ろうかな?」


 ◆  ◆


 5kmの道のりは遠い。

 小雨とはいえ、多少でも不規則になったZの動きを読むのは難しい。

 それでも近日中に片付けておかなければならない案件だ。

 自分が労苦を――――手を汚し……てないな、今回は。

 Zちゃんありがとう。自衛隊、怖いです。

 とにかく、落ちてるものは拾いに行かなければならない。

 それも早急にだ。他の誰にもくれてやるつもりはない。

 今回は自宅から警察署を挟んで、さらに向こうに位置取りをしなければ。


 先日よりも身軽とは言え、雨の日の外出は嫌だな。……らしくないことをしている。

 完全で完璧な、安全の中でしか動かないつもりだったのに、最近は博打をうってばかりだ。

 ――――神奈姉と、まもり、そしてボクだけなら、家から一歩も出ずに居られたのにな。

 一つ間違えば終わり。一噛みでZ化。……今の俺はZを舐めていないか?

 今回だけだ。

 今回で、終わりだ。

 これ以上は、しない。平和に、安全に、生きる!!

 ……まて、それは死亡フラグだ。えーっと、危険で、凶悪に、死ねる!!


 第一チェックポイントに到着、ユニットA、セット。カウント開始。

 第二チェックポイントに向かう。

 進行方向にZ発見。数1。ロングレンジボウガン、用意。

 コッキング、装填、息を止めて狙い、射出、命中。

 進行再開、十字路、右方にZ発見。数3。石を投擲、視線誘導。誘導を確認、道を直進。

 進行方向にZ発見。数5。迂回路検索。戻り、左方の道に入る。

 進行方向にZ発見。数1。

 コッキング、装填、息を止めて狙い、射出、命中。

 進路上、ガラス張りの家を発見。室内が暗闇のためZの存在は不明。

 迂回路……無し。装備を近接戦用に変更。

 匍匐前進にて通過開始。………………完了。

 十字路、左右確認、Zの影無し。本線に戻る。

 第二チェックポイント付近、Z発見。数3。

 第二チェックポイントへの到達を諦めユニットBをセット。カウント開始。

 第三チェックポイントに向かう。

 十字路、左右、双方にZの影。数3。左1、右2。…………ロングレンジボウガン、用意。

 コッキング、装填。左方Zを狙い、射出、命中。

 急ぎ道を戻る。

 Zの倒れる音に右方のZが反応、ゆっくりと近づく。……遅い。

 背後確認。Zの影無し。

 右方2体のZ、十字路を通過。

 石を手に取る。投擲。近隣のガラスを割り視線誘導。誘導確認。Zの背後を通りぬけ十字路を直進。

 前方、Z発見。数8。ガラスの音につられてこちら側にゆっくりと進行中。失策を悟る。

 …………左、マグライト用意。右、ピッケル。正面突破用意。

 マグライト照射。Z、光に反応し歩行速度を速める。

 一体目、光で視界を殺し、頭蓋貫通。

 二体目、光で視界を殺し、頭蓋貫通。

 背後を目視で確認。Zの影アリ。こちらにゆっくりと進行中。挟撃の恐れあり。

 マグライトを構えた状態で突貫開始。

 三体目、排除。四体目、排除。五体目、こちらを人間と認識。突進開始。

 マグライト照射、移動止まらず。突進に対してサイドステップ。盲目状態で横を通過。後頭部にスイング、後頭部を貫通。

 六体目、排除。七体目、排除。八体目、すでに突進中。

 マグライト投棄。さすまた用意。胴体部に激突。バックステップで突進に対応。下がりながら勢いを殺す。スイング、側頭部、貫通。

 前後確認。背後からZの影。未だ人間と認識せず。音に反応し、速度を上げ接近中。

 マグライト、破損を確認。放棄。急ぎ前進を再開する。

 丁字路。左右。右1、左無し。石を投擲。視線誘導。誘導確認、左に進路を進める。

 進行方向にZ発見。数2。

 コッキング、装填、息を止めて狙い、射出、命中。

 コッキング、装填、息を止めて狙い、射出、ミス。

 コッキング、装填、息を止めて狙い、射出、命中。

 進行再開。十字路、左右、Zの影無し。右に進路をとり本線に近づく。

 第三チェックポイント手前、Z発見、数……10以上。

 第三チェックポイントまでの距離150m。これ以上の接近は諦める。

 周辺の建造物確認。右方に二階建ての集合住宅発見。

 階段を昇る……が、軋む金属音。これだから古いアパートは。

 幸い、気付かれてはいない模様。

 二階部屋1、鍵、クローズ。

 二階部屋2、鍵、オープン。ノック、物音無し。空室と判断、近接装備に変更。侵入。

 玄関、クリア。間取りは1K。さすまたを予備マグライトに変更。

 ユニットバス、クリア。

 押入れ、クリア。

 台所下、収納、クリア。

 部屋の安全確保完了。第一段階完了。作戦の第二段階まで休息をとる。


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