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少年Z  作者: 髙田田
IFストーリーライン・エリカとボクと苦悩の日々
119/123

・田辺京也 17歳、エリカとボクと苦悩の日々、その死

「誰かと一緒に口にする夕食って、こんなに美味しいものだったのね?」

 久しぶり。誰かと向き合って、家の中で食事をとるのは本当に二年ぶりだったそうだ。


 Zそのものに悪意は無い。ただ、人間に地中から連れてこられた被害者なんだよ。

 愚かだったのは、最初から最後まで、人間の方だったんだ。

 そんな単純な言葉だったけれど、エリカは受け入れてくれた。

 こうして気分は、落ち着いて――――無いね。まだ、泣き止んでくれないや。

 折角の鶏の料理が塩味で台無しだよ?


「マジックハンドの感触に慣れてるから、なんだか不思議な感じがするわね?」

「ボクのゴツゴツした硬い手は、嫌い?」

 ――――多くのZ感染者を殺してしまった、ボクのこの手じゃ駄目かな?


「ううん、この手で良い。この手が良いの。パパと同じ優しい手をしてる」

「年下のボクとしては、それは微妙な気分になる発言だよ?」

 いつもの馬鹿笑いではなく、ニッコリとした笑顔だった。

 優しく、優しく、顔中を撫で回して、頬と額にキスをした。

「キョウヤ? 唇には?」

「パパは娘の唇を奪いません。それに今、キスをすると、とてもスパイシーな味がするよ?」

 顔を赤らめて、鶏肉の塊にグサグサとフォークを突き刺して不満を示す。

 そういう仕草が子供っぽいんだよなぁ……。


 ボクはただ走り続けた。エリカもただ走り続けた。二人が共に走り続けた。

 目指すゴールは違ったけれど、走り続けた仲間同士だ。……なんて言うと、怒られるんだよね?

 それで喜ぶのは男の子だけですよって川上さんには注意を受けた。


 色んなことを注意されたっけ。

 姦し三人娘には、返しきれない程の恩を与えてしまった。

 だからもう、純粋な愛情は得られないんだってさ。


『一緒には居てくれても、それはきっと京也君の望むものじゃ無いんですよね?

 同情とか、罪悪感とか、義務感で一緒に居て欲しいわけでもないんですよね?』

 お姫様に尽くしすぎた末に、純粋な愛情を得られなくなる。そんなこともあるらしい。

 それにボクが望むのは、お姫様自身の幸せだ。相手はボクじゃなくても構わないんだよ?


『むぅ、男の人の悪いロマンですよ? それは!

 女の人のロマンは、もっと違うものなんです。

 私だけを見詰めて、私だけを求めて、私だけを愛して、貴方の色に染め上げて欲しいの……ただし私好みの色でお願いね?』

 ボクのロマンを全否定。耳に痛いです川上さん。

 男としてはゴム製品の方が評価が高いって。本気で酷いですよ、川上さん。


「キョウヤは上の空で浮気中?」

「いいや、反省中かな? それ以前に、浮気中ってことはボクたち二人、既に恋愛関係だったの?」

 愛を告白した事も無ければ、愛を告白された事も無い。頬と額のキスはアメリカじゃ挨拶の範疇だ。

 浮き輪のようにプカプカと浮いた関係と言うなら浮気中だよ?


「キョウヤ、えっと、そのね? ――――今こそ、アナタの男を見せるときよ!!」

「アンチゾンビバレット、ストロングボルテージャーの用意ならあるけど?」

「ち~が~う~の~!!」

 ぷんすかと手足をバタつかせ、怒る姿は宮古ちゃんにそっくりだ。

 まもりにも似てるし、朱音にも似てる。――――結局、女の子ってみんな似てるのかな?


「ねぇ、エリカ? ボクが男を見せる前に聞きたいんだけど……。エリカは女の子を見せる用意が出来てるの?」

 ボッと赤くなり、次に蒼ざめて、うろたえて、自分の手荷物を漁り、頭に手をやり悩み悶えた。

 CDCから一直線。私物は持ってきたようだが、細かなものは鞄に詰めてこなかったのだろう。

 女の子と一年間、ともに暮らしたボクは知っている。

 女の子はね、用意を整え終えるまでは女の子じゃないんだよ。

 じゃあ何だと聞かれても困るけど、その答えは女の子に聞いて嫌われると良いさ。


「とりあえずアメニティならお風呂場に、その辺のホテル程度には揃えてるつもりだから気にしなくても大丈夫だよ?」

 エリカは真っ赤になって小声で呟いた。

「――――いじわる」


 ◆  ◆


「私ね? 思うのよ。日本語は情緒があるって自分で言ってるけど、その~大胆な部分では表現を曖昧にする良くない癖があるな~って」

「つまり、生殖行為とキッチリ述べて欲しいの?」

「キョウヤ? 叩いて良い? 結構、かなり思いっきりになるけど?」

「ご勘弁ください、お奉行様」

 エリカに胸元でクスクス笑われると、吐息がくすぐったくてボクも笑ってしまいそうになる。


「日本語で生殖行為。でも、英語だと三つの言い方があるの。知ってる?」

「あいきゃんとあんだーすたんどいんぐりっしゅ。どぅーゆーあんだーすたんど?」

「私の母国語なんだから、少しは覚えて欲しいんだけど?」

「努力はします。結果がついてきません。なので、気長にお付き合いください」

「どれくらい気長に待てば良いの?」

「とりあえず、枕言葉を英語で語れる日まで」

「――――ピロートークは枕言葉じゃありません」

 え? そうだったんだ? そもそも日本語でなんて言うんだろう? 事後談話?


「こほん。英語では三つ、レイプ。セックス。それからメイクラブって言うの……。

 どうして、ただの生殖行為に男と女があんなに拘ってたのか、私、やっと解った気がする」

「エリカさんの回答はいかがなものになりましたか?」

「どうやって肌を合わせようか、どうやって唇を交わそうか、どうやって舌をまじわらせて、どうやってお互いを確かめ合い、どうやって相手を幸せにしようか……お互いに、ずっとずっと考えながら……幸せで愛を作り上げるの。一人じゃ駄目。三人でも駄目。アナタと私じゃなきゃ嫌よ?」

「一人じゃ愛は作れない。確かにそうかもしれないね。身に覚えがありすぎて困るよ」

 男なら誰だって身に覚えのあることだ。

「ね? キョウヤ? 私達の間にも、ちゃんと愛が出来たのかな?」

 それは順番が逆だと日本人のボクは思うんだけど、これは黙っておこう。

 海の向こうでは、ラブがメイクされる前に交渉が始まるものらしい。なるほど、性に乱れているわけだ。


 ◆  ◆


 メイクラブとは、べつに生殖行為を表すものでもないようだった。

 手を繋いだり、指を絡ませたり、お互いを褒めあったり、認め合ったり、その唇の別の使い方を試みたり、全てが愛を作りあげる行為に繋がった。

 たとえばお姫様のように抱き上げたり、膝の上に座らせたり、一緒に映画を見たり、なんてのも。

 映画の音声は、ボクに合わせて日本語吹き替えにしてもらった。字幕はあまり好きじゃない。

 エリカにしてみれば、ハリウッドをわざわざ日本語で観るなんて新鮮な感覚らしかった。

 今、画面の中ではゾンビたちがノロノロと、ショッピングモールを目指して歩いている。

「もう、きっと新作は作られないのよね?」

「うん、残念だよ。こういう映画、大好きだったんだけどなぁ」

「キョウヤは、どんなところが好きだったの?」

「ツッコミどころが満載なところ」

 ボクの膝の上でエリカがお腹を抱えて笑うものだから、その微妙な振動が思春期の少年には困る。


「――――あっ! 大好きなゾンビ映画よりも、大好きな私と愛を作りたくなったのかしらぁ?

 キョウヤはメイクラブが好きなお年頃だったっけぇ? そんなにお姉さんとメイクラブしたいのぉ?」

 からかうような響きの声。昨日までお子様だった癖に、あまり調子に乗るんじゃないぞ?

 なので、ボクは一つの重大な事実を付きつける事にしました。


「ねぇ、エリカ? 確かアメリカの法律では成人が十八歳以下の異性に生殖行為を求めた場合、

 男女や同意に関わらず一律してレイプになるはずだよね?」


「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 アメリカ人って、ホントにNOって言うんだね?

 NOと言えない日本人。確かにこのNOは言えないよ。ネイティブは違うなぁ……。


 ――――痛い痛い、叩かないで。いやっ! やめて! 力尽くでボクの服を脱がさないで!!

 愛のあるレイプなんて嫌ぁぁぁぁぁぁ!! 犯されるぅぅぅぅぅぅぅ!! 愛を作らせないでぇぇぇぇぇ!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何となく番外編始まってから察してたけどやっぱりか。こんちくしょうおめでとう!!! 爆発して欲しいのが半分、愛を手に入れられてよかったねが半分……いや一割。
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