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少年Z  作者: 髙田田
IFストーリーライン・エリカとボクと苦悩の日々
117/123

・田辺京也 16歳、エリカとボクと苦悩の日々、その荷

『私は、こんなことの為に弾丸を開発したんじゃないのに!!』

 ――――いきなりですが、ボクの心の名台詞を奪われた。

 もう、彼女のもので良いんじゃないかな?


 Zくんは強い。Zくんに感染した人は、とっても強い。

 世の中にZくんが蔓延し、アメリカ国中にドラッグが蔓延した。

 そしてZ化しても、より強い快楽を求める人の業に終わりは見えなかった。

 つまり、マネーを求める欲求に際限は無かったんだよ。

 より強い薬、より多くの薬が欲しいってね?

 その行き着く果ては、犯罪行為だった。


 Zに感染した犯罪者を相手にするためには、通常の9mmパラベラム弾では威力が不足した。

 弾丸を撃ち込む端から無効化される具合だ。かといって、頭部にブチ込めば一発でお陀仏だ。

 ゾンビの上にジャンキーだ。激痛や内臓破裂程度で止まってくれる相手ではない。

 だから、まずは手足に打ち込み、などと悠長なことをしていては危険だった。

 なにせ、向こうは常に筋肉のリミッターが外れた化け物たちなのだ。

 そうでなければ、Zに感染していないポリスメンの身が危ないのだ。

 まず頭に二発。そして頭に二発。新式のコロラド撃ちが開発された。

 Zか非Zか、それを目視で識別する手段は今のところ存在していない。

 結局、皆殺しにするほか無いという冷たい現実が、警察官達の心を苦しませていた。


 進んでZ化したがる人間も居るが、そうでない人間もやはり多かった。

 薬漬けになるという退廃的な生活に、嫌悪感を感じる人間も多かった。

 犯罪を取り締まる側の警察官がZとなり、ジャンキーになってしまっては本末転倒だ。

 そして、未だZではない普通の犯罪者をZ扱いで撃てば、普通に殺害してしまう始末。

 そんな行き詰まりの解消をCDCは求められていた。もはや、CDCの範囲外の仕事だが、エリカは立ち向かった。


 そして開発されたのが、アンチゾンビバレット。

 ゾンビではないと散々繰り返したが、本場においてはゾンビの通り名の方が強かった。

 Zは怪傑の方らしい。なら、仕方が無いよ。先達者が居るのであれば無理も言えない。


 この弾丸の開発にはエリカ経由でボクも外部アドバイザーとして加わった。

 向こうじゃキューヤ=タナベ氏のボク。この呼び名で呼ばれるたびに、あの国を滅ぼしたくなる。

 野球かキュウリかどちらかハッキリしろ。


 一度、リチャードさんに相談してみたのだが、

『HAHAHA!! 世界一の大富豪の名前を変える?

 世界一の大富豪でも無理に決まってるじゃないか!! HAHAHA!!』

 ――――やはり滅ぼしても良いのでは無いだろうか?


 さて、アンチゾンビバレット。正式名称はゾンビリビリだ。

 開発者がイの一番からゾンビと呼んでるのだから、ゾンビの名称も致し方なし。


 その形状はゴム性の低速弾頭だ。ただし、性質はただのゴム弾とは違う。

 第一段階では内部装置の電気パルスを用いて粘菌Zに混乱を生じさせる。

 第二段階ではゴム、正確にはシリコン内部に秘められた針状の麻薬を注射。

 服の繊維の隙間を縫って、強引に皮下注射される麻酔弾の一種として弾頭は開発された。


 第一段階の開発は失敗の連続だった。Zくんの尊い犠牲が無ければ成立しなかっただろう。

 Zくんと人間、遠く離れた二つの存在に思えるが、実はある一点において繋がりを持っていた。

 それはロマンティックな事に音楽だったんだ。


 羽田空港の二次レーダーの波、そして回転の周期、これを人間に例えるならドラムのリズムになる。

 耳にはトントントン、タンタンタンと響くだけだが、トンタタトンタタとリズムになると心地よさを感じるものだ。

 Zくんもそれと同じように、電気信号の波長と周期によって作られる音楽を全身で感じていた。

 Zくん好みの音楽はゾンビホイホイ。Zくんが嫌がる音楽はゾンビバイバイと命名された。

 これ自身は、Zくんの知性の発見につながるため発表はしていない。

 起きている脳はこれに対して不快感を感じないが、身体がムズムズとはするらしい。

 昔、不快害虫や小動物向けの、音波を出す電子害虫駆除機があったけど、こんな形で再開するとはね。


 話は、エリカの頭を撫で撫でを続けながら、ゾンビリビリに戻る。

 人間にとって致死量ではなく、常習性も低く、かつ即効性と継続性を持つ薬物が求められた。

 CDCとアメリカ中の製薬会社が手を結んだ結果、芸術的なZ感染者への麻酔薬が開発された。

 その芸術性の結果、アメリカ中でその弾丸は大流行した。――――麻薬の注射器として。


 エリカがアメリカライフル協会から大いに寄与したと盾を貰い、即日のうちに粉砕していた。

 その暴れっぷりは凄かった。なぜ、その姿をボクに中継しながら破壊したのかは不明だけど。

 飲んだ、泣いた、慰めろとまた撫で撫での長時間強要。

 ボクはエリカの頭を撫でることは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。

 どうしても前かがみになる姿勢、半分のアメリカ人の血、出来上がる谷間のサイズ。

 オウ! イエス!!


『私はね? 警察官や軍隊のことを思って……。軍人だったパパのために頑張ったんだよ?』

「うん、ボクも同じ気持ちだよ。現場に立つ人々。……日本の人々のことも思ったんだよ?

 未だにZの感染者の対処は、格闘技を用いて関節を外すしかないって現状を憂いてね?」

『――――キョウヤは優しいのね? 私は、合衆国のことしか考えてなかったのに……』

「それは、住んでる場所の違いさ。ボクはここで、キミはそっちだもの」

『それは、寂しいことよね? ……まだ、アメリカに渡る気は無いの?』

「だからボクは、ジュニアスクールしか出てないんだってば」

『プリーズ、ファイブミニッツ』

 あぁ、ベッドの上で飛び跳ねて、クッションをポカポカさんにして。

 相変わらず思うことだけれど、エリカの精神年齢は低い。もしかするとボクよりも低い。

 歪な成長、歪な性徴が、彼女を正しい淑女に育てなかった結果なのかもしれないな。

 ――――天才っていうのも悲しい存在なのかもね?


 そんなことよりも、その脚線美の奥に見えるものを……望まない。

 ボクは紳士だからね? チラしないリズムを嗜む紳士だからね? なぁ、同士リチャードよ。

 七十を過ぎてもなお紳士とは、アメリカ人も恐ろしいものよな。


『そういえば、今度、新製品を出すんですって。

 ……アンチゾンビバレット、ストロングボルテージャー。

 強いアメリカ、強い男性をイメージした、電圧強化型のゴム弾なんですってよ……。

 そんなにストロングが好きなら12.7mmでも喰らってなさいよ!! フルメタルジャケットでね!!

 ねぇ、キョウヤ!? キョウヤは、そんな我慢強さ自慢をする馬鹿な男達とは違うわよね!?』

「はい、京也は、痛い痛いさんは嫌いです。辛味とは痛みのことで、熱い熱いさんは、正確には痛い痛いさんなのです。だから、京也は痛いのは嫌いです」


 人間の味覚に辛味は存在しない。口内の痛みを辛さと認識しているだけなんだ。

 辛い物好きを自称する奴等は、全てマゾヒストだと捉えて問題ない。

 奴等は自身のマゾ具合を自慢して、男らしさと勘違いしているのだ。

 京也のカレーは甘口さんが大好きです。中辛さんも、もう嫌いです。


『……? 意味不明だったけど、キョウヤが馬鹿な男達の仲間じゃない事には安心したわ』


 新しく開発されたゾンビリビリ。

 その薬効成分はおよそ半日に渡る多幸感と陶酔感、ハレルーヤな効果をもたらす。

 だが、そこはアメリカの男達。ムキムキの肉体に低速ゴム弾を直接受けとめる姿が男らしいと評判だ。

 その後、半日は続くハレルーヤ状態はまったく男らしさを感じないだらしない表情なんだけどね?

 そしてストロングボルテージャー、それは男らしさを更に証明するための新しい注射器だった。


 Z犯罪者用かつ、非致死性弾頭ということで護身用としても広まったこの弾頭なのだが……乱用が酷かった。

 Z犯罪者はもちろん、Z感染者、Zに感染していない一般市民までハレルーヤ。

 アメリカの暗黒面がさらにダークサイドに転がり落ちていった。あの国の闇に終わりは無いのだろうか?


 ミリグラム単位で半日継続するその多幸感と陶酔感を危惧し、内部の薬品のみでの販売は許可が降りなかった。

 結果、アメリカライフル協会がボロ儲けした。

 その勲章として貰った盾を、エリカがショットガンで打ち砕くほどの喜びようだ。


 リチャードさんの見解?

『敵のZを捕らえ、パッチの供給を見返りに奴隷として使役する弾頭か……ジーニアス!!

 キミにはやはり悪魔が付いているよ!! これで人は死なず、消費弾薬は増えるばかりだ!!』

 ――――やはりボクは、この国を滅ぼすべきなんじゃなかろうか?


 エリカの頭を撫でながら考える。

 最近のヴァーチャル技術は大したもので、エリカの頭の形状に沿って金属の細い棒がボクの手の平を押し返すんだ。

 これはこれで触り心地が良いね。昔、お婆ちゃんの家にあった青竹踏みの気持ちよさが今わかったよ。


 ――――違った、考えている事は青竹のことではない。


 エリカは、また、善意で行動を起こした。誰かが、また、悪の花を咲かせた。

 幸せを求めること、そのものを悪だとは思わないけれど、エリカの善意を踏み躙った彼等は許せない。


 現実として、自衛隊に横流ししたアンチゾンビバレット、ゾンビリビリは役に立っている。

 9mmパラベラムを基準にしたため、ベレッタも新しく供給する羽目になるのは誤算だった。

 これでもう、機動隊でなくとも理性を無くしたZ感染者と対等以上に戦えるようになった。

 ただの短銃一丁、ただ一発の弾丸で、殺さずに無力化出来るんだ。


 ゾンビリビリはギリギリのラインだった。

 あるいは、Z研究者の一人として、まだまだ秘匿情報を持っていると勘付かれたかもしれない。

 人間にとってはただのスタンガンだが、Z感染者にとってはスタンガン以上の効力を発揮する。


 皮下注射された薬効成分が脳に回るまでには数十秒の時間を要する。

 だけどZ感染者は数秒で立ち直ってしまう。その為にZくんが嫌いな電子音楽を用意したんだ。

 この弾丸を喰らうと、黒板を爪で引っかく音のようなものが聞こえて、嫌な気分になるそうだ。


 この特異な電気シグナル波長を何処から拾ってきたのか?

 アメリカの国益になる間は見逃してもらえるだろう。見逃さない場合は仕方が無い、全面戦争だ。


 なにせ、Zくん。実は理性化作用のあるパッチを無効果出来るんだからね?

 アメリカ国内で、Z国民と非Z国民に別れて全面戦争に突入になるだろうさ。

 開戦は、Zと非Zの市民がごちゃ混ぜになった状態から開始だよ?

 ――――勝てると良いね? リチャードくん。


 ◆  ◆


 ごめんね、エリカ。ボクも、もうずっと前から悪の花を咲かせる方の生き物なんだ。

 キミが毛嫌いしているライフル協会なんかよりも、ずっと悪意に満ちた計画を用意してるんだ。

 ごめんね、エリカ。優しいキミは、きっと底なしに傷ついてしまうんだろうね――――。


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