・木崎まもり 15歳、絶対――――。
むぅぅ――――。
「どうしたの、まもり? ブサイクな顔がもっと見られなく……目、瞑っても良いかしら?
ちょっとツワリが。吐き気がするの……」
お姉ちゃん!! 私は真面目に話してるの!! どうして京也を連れてこなかったの!?
私が言っても全然、聞かなかったけど、お姉ちゃんなら言うこと聞かせられたでしょ!?
「断られたからよ? 結婚しましょって言ったのに、区役所の人がいないよって。
ほら、私達の住民票は世田谷になるでしょ? だから、届けも世田谷区役所になるじゃない?」
真面目に聞いてっ!!
「――――お姉ちゃん真面目よ?
真面目に申し込んで、真面目にフラレちゃった。……この滑走路は子育てに向かないからだって」
えっ!? えぇぇぇぇぇぇっ!?
ホントに……フラレたの? お姉ちゃんが!? お姉ちゃんラブの京也にっ!?
「京ちゃんのお家でも、フラレちゃった。……このお家は子育てに向かないからって」
――――ねぇ、お姉ちゃん? 実際、京也と何処まで行くつもりだったの?
そういうフシダラなことは厳禁って、お姉ちゃんが言ったんじゃない!!
「京ちゃんよ? 京ちゃんが我慢できなくなっちゃうと困るから~って。
フシダラ厳禁のルールを作ったのよ? 知らなかったの? 教えてないものね」
――――教えてもらってないのに分かるかーっ!!
じゃあ、なんで京也が自分で言わないの? 甲斐性無しだから?
「――――まもり、京ちゃんに迫られて、断れた?」
えっと、その、お気持ちは嬉しいけど……ボディーブローかな?
「じゃあ、出て行けって言われても、断れた?」
――――え、う、あ……やだ。そんな京也はやだ。嫌い。大嫌い。
京也は馬鹿みたいに優しくて、女の子には弱くて、だらしない顔で笑ってるの。
そうじゃなきゃ……嫌だよ。
「京ちゃんだって男の子。一日、一日、男に近づいていったのよ?
それに――――朱音ちゃんを守るために、男の子から男に、無理やり変身しちゃったから」
ズキリと胸が弾んだ。私が言った、言いました。
『京ちゃん!! 助けて!! お願い!!』と……それから一人称がボクから俺に、似合わないなってずっと思ってた。
だらしない犬の笑顔が、なにかを噛み締めた、不敵な作り笑いに……。
「私じゃ駄目だった。……でも、アザミさんが協力してくれるようになって、少しずつ、男の化けの皮が剥がれて男の子に戻っていったのよね。……女として屈辱だわ! あのマザコン男!!」
――――お姉ちゃん、京也のことそう思ってたんだ。
うん、私もそうだと思ってた。なにかあれば、最後は沙也香さんだったもんね。
「そんなアザミさんが頼んでも、一緒に来てくれなかったのよ……。
京ちゃんには京ちゃんの考えがあるんですって、大事な役割があるんですって」
――――私達を放っておいて、どんな考え? どんな役割?
「一度、関係をリセットしたいって。命を握った主従関係を離れて、平和に過ごして欲しいって。
佐渡島でカッコイイ彼氏の一人でも作って、平和な普通の世界で、女の子してきて欲しいって。
京ちゃんは、佐渡島に万が一のことがあったときの為に、あの滑走路を守らなくちゃならないんだって――――」
え? それって?
「私達、みんな、フラレちゃったの。理由は、私達の幸せのためだって。
どうしていつも、その幸せの中に自分を入れようとしないんでしょうね? 京ちゃんは」
フラレた? 私? 知らぬ間に? 後ろ回し蹴りも解禁ね?
ファーストキス返せ!! ファーストおっぱいも返せ!! ついでに色々と返せ!!
「……京ちゃんはね。とってもとっても優しい子。優しすぎる子。昔から、知ってるでしょ?
誰かが笑っている為には、誰かが支えなくちゃいけない。だから京ちゃんは滑走路に残ったの。
でも支える人って、重たいよね? 苦しいよね? そして、下に居るから見えない人よね?」
お姉ちゃん? 泣いてるの? ――――頭、撫で撫でしようか?
「それは、心の京ちゃんにやって貰うから良い。妹如きに慰められて堪るもんですか!」
――――ムカッ!! 如きとは何だ!! 姉如きが!!
「私達の命を握りながら、いつでも下働きの顔をして……今だってそう。現在進行形。
佐渡島には人が多いけど、だからって確実に安全なわけじゃない。何かあるかもしれない。
――――何かあったら戻っておいで、他の人を連れてきても良いからさ。なんて……」
それは京也が言いそうな言葉ね?
他の人かぁ……沙耶ちゃんとか自衛隊のみんなとかかな?
「――――姉として、妹の脳みそには失望しました。
この類人猿に、京ちゃんの心配りは生涯解らないことでしょう」
なんですとー!? 姉と妹、どっちたが上か、今すぐ決めても……お姉ちゃん? 何で銃なんて持ってるの?
へ、へー、テイザーガンって言うんだ? 銃の形のスタンガンで、京也からのプレゼントなんだ?
お姉ちゃんには合気道があるじゃない? だ、だから、大事にしまっておかないとね~?
え? 充電式だから何度でも――――いぎゃああああああああああああああああああああ!!
「ふっ、馬鹿ね。姉より優秀な妹なんて居るはず無いじゃない。
……。
……。
……。
ほ~か~の~ひ~と。解らないの?
この佐渡島で出会った素敵なダーリンでも、その赤ちゃんでも連れてきて良いって言ったのよ?
……馬鹿。大馬鹿。ば~~~~か! ば~~~~~~~~~~~~~~~~~~か!!」
ね、ねぇ、お姉ちゃん、その馬鹿にいま何割くらい私を含めてた?
それから、やっぱり、泣いてるの? 泣いてるんでしょ?
「京ちゃん以外なんてヤダ……。でも、私の財布には葉山先輩の写真が入ってた。それが全て。
京ちゃんが好き。大好き。愛してる。でも、人の心は変わっていくから……。染まっていくから……。
同じ中学校から高校に離れただけで、こんなに浮気性……。滑走路と佐渡島はもっと遠いのに。
――――ヤダな。……京ちゃんのこと、考えなくなっていく、忘れていく自分が嫌だな。
嫌だよ京ちゃん。ずっと傍に居て欲しいのに、意地悪を言わないでよ……。ば~~~~か」
……そんなこと、無いよ? 私、京也のこと、忘れたりしないよ?
絶対だよ!! 絶対に忘れないもん!! 絶対に忘れたりしないもん!!
浮気性なのはお姉ちゃんだけだから!! このアバズ、いぎゃあああああああああああああああ!!
「京ちゃんのこと、好きだったことは忘れないよ? でもね、誰かに上書きされちゃうの。
ずっと、ずっと、傍に居て。京ちゃんの色で塗りつぶしててくれなきゃ駄目なのに……。
私は、いつまで京ちゃんのことを愛していられるのかな? ……京ちゃんの、馬鹿。
愛させ続けさせてくれない意地悪……。でも、私のために滑走路を守るって……。
京ちゃんは、優しすぎるのよ。ば~~~~~~~~~か……」
――――私は、お姉ちゃんと違う!! 朱音ちゃんも、お姉ちゃんとは違うもん!!
ずっと、ずっと、京也のことが好きなままだもん! 絶対だもん! 絶対、なんだもん……。
嫌だ。嫌だよ。京也、京ちゃん、傍に居てくれなきゃやだ……。なんだか私、怖いよ……。
ずっと、好きなままで居させてよ。ずっと、私の隣で……。滑走路なんていらないから!!
――――ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ば~~~~~~か!!




