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少年Z  作者: 髙田田
四月・上
1/123

・祝! 一周年!!

――――なら、君が神様になればいいよ。

「生存記録、三百六十六日目。四月一日、天候は晴れ。記録者名、田辺京也。

 ――――ハッピバースデーゼット。君たちが誕生してから、はや一年だ。

 君たちとの付き合いは長かったような短かったような、忙しい日々の連続だったよ。

 去年は中学三年生だったボクも、今日で高校一年生の俺に……中学の卒業式も、高校入試もしていないのだから、もしかして留年ダブった?

 いやいや、今日からは心の高校一年生だ。心学校では入学式が……入学式っていつだっけ?

 とりあえず、ペカペカの一年生になったからには新しい友達を、百人と贅沢は言わないから一人でも欲しい。

 愛する彼女が出来たならモアベターだ。

 でも、守られてばかりのお姫様よりも、ともに戦ってくれるモヒカン野郎の方が好ましい。

 補足するが、モヒカンの恋人が欲しいわけではない。危険だ、混ぜるな。

 考えてみれば世紀末社会。よくもまあモヒカンなんて手の掛かるファッションを維持出来たものだと思う。

 毎日剃らなきゃいけないだろ? まさかの永久脱毛?

 あるいはあれで結構余力のある社会だったんじゃないかな? なんて思ったりもする。

 筋肉質の逞しい人達ばかりだったし、きっと動物性蛋白源も豊富だったんだろう。

 実に羨ましい世紀末社会である。


 ――――さて、君たちと人類の付き合いも今日で一年目を向かえたことになる。

 だから、付き合い方も一歩前進させたいと思う。もっと親密な関係になろうじゃないか。

 雨にも負けず、風にも負けず、空腹にも、猛暑にも、冬の寒波にも負けなかった君たちだ。

 ちょっと健康優良児過ぎるんじゃないかな? お前はすでに死んでるはずなのに。

 うだるような夏の暑さの中でも、まったく腐る気配を見せない君たちには参った。

 一体、どれだけの防腐剤を体内に溜め込んだのかな?

 凍りつくような冬の寒空のなかでも、まったく凍る気配を見せない君たちには参った。

 一体、どんな不凍液が血液代わりに流れてるんだい?

 自然の猛威も時間の経過も問題の解決に繋がらないと判明した現在、こちらからもアグレッシブに働きかけて行こうと思う。

 自然の猛威も時間の経過も問題の解決に繋がらないと俺が判断したんだ。

 他の生きている人達もそう判断したに違いない。

 一年経てば暑さ寒さで君たちがどうにかなるという希望が断たれた現在。

 やっぱり恐ろしいのは人間さ♪

 おっと、気を悪くしないでくれ。もちろん君たちだって十分以上に恐ろしい。

 幸いと言うべきか、不幸にもと言うべきか、隣の部屋では明け方まで夜更かしをした挙句、イビキをかいて眠れる美女が三人も居るんだよね。

 イビキが目覚ましだなんて、いろいろと台無しだね。

 三人の女の子と一つ屋根の下で同居することになった日には、ドキドキとワクワクで夢一杯だった純粋なボクのピュアハートを返してください。

 乙女の準備をしていない乙女は、ボクの夢見た乙女ではありませんでしたとさ、まる。

 とりあえず、鼻毛は無いわ。


 ――――氷川朱音、彼女の容態が改善されない。

 夜の暗闇を恐れるあまり、たとえ電気をつけていても眠れないようだ。

 どうしても昼夜が逆転した生活にならざるをえず、それに付き合う神奈ねぇと、まもりの二人も、朝方に眠り夕方に目覚める生活サイクルになってしまっている。

 はっきり言って彼女は何の役に立たない。完全に、完璧に、非の打ち所なく足手まといだ。

 食料も資源も人間も、他人の心の平穏すら、全てを無駄に浪費してしまって、こんな事ならいっそ――――。

 ……。

 ……。

 ……。

 性奴隷になれと口に出来る童貞が居るなら見てみたい。

 無理無理、口が裂けても俺には言えないわ。

 俺が相手なら傲岸不遜の朱音のことだ、生涯に渡ってなじってくれることだろう。

 あるいは隙を見て噛み切られるかもしれない。それは恐ろしいから避けておこう。

 まぁ、今日の記録はこんなところだ。

 ハッピバースデーZ。今年度もヨロシクな!」


 田辺京也は録音を止め、ヘッドセットを外した。

 隣室から聞こえるイビキの音に目を閉じて、深呼吸を一つ、二つ、三つ。

 三十を数えるころになってようやく瞼を開く。

 自衛隊が残してくれた少しダブつく迷彩服に着替え、自作のボウガンに矢筒を背負い、サバイバルではないナイフを何本か身に着ける。

 都市迷彩ではない迷彩服は何の迷彩にもなっていないが、ただのお洒落着よりはずっと丈夫だった。

 階下のダイニングキッチンに降りると、すっかり冷めた朝食が用意されていた。

 今日はカレーの日らしい。つまりは匂いがキツイもので……今日も朝から忙しくなりそうだった。

 生涯最後になるかもしれない毎日の朝食を、暖めもせずにガツガツと食べて、体と脳の目を覚ます。

 不味いくらいが丁度いい。美味しいことに慣れてしまうと後が怖い。アレもコレもだ。

 これは京也の自戒だったが、甘いものと美味しいものに目が無い女の子達にはなかなか理解されない戒めだった。

 その証拠として、壁のホワイトボードにはお姫様たちのご要望が書かれていた。

『欲しいものリスト

 田辺京也 :みんなの愛 ←バーカ

 木崎かんな:トリートメント カミソリ

 木崎まもり:女の子用品

 氷川あかね:ハーゲンダッツ クッキーαクリーム』

 深呼吸で一度は収めた苛立ちが再燃した。

 まず、現在アイスクリーム市場は壊滅状態だ。さらに、高級品をご所望ときやがった。味の指定までして、そのうえ&の文字を間違えてやがる。

 ――――一番許せないのはαの字だ。

 ここは甘やかさずに、一度はビシッと決めてやるべきだろう。

 今日の目標はハーゲンダッツ、抹茶味を四つだ。

 抹茶味が嫌いなハーゲンダッツァー朱音の泣き顔を今日こそ拝みたい。

 そう心に決めて、まだ世紀の始めの方だというのに世紀末ムード真っ只中な世界へと、田辺京也は足を踏み出すのであった。

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