表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

間違い探し

作者: アニー

彼女の視線に気づいたのは、雨が降りしきる5月のことだった。

彼女は澄んだ瞳の中に、僕を映し出して一点をみつめていた。最初僕は、恥ずかしくて彼女から逃れるように視線を泳がせた。

彼女の視線に気づいてから1ヶ月が経った頃、僕は彼女ことを知りたくなった。だけどそれは物理的に無理だった。僕と彼女は互いに、違う電車に乗っている。僕は名古屋方面に向かう電車で、彼女は豊橋方面に向かう電車だ。互いの電車は、8.09分になると金山駅のホームに到着して少しの間隣同士で止まるのだ。

その時僕と彼女は、ドアの付近に立っていてそこでたまに見つめ合っている。彼女は、髪が長くていつもスーツを着ていた。就職活動中なのか、それとももう働いているのか、見た目だけじゃわからない。

だから僕は彼女としゃべりたいと思った。触れたいと思った。多分これは好きなんだと思う。彼女も僕のことが好きなんだと思う。

蝉が鳴き始める季節になった。僕はいつも通りあの電車に、乗るために家を出た。蝉の鳴き声が、少し妬ましかった。ホームに着くと、既にあの電車は到着していて扉が開いている。ホームと電車の隙間に、挟まらないように少しだけ注意を払い中に入る。入ってすぐに、違和感に気づく。いつもの電車の中とは、何かが違う気がする。違和感の正体を、確かめるために少しだけ周囲を見渡した。それはは、すぐにわかった。

ポスターだった。ポスターは、扉の真横に額縁に入れられる形で貼ってある。そのポスターの俳優が、変わっているのだ。確か今までは、人気のイケメン俳優だった気がする。しかし、今は「健康診断お早めに!」の謳い文句と一緒におじさんが写っている。自分がいつも立つ方の扉とは、反対に貼ってあるためあまり意識していなかった。

いつ頃変わったのだろう?

違和感の正体を見つけ、少しだけスッキリした気持ちでいつもの扉付近に位置を決めた。

向かい側の電車に、彼女が乗ってくるのが見えた。

彼女はいつもと変わらない、スーツ姿で扉付近に身を寄せた。

彼女と視線が、重なる。しかし彼女は、何かに気づくと視線をを逸らしてしまった。ため息を1つ吐いたようにも見える。僕は突然のことに、困惑を隠せなかった。

え、なんで?なんで僕を見てくれない?なんで視線を逸らした?

心の奥でモヤっとしたものが急に、現れ広がった。理由を知りたい。逸らした理由を。僕のことが好きなのに、なんで逸らしたのか。

とっさに車両から、飛び出して反対側のホームに走り出す。階段を2つ飛ばしで上がって、2つ飛ばしで下がった。しかし僕がホームに降り立ったと同時に、電車の扉は閉まり出発してしまった。ホームには僕と、車両の中にあったのと同じポスターが貼られた柱が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ