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 誤解を招かぬように先に宣言しておこう。

 

 ――俺は死んだ。

 

 深夜の暇つぶしに立ち寄ったコンビにからの帰りだった。青少年の健全育成だかを目標に掲げた法律が施行されるこの時代には珍しく(と言うより怖いもの知らず)、エロ本にフィルムを貼らない俺のサンクチュアリ。

 そんな聖域からの凱旋の途中で、居眠り運転のラックに轢かれてアッサリぽっくりこの世の生に別れを告げた。

 あまりのアッサリっぷりに柄にも無く哲学的なことを考える程度の余裕を持って死後の世界へと向かったハズの俺は、どうしてか、良く分からない行列に並ばされていた。

 俺の前に、後ろに行列を成して並ぶヤツらの頭にご丁寧に頭に付いた天冠がおそらく死後の世界であろうことを無言で物語っている。

 もちろんそれは俺の頭にも。

 寝巻き姿で死んでしまったためか、スウェットに天冠とあまりに馬鹿らしい姿となってしまった事は人生の悔いである。

 周囲の人間はそれぞれがそれぞれ、この状況に納得の行く理由を付けようと各々が各々の神の名を念仏のように唱えたり、よく分からない奇声を発したり、単純に青ざめていたり……反応はまちまちであるが、どいつもこいつもおそらく死んだんだろうなと傍目でも分かりそうな死相が、こう、ぼんやりとオーラのようににじみ出ていた。

 先頭では何かよく分からない白いスーツ姿の男女の集団が、営業スマイル丸出しで先頭の死者へと何か説明のような講義を催している。まるで職業安定所の斡旋のような風体に何処か滑稽な思いを抱きつつ、死者は1人、また1人と奥の扉へと促されてゆく。

 なるほど、ここが審判の場と言うヤツか。

 そう納得も出来る状況に、ぽんと小さく手を打つ。

 なんとも威厳もへったくれもない事務仕事的な審判だ。それでも神様があーだこーだ俺の人生を吟味するよりかは幾分マシというもの。

 採点できるものならしてみるといい。寧ろ願ってもない。

 俺はただただ素直に受け入れよう。

 だが、納得できるだけの数値を示して欲しいものだ。

「次の方、お待たせいたしました~♪」

 すぐ前のハゲたオッサンが奥の扉へと誘導された後、質素な長テーブルを隔ててパイプ椅子に座った白スーツの女性が笑顔で俺を、対面のパイプ椅子へと促した。

 俺は言われるがままに椅子へと腰掛けると、静かに彼女の切り出しを待つ。

「えっと……シノノメ、イヅルさんですね。本日はご愁傷様でした」

 ニコニコと営業スマイルを絶やさずに、その女性はシニョンに纏めた艶やかな金色の頭を下げて出迎える。

 ご愁傷様、とはまたとんだ挨拶だ。もっとも、適当であると言われれば頷くが。

「私、本日シノノメ様の死後のご案内をさせていただくテンシのサキと申します。よろしくお願いしますね」

 サキと名乗るテンシはそう言いながら自らの胸元のネームプレートを俺に見せると俺の返事も待たずに言葉を続けた。

「さて、まずいろいろと聞きたい事があるかと思いますがまずは私の話を聞いてください」

 言いながらサキは傍らの男に「お願いします」と一言掛けると、男は後ろに大量に積まれていた小箱の一つを取り上げ静かに俺の前へと差し出した。

「どうぞ、開けて中を確かめられてください。時計のようなものが入っていると思います」

 箱を開けると、確かに中にはやや小さめの文字盤の代わりに丸い赤いボタンのようなものがついた時計らしきものが丁寧に仕舞いこまれていた。

「そちらの装置を腕に着けてくださいね。説明はそれから申し上げます」

 特に断る理由も無いためその時計のような装置を自らの腕に宛がう。装置は寸分の狂いも無く、俺の腕の太さにぴったりと合って止まった。

 瞬間、ふらりとした眩暈が俺の意識を襲う。それは頭から血の気が抜けるような、貧血に似た感覚。そしてその血の気が熱いくらいに俺の右腕を流れ、時計へと吸われていくような。

 そんな感覚が俺の内部を駆け抜けた。

 不意の感覚に大きく息をする。心の臓は動悸を催し、額からはだらだらと嫌な汗を流す。口の中が日照りのように渇き果て、喉の奥からヒューヒューという微かな空気の通る音が内耳に響き渡った。

「苦しかったでしょう。すみません。これ、説明してからだと誰も付けてくれないんですよ」

 息がある程度整ったのを見計らったタイミングでサキが苦笑交じりに俺の顔を覗き込む。

 まだ視界が多少揺れるが、その言葉を聞き取り理解する程度には気分は収まった。

「何……だよ、これ!」

 悪態を吐くように、俺は初めて言葉を口にした。体調に比べて思ったよりしっかりとした言葉が喉を通り少しびっくりするが、それを顔に出している余裕はまだ無い。

「ええと、今装備されたその時計。名を『アナタの罪をかぞえ~ル君』と申します。文字通り、アナタの罪を数えてくれる便利な道具なんですよ」

 笑顔を絶やさずにそう言う彼女。なんとも馬鹿げたネーミングはこの際おいておいて、つまるところコレは――

「つまるところ、コレは俺の人生を採点してくれるのか?」

「おお、随分物分りの良い方ですね!」

 喜んだように、パンと両の手のひらを合わせるサキ。

「その通り、若干語弊はありますがシノノメ様の人生を採点してくれる便利なチェッカーマシンです。その赤いボタンを押されますと、空中にアナタの罪を採点したポイントが数値として浮かび上がります。今はまだ採点中で何も出てきませんが」

 先ほどの眩暈は採点のための答案回収か?

 そんな思いが頭を過ぎりながらも俺はその『かぞえ~ル君』に目をやる。

 なるほど、俺が思っていたよりも神様ってやつは合理的で効率化を好むヤツみたいだ。判断というものはやはり最終的には機械的な採点に落ち着く。

 神様もその『最終的』に至ったのだとしたら、どこか親近感のようなものも持つものだ。

「さて、大事なものもお渡しした所で今後のシノノメ様の生活についてご説明させて頂きますね」

 サキは1枚のチラシのようなものを取り出して、俺の目の前へと差し出した。

 チラシのトップには大きく目立つ文字で「ようこそレンゴクへ!」と書かれていた。

「シノノメ様にはコレより、レンゴクと呼ばれる街へ行って生活して頂きます。そこにはシノノメ様の住居と一通りの生活必需品をご用意させていただきました。基本は生前と変わりません。朝が来て、お昼が来て、夜が来る。その間にお腹も空けば、喉も渇くし、眠くもなるでしょう。レンゴクでどう生活されるかはシノノメ様の自由です」

「ちょっと待ってくれ」

 思わず口を挟む。

「はい、何でしょう?」

「生前と変わらぬ生活……というのはどういう意味だ?」

「若干語弊はありますが、概ねそのままとお思いください。もちろんシノノメ様の住まれていた町が再現されているわけでも、シノノメ様の住居や環境が再現されているわけでもありません。レンゴクという街に、シノノメ様のお住まいを用意させて頂いただけですね」

「とは言え、金はどうなる。腹が減り、喉が渇くって事はそう言うものを手に入れなければならないわけだろう。見た所、生前の財布も何も持たされてないようだが……ゲームのように初期所持金でも持たされるのか? それとも罪を償って自給自足でもしろと?」

「いえ、街にはお店があれば飲食店だってありますよ。その中で食べ物を買って、飲んで頂いて構いません。お金に関しては今からご説明いたしますね」

 言いながら、サキは自らの腕に『かぞえ~ル君』によく似た装置を取り付ける。違いはと言えばボタンの色が青い事ぐらいであるが、つけた瞬間俺のように眩暈に襲われた様子は無い。

 サキは平然とした顔で俺に向き直ると、その腕のボタンを押してみせる。すると装置の真上の宙に『013972』という数値が浮かび上がった。

「こちらはテンシ用の装置になりますが、『かぞえ~ル君』を起動するとこのようにアナタの罪のポイントが数値化して表示されます。この数値、単位を『ペケ』と言いますが、お店の商品やサービスにも『ペケ』で取引されています」

「罪を消費して商品を得るのか。だと悪人であればあるだけ大金持ちじゃねーか」

「逆です、ペケは加算式なのです。商品を買うたびに、ペケは増えてゆきます。あなた方、罪を償われる途中の方々は人並みの生活すべてが罪となるのですよ」

 この女、笑顔で凄いことを言った気がするがその事務的口調に違和感を覚えることも無くさらりと流される。

「生前のありとあらゆる商品、サービスがレンゴクには揃っております。しかしそれを享受するには罪を重ねる必要があるのです」

 そう言って、サキは一息吐く様に言葉を止めた。俺の理解の返事を待っているかのように、じっと目を見つめて。

「まあ、大体分かった。だがそれなら最高の世界じゃないか。罪が増えるんだかなんだか知らないが、全ての物・サービスがタダで受けられるってわけだろ。まさしく天国だ」

「そうですね。ではここまでお話した上で、でシノノメ様のレンゴクでの目的をご説明させて頂きます」

「目的……?」

「はい。シノノメ様の最終的な目標はペケポイントを0にする事にあります。ポイントを0に出来ればなんと……ぱんぱかぱーん! 再び生前の世界へ生き返ることができるのです!」

 ……何?

「まて、今、何て言った?」

「ですから、ぱんぱかぱーん! 再び生前の世界へ生き返ることができるのです!」

「生き返る、だと?」

「はいはい。だって罪を償いきったご褒美ですから、どどーんと大奮発ですよ!」

 生き返る……だと?

 あの世界に?

「ポイントを減らす方法は2つあります。1つ目は『善行』! レンゴクで善行すれば、『かぞえ~ル君』がポイントとして還元してくれます! 一番着実にポイントを減らす方法ですね!」

 言いながら、サキは指を1本立てて俺の前に示す。

 まあ、至極全うな償いだ。悪いことをした分、良いことをしろと、そう言うことだろう。

「じゃあ、2つ目は何だ? 全うに働けってか?」

「ううん、ちょっと違いますね。ちなみに働く事は1つ目の『善行』に含まれますよ。2つ目はそう――『賭け』です」

「『賭け』……?」

 その罪の償いとは明らかにかけ離れたその言葉に、俺は真顔で聞き返してしまった。

 サキはそんな俺の様子に相変わらずの笑顔で頷き返すと、ぐいと顔を傍に寄せてヒソヒソと囁くように続けた。

「2人以上の人間が集まった際、このルールは確定されます。お互いが同意を得たルールの下で賭けるペケを宣言し、勝負を行うんです。ルールは何でも構いません。じゃんけんでも、カードでも」

「勝つとどうなる?」

「なんと、勝った相手の賭けたペケ数と自分の賭けたペケ数を合わせた分だけ自分のポイントを減少させることができます!」

「……なら、負けると?」

「逆に、相手と自分の賭けたペケ数の分だけ自分のポイントが加算されてしまいます。つまり、相手に自分の罪を擦り付けるってことですね♪」

「一度に、全ポイントを賭ける事はできるのか?」

「ゲームのルール。主に難易度によって、『かぞえ~ル君』が自動的に最大BET数を宣言してくれます。そうですね、そろそろ採点が終わった頃でしょうし試しにやってみましょうか」

 言いながら先はどこからともなくトランプの束を取り出して見せた。

「赤いボタンを押してみてください。アナタの罪をポイントに変換した数が表示されるハズです」

 サキに促され、俺は『かぞえ~ル君』のボタンを押す。淡い輝きと共に、上方にぼんやりと『759324』という数値が現れた。

「意外と多いな」

「自覚、無自覚関係なく、全ての罪を数値化したものです。善行だけでなく、罪だって塵も積もれば山となるのですよ♪」

 言いながら、トランプの中身を俺に広げて見せると慣れた手つきでシャッフルを行う。

「ルールは簡単です。お互いにこの山からカードを1枚選び、より高い目を出した方が勝ち。強さは2を最低としてKまで数字通り。その上に1、そしてジョーカーとしましょう。マークの優劣は無し。同数ならドローです」

「山のシャッフルはお互いだ。片方だけじゃフェアじゃない」

「仰る通りで。では、私がシャッフルした後にシノノメ様が。逆に引くのは私からとしましょう」

「ОKだ」

 そう言葉を交わすと、不意に『かぞえ~ル君』から謎のメロディーと共に音声が流れ始める。

 

【ルールが確定されました。今回BETできるペケはお互いに“500”です】


「お聞きの通り、今回は500ペケまでBETする事ができますがどうしますか?」

「じゃあ500で」

「では、私も500にしますね~」

 言うと、ボタンを押しても居ないのに『かぞえ~ル君』が淡い輝きを放ち、『ペケ』が記されていた数値の代わりに白い文字で『500』という表示が宙を漂った。

「では始めましょう。まずは私がシャッフルします」

 そう言って、サキがトランプをシャッフルする。先ほどと同じ、非常になれた手つき。

 そうしてトントンとカードを整えると、俺のほうへと山を差し出した。

「ではシノノメ様の番です」

 俺は山を受け取ると手早くショットガンでかき混ぜる。その様子をやや感心した様子でサキは眺めていた。

「すごいすごい、お上手ですね」

「生前の特技でな」

 言いながらトランプを混ぜ終わると出来上がった山を裏向きに二人の間へと置き、長テーブルの上を滑らせるようにして一列に並べて見せた。

「では私が先に1枚」

 サキがそのうちの1枚を抜き取り、手元へと伏せておく。緊張感も何も無い、本当に適当に引いただけ、といった風である。

 続いて俺も1枚を抜き取る。実際、こんなもので頭を使っても仕方が無い。山の適当な部分から1枚を抜き取った。

「良いですか? じゃあ、せーのでオープンしますよ」

 

 ――せーの!


 開かれたカードは――サキ、2。俺、1。

 今回のルールの上では1の方がKよりも勝る。よって、俺の勝利だ。

 

【コングラッチュレーション、アナタが勝者です! 報酬、1000ペケを清算いたします!】


 気の抜けたファンファーレと共に『かぞえ~ル君』から勝利のアナウンスが流れる。

 同時に宙に浮いていた白い『500』の文字が青の『1000』へと変わり、同時に現れた俺の『ペケポイント』から1000ペケが引かれて行く。

 浮かぶ数字は『759324』から『758324』へと変わっていた。

「あちゃ~、負けちゃった。その1000ペケはこれからレンゴクで償いの生活を始められるシノノメ様へのセンベツです♪」

 てへ、と下をだして額をこつんと叩いてみせたサキ。彼女のBET数は逆に赤い『1000』へと変わり、『かぞえ~ル君』の数値へと1000ポイントが加算されていた。

 そうか――この程度で、罪は許されてしまうのか。

「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない」

 ふと脳裏を過ぎった感傷を他所に、俺は言葉を続ける。

「大体は分かった。だが、一つだけ解せない点がある」

「はい、何でしょう?」

「このゲーム、負ける事のリスクは何だ? 私生活にしろ、ポイントが増えてゆく事は解った。だが、ポイントが増えた所で何もデメリットが無ければ減らす意味も無い。何か、あるんだろう?」

「目の付けドコロがシャープですね!」

 良いながらビシッと俺のほうを指差して(指すなよ)、サキはよく分からないポーズを取って見せた。

「まず、ペケポイントはその保有数が少なければ少ないほど、あなたの買える物・受けられるサービスの品質が上がってゆきます。つまるところ少ない人ほどお金持ち、と思ってください。そしてご注意頂きたいのがポイントの“カンスト”です」

 そう言って、念を押すように再びずずいと顔を近づけてきた。

「ポイントが“カンスト”……すなわち『999999』を超えてしまった場合、世にも恐ろしい結果がシノノメ様の身に訪れます。それは人間達の語る地獄よりもなお恐ろしい、真の地獄を味わうこととなるでしょう」

 そう、今までとはうって変わって神妙めいたその言動に、俺も思わず生唾を飲み込む。

「普通に全うに善行を行っている分には、そうそうカンストはしないのでご心配なく。償いは一つの善行から! 塵も積もれば山となる、ですよ!」

 言い聞かせるように反復して語るサキを前に俺は妙に冷め切った脳みそで、今ようやくこの状況に感してを理解しようと思考していた。

 思えばなんとも馬鹿らしい、本当に馬鹿らしい。

死んだ後の世界に、もう一度生活して罪を償えと。

そんな事をして何になるのか。神様とやらの慈悲か、蜘蛛の糸か。

ただこの状況は紛れも無くおれ自身にとっては『現実』であり、おそらくこの後に続くこともすべて『現実』なのであろう。

だから俺は考えることを止めた。

シノノメ・イヅルはこのレンゴクに再び生を受けたのだ。

生き返るための償いの生を。

「生き返る……か」

 不意に、どうしようもなく笑みが零れた。何故笑みなのか、それはおれ自身にも分からない。それこそ柄にもなく嬉しさでも感じていたのだろうか。

「それではシノノメ様。あちらの扉へとお進み下さい。その先はレンゴクに於ける、シノノメ様のお部屋へと続いていります。そこからシノノメ様の償いの日々が始まるのです。どうぞ、献身にその責務を全うしてください」

 そうしてサキは恭しく一礼すると、その手で奥の扉を指し示す。

 俺はそんな彼女に何も言葉を掛ける事無く、その横を通り過ぎ扉へと向かおうとした。

 が、そのすれ違い様に声を掛けてきたのはサキの方であった。

「きっとこの先は、アナタにとってとても住み心地の良い世界……でも、この世界に溺れないでね」

 そう耳元で呟かれ、俺は咄嗟に彼女の方を向き直る。

 が、彼女は相変わらずの営業スマイルで俺を扉の方へと促すだけであった。

 この女、一体何を言っている?

 えも言われぬ感覚がゾクリと背筋を伝う。が、それ以上彼女が口を開くことは無かった。

 しぶしぶ俺は扉を目指す。

 白く、巨大な天の扉。この先に待ち受けるのは地獄なのか天国なのか。

 そんな事は、正直どうでも良かった。

 そもそも、こうしてここに俺の意識が存在する事自体、俺の人生の想定からは大きく外れている。

 そうであるならば、無理に頭で考えるよりもまずは適応せよ。

 それが俺の、生きる上での教訓であったから。

 小さく息を整えると、俺はレンゴクへの扉をその手で押し開いた――



「大変ですね、わざと負けるというのも」

 シノノメ・イヅルが扉をくぐった後、サキの傍に控えていた男がポツリとそう漏らした。

「そうでもないよ~? お仕事だしね。それに、センベツがあった方が嬉しいじゃない?」

 良いながら、サキは出しっぱなしのトランプを整えるとイヅルがそうしていたように慣れた手つきでショットガンシャッフルを行って見せる。

「それに彼、勝ちに来てたもの。狙ったようにエースを引いてた」

「え……?」

「だから、私がジョーカーさえ引かなければそもそも勝つことは無かったかもね。う~ん、また会う機会ないかなぁ。今度はちゃんと勝負したいなぁ」

 笑顔で言う彼女の言葉を男は理解仕切れて居ない様子であっけに取られているが、そんな彼を尻目にサキは手を上げて大きく声を張り上げた。

「次の方、お待たせいたしました~♪」

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