8匹目 ところ変わって
ブーーーーン。
初フライトだろうに、私という重りを抱えて飛び続けている翅の勢いは少しも衰える気配なく、絶好調のようです。
あの岩山地帯からようやく抜け出し、土の色が赤みの強いものから茶色に移り変わって、景色にぽつぽつと緑が混じりだしていた。
おやおやおや?これは…もしかして、もしかしなくても、期待していいんではないでしょうか、みのさん。
テンションはうなぎ登りで、わくわくさせながら先を見つめていると、青々とした森がぶわっと広がっているのが見えるではありませぬか。ひゃっほーーーい!
嬉しくて、だらしなく頬が緩むわ緩むわ。れはきっと、私の強い思いにランドキングビーさんが気付いてくれたのね。素敵すぎる。以心伝心、以心伝心。
────ということで、やってまいりましたよ。
舞台は荒野から一転、願い叶って、瑞々しい樹木の豊かな森林へと移ったのであります。
うおおおおおーーーっ!食料あるかな?あるのかな?あったらいいな!水浴びもしたいよ!
■
目的のものが見つかったのか、森に少し入ったところでランドキングビーさんが急降下する。
ガサガサと葉に包まれながら降りるそこは、赤紫色の丸々した果実が枝を撓ませる、セコイヤ?と訊ねたくなるくらい大きな大木のところだった。
緩やかな速度で垂直に降りながら、ランドキングビーさんは鎌で果実を枝ごとギリギリのところまで切り裂き、後は重力でぽろりと落ちてきたものを私が腕を伸ばしてナイスキャッチ。
はて、コレが食べたかったんだろうか。
どんなものだろうと鼻を近づけ、すんすんと果実を嗅いでみると桃みたいな甘い匂いがした。でも、まだ熟れていないのか、クルミのような固さをしている。美味しそうだけど、私は食べられそうにないなぁ。残念。
ランドキングビーさんが陸に降り立つ。腕から降ろされた私は、果実の付いた枝を持ち上げた。
「ランドキングビーさん、コレ食べるの?」
「グルルルル」
言われた通り、へたをプチッと千切った実をランドキングビーさんの口元へ。はい、あーん。なんちって。
大顎が開かれたので口器に放り込むと、ガリガリと噛まれていく音が聞こえて、ボロボロと崩れるように皮が落ちていく。うおー、顎の力までお強いとは…。畏れ入りやした。
「グル」
手を出せ?
両手を並べて前に出すと、手のひらの上に、コロンと白くて丸いものがランドキングビーさんの口器から落とされた。
…はうっ、サーモンピンク色の柔らかな皮に早変わり!こんな赤ちゃん皮が中に隠されていたとは。食べたいなぁ。食べてもいいのかなぁ、この実。
じっと実を熱く見つめていたら、ランドキングビーさんの鉤爪に実を取られた。…トホホ、やっぱり。かと思ったら置かれた。あれっ?いいの?わーい!かと思ったら…。
取られて、置かれて、取られて、置かれて、取られて、置かれて、取られて、置かれて、取られて、置かれて、取られて、置かれて……。
えっ、ちょ、ちょっと、ちょっとォ!さすがに私でも気付きますよ!なーーに私で遊んじゃってるんですか!
でもランドキングビーさんに悪ふざけの気は感じられず、複眼は冷静に私の観察を続けているので、自然と怒る気も萎えてしまう。ううっ、このやり場のない感情はどうしたらよいのやら。
「グルル、グル」
へ?さっきの真似をしろ、と。
…さっき????
ランドキングビーさんの言うさっきの真似って、何の真似のことなんだろうか…。