7匹目 空中飛行!+オマケ
ランドキングビーさんは想像していたより、だいぶコンパクトな身体に変態を遂げていたのだった。だって幼体や繭がアレだけビッグだったらさ、そりゃ成体もそのくらいのサイズになると思うじゃないの。それって普通だよね?
身長は私の頭二つ三つ分大きいくらい。私が156センチだから、えーっと、2メートルあるかないかくらいの高さになるのかな。王冠は抜いておいて。
…………それにしてもランドキングビーさんは、何故繭から出て来られたんだろう。余計なエネルギーがどうのこうの言って、かなり腰が重そうだったのに。どういう心境の変化か。
小さな六角形が敷き詰められた眼は無機物的で、何もたたえず、何も語ることなく、鏡のように私の顔を映している。
────“これ”はモンスター(怪物)なんだぞと、本当に今更ながら、誰かが囁いた。
何を考えているのか全く読めなくて、どうしたらいいのか、分からなくなってくる。文明社会で生きてきたなかでは、無かった経験だ。
蛇(強者)に睨まれた蛙(弱者)。今、まさしくそれを体験しているのだろう。
静かに燃え上がる覇気と、暴力的なまでの強さの差を前に、圧倒されている。
ただ見つめ返すことしか出来なくて、間に沈黙が流れる。ここにひとつの絵があるように、両方が両方とも、動かなかった。
先に破ったのはランドキングビーさんの方だった。頭の触角をピクリと揺らして、ゆっくりと身を屈めると、私の目の前で片膝をついた。
よく観察でもするためか、頭部が近づいてきたから、ビクッと肩が跳ね上がった。
「グルッ」
行くぞ…って、え?ドコへでしょうか。
あれ、逝くの方でしたか?冥土deathか、それとも地獄deathか。
「え、ちょっ、わわっ!」
それを問う間も与えられず、鎌の付いていない真ん中の二本に腕を取られ、グイっと身体を引き起こされ。そのまま子供でも抱えるように抱っこされた。
ひぃーー!背中にあるほうの鉤爪がパジャマ越しに刺さってるって!痛い!イタタタタ!
身体を肢体に預けると深く刺さって痛いので、ランドキングビーさんの細腰にコアラのように抱き付いた。
ううっ、痛いよ!もう!乙女の柔肌に何すんのよ馬鹿!声に出すのはさすがに怖かったので苦渋の表情で訴えるもガン無視され、ランドキングビーさんは筋の透けた透明の翅を細かく振動させた。
ブーーーーン。
……………この音、やっぱり蜂さんなんですねぇ。
■
「うわーーーーーっ!すごいすごいすごい!綺麗!スッゴい綺麗だよ、ランドキングビーさん!ほら、ほら見て見てあそこ!あんなに岩がちっせぇー!あはははは!楽しー!」
「グルル」
「うん、楽しいよ!」
切り立った岩山の連なりの全景は、それは凄まじいものだった。
褐色ひとつにも陰影の濃淡があり、硬質そうな岩に幻想的な曲線が描かれていたり、同じ形をしてなくて、見るに飽きない。そして、とにかくスケールが大きい。その広大な面積は、すべてを飲み込んでしまいそうなエネルギーを感じさせる。コスモがそこには広がっていたのだった。
大地は母なり。偉大なり。自然が作りだした芸術が、いま私の下にある。
雄大な赤土の大地を上から見晴すことの、なんと気分のいいことか!フハハハハ!蝋人形にしてやろうか!(?)
かなり高度があるけれど、絶景だし、確り抱かれているので怖くない。うむ。 ランドの旦那が日除けになってくれているおかげで日差しに焼かれることなく、風を隈無く浴びられるから快適です。うむ。
なんという贅沢をしてるんだろう、私は!
よくも悪くも現金な性格である私は、ランドキングビーさんの目的が何なのか聞くことも、鉤爪の痛みさえも綺麗サッパリと忘れ、空中飛行をキャイキャイはしゃいで楽しんだのだった。
《オマケ》
花子の脳内モンスターナンバー001
【ランドキングビー】
インセクター系。希少種で、大陸に五体と居ないらしい。幼体はクリーム色をした芋虫、成体は王冠のついたスズメバチ。スピードはモンスター内でもトップクラスに入る。鋭い鎌状の腕や毒針、糸などで攻撃する(と思われる)。
花子の脳内モンスターナンバー002
【ロックアント】
名前からしてたぶんインセクター系。そしてアリさん。焦げ茶色をしているらしい。岩場に住み、危機を感じると死んだ振りをする習性がある。
花子の脳内モンスターナンバー003
【サースティブレイド】
プラント系。見た目はただの枯草。下の根っこは太くて短いゴボウ。根の方が本体らしく、ゴマのように小さな目が可愛い。