6匹目 ランド・キング・ビー
繭から降ろしてくれた代わりに、私の腰には糸が巻き付けられた。ハーネスを付けられた犬の気持ちが分かる気がするぜ。ワンワン、わふわふっ。………ふぅ。
──さて、どうしたもんかな。
生きていくため、帰るための何か手掛かりとなるものを見つけていくための協力者となるモンスターが欲しい。
第一候補は厚かましくも、目の前のランドキングビーさんだ。一番身近にいるモンスターで言葉も通じているし、餌として私を認識していない。それに強さも申し分ないと思われ、気に入られている限り身の危険はなさそうだ。
他はどうだろうかと、周りを見渡すと、ただの枯れ草だとさっきまで思っていたものが目に留まった。よく見れば、ちょいちょい動いているではありませぬか。
ふっふっふ。よーし、モンスターはっけーーん。引き抜いて、土を振り落としてみる。えーっと、確か、プラント系になるのかな。 キーキー鳴きながら、ゴマみたいに小さい目のついた太い根っこが私の手の中で痛そうにじたばた藻掻く。円らな瞳が潤んで、私を見つめる。うわーーー!なんかゴメンなさい!ゴメンね!葉っぱ持ったら痛いよね!?慌てて元の場所に戻し、優しく、優しく土を被せた。
「グルルル」
なるほど、この子は「サースティブレイド」というモンスターなんですね。可愛い見た目に反してカッコいい名前だな………って、あれ?
いま、この子の声はただの鳴き声だったのに、なんでランドキングビーさんの声は言葉として分かるんだろうか。
……???????
ぐりゅりゅりゅごごごごごーー。
うおっ、腹からスゴい音が出た。そういえば口にしたのは水だけで、固形物を食べてないなぁ。お腹すいた…。
口に出してしまっていたようで、ランドキングビーさんの糸が地面に突き刺さって、例の褐色の水をすすめてきた。うーん、生きるために貰うけども。私でも食べられそうな固形物ってないのでしょうか。
……荒野にはなさそうだなぁ。森とかだったなら、なんかありそうなのに。
うーん、弱った。私に発言権は認められているようだけど、主権はないのだよ主権は。ランドキングビーさんのお心次第なのだよ…。
下手におねだりして機嫌を損ねさせてしまったら怖いんだよね。気紛れに分けて貰っている水で生きている状況だし、今ここで見放されると正直、私の身は絶望的だ。
ここは我慢しかないか…。まぁ人間、食べ物が無くても水があれば一月は生きていけるってよく聞くし、むしろ食べ物でなく水がある今の状況に感謝しなくちゃいけないんだよね。
───あああああ!そういえば、まだちゃんとランドキングビーさんにお礼を言ってなかった!
日本人たるもの、挨拶感謝は常日頃から心掛けねばならんというに!何たる失態か!
こくり、と最後に水を飲み込んで、私はランドキングビーさんに笑顔を向けた。
「お水ありがとう、ランドキングビーさん!本当にありがとう!」
ドギャシャャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
…………………え?
何かが破裂するような凄まじい音がしたかと思うと、一瞬の内に土埃があたり一面に広がり、何も見えなくなった。
ゲホッ、ゴホッ。ななななな、なな、なんだなんだ何なんだこりゃ一体!何が起きた!!
慌てながら、赤ちゃんのはいはいで現在の状況確認を………ん?なんか足らしきものが目前にある。
とりあえず触ってみる。真っ黒でカチンコチンに固く、節榑立ってて、ギザギザしている。鍋で食べたタラバガニを思い出した。
「グルル」
フルネームで名前を呼ばれた。山田花子、それは私の名前である。
ゆっくり目線を上げていく。
鋭い針を先端に、黄と黒が交差する腹部。黒曜石のように硬そうで艶やかな胸部には、さらに四肢が付く。四肢の上二つは鋭利な鎌状になっており、殺傷能力が高そうで。大きく広げられた翅は厚いのに透き通ってて、そして明らかになる全貌──。
蜂だった。
スズメバチ。人間サイズのスズメバチ。その頂には、豪奢で繊細な造りをした金の王冠が眩しい程に光り輝く。
………ランド(陸)、キング(王)、ビー(蜂)とな。
ランドキングビーさんの名前を、この時になって私はようやく理解したのだった。