5匹目 わかったこと
懐柔という名のおしゃべりを、私は芋虫様と続けていった。
内容は自己紹介や他愛ない話、ここについて等、色々だ。そして得た情報がかなりある。
まず、私と出会った芋虫様視点を説明しよう。
私は、芋虫様がいつも餌にしている「ロックアント」というものに間違えられていた。ロックアントとはこの岩場地域に住み、頭・胸・腹の間がくびれた六本足の焦げ茶色の生物で、芋虫様の大好物なのだ。やはり肉食なのですね。
芋虫様はサナギになるまで地中に潜り住んでいるため、目が悪く、パジャマの黒地と黒髪で、全体的に黒く見えたため間違えてしまっていたらしい。
その違いに気付いたのは逃げる私の声と動きで、ロックアント(いつも)と違う、こりゃ見たことない生物だと。ロックアントは危機を感じると直ぐ死んだフリをしてくれる、ちょっと間抜けでありがたい種族らしい。鳴き声は「ギャア!」…悲鳴だよ。
珍しいし、とりあえず捕まえて玩具にして遊んでみるかと興味本位で追いかけ続けるが、なかなかどうして捕まらない。始めは楽しかったがやがてそれにも飽き、仕方なく害のない粘液を使い(普段の狩りでは岩をも溶かす毒を使っているようです)、足を止めさせる。そんなつもりはなかったが転んで怪我をさせたようなので、血を舐めて治してやっていたら、意外に美味いことが判明した。美味いが普段の餌と違うから食いたくはないなと悶々していたら、こんな時にやってきてしまいましたとさ、待ちに待ったサナギ化(進化)が。
別に私を食べる気は芋虫様にないらしく(定められた餌で無ければ生理的にダメらしい)、オモチャを見つけたような心境であることが知れて、心底ホッとした。
ふー、やれやれ。それならそうと早く言ってくれればよかったのにね。ヨダレの量=食欲だとばかり思ってたからさ。
他にもまだあった。芋虫様は「ランドキングビー」という大陸に五体と居ない希少種のモンスターらしい。インセクター系では最強種で、知性もあり、完全体ともなれば数あるモンスターの中でもトップクラスのスピードを誇るのだなどとと、自慢げに話された。ついでにオスだそうで。
……インセクター(昆虫)系?何じゃそりゃ、と首をかしげる私に、芋虫様改めランドキングビーさんは機嫌を損ねることなく、丁寧に教えてくれた。
インセクター(昆虫)の他にもドラゴン(竜・龍)、フィッシュ(魚)、プラント(植物)、ビースト(獣)の5つの系統に別れるモンスターがこの大陸にいるのだそう。
インセクターに特徴される固い外殻や六足や粘液を操る訳でもなし、ドラゴンやビーストのような鋭い牙や爪も持たず、フィッシュにしては陸地に平気だし、プラントのように栄養分を自給自足するわけでもない、私みたいなタイプ(ヒト)は見たことがないと。
聞きなれない単語の数々や状況に、いよいよ受け入れざるを得なくなってきた。
───ここは、アメリカでもどこでもない。私の知っている世界と常識も次元も違う場所であることを。
■
呆然だ。ここに来た経緯も分からないし、モンスターばっかのこの大陸でどうやって協力者を見つけて帰りゃいいんだか、見当もつかないんだから。
呆けていると、思い出したかのように股ぐらがむずむず疼いてきた。
…………こんな時でも整理現象は止められないらしいね。シリアスとは縁がなさそうで嬉しいやら、悲しいやら。
ちなみに、まだ繭に縛りつけられたままです。
「あのー…これ解いてくれないですかね」
「グルル」
うーん、何故ときますか。乙女に排泄だなんて言わせるつもりですかね、ランドの旦那。いや、言うけども。
「おしっこです、排泄です」
「グルル」
「そりゃ私だってするよ。生きてるんだし」
「グルルルル」
「えっ。ここでなんて無茶言わないでよ。無理だよ、恥ずかしすぎるって」
「グルル」
「そんな、許されても!〜〜〜っ逃げたりしないからお願いします、解いてくださいー!漏れる漏れる漏れるって!」
「グ」
「ぎゃあああああ!!なんで糸がパンツにっ、ちょっ、待っ、やだやだやだやだ!乙女に何をするつもりだコンチクショーーっ!」
「グルッ」
「『補助』じゃねぇぇぇええ!!!」
■
ええ、ええ。ランドキングビーさんに私の羞恥心は伝わりませんでしょうし、理解できないでしょうとも。ええ。いくら言葉が交わせたって人とモンスターですもんね。相互理解は難しいでしょう。
えー………結果と、してですね。排泄は、できました、けども。多くは語らまい。皆様のご想像にお任せします。もう忘れたいし、次が怖い。
これが食料としての運命から免れた、代償なのか…。




