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3匹目 あれ…?

「ひーーっ!やめ、やめてー!ゾワゾワするぅぅぅ!」



 チュバチュバチュバチュバチュバ…。

 と、鳥肌が止まんないよぉ!大事な何かが削られているような気がしてならない。いや、それより細菌感染とか寄生虫とか大丈夫なのこれ。なんか凄いパジャマの下がベタベタしてるんだけど、手遅れなのか。…というかいつまで続くんだろうか、これ。誰か早く何とかしてくれ!

 チュバチュバチュバチュバチュバチュッ。

 漸く続いていたなぶり舌がピタリと止まり、離れた。や、やっと食う気になられましたか、旦那。

 ビクビクしながら強く目蓋を閉ざして、その瞬間を待つ。待つ。ひたすら待つ。────長い。

 なんだどうしたトイレかと目を開ければ、足元にビル五階分はありそうな超巨大な白い繭が構えていた。おやまあ、白い繭とな。……あれ?芋虫様どこ行った?

 キョロキョロと辺りを見渡しても居ないし、土を掘ったような形跡もない。もしかして、もしかしなくても、この繭なんでしょうか。大きさが相当というか、ミルキーな色も…いや、もう、これだろ。これしか無いでしょ。



「………はっ!コレは逃げるチャンス!」



 繭=動けない。変態中って一度ドロドロに身体が溶けるんだっけか。

 すぐさま起き上がり、繭に背を向け、ダッシュし……あれ?足が踏み出せな……何じゃごらあああああああ!!?糸ぉお!!?

 いつの間にやられたのか、両足首を覆い隠すように糸が巻かれている。長大で、柔らかいのに信じられないくらい強硬だ。その出どころはやはりというか、繭だった。



「ふぬぬぬぬーーーっ!!」



 奥歯を噛みしめ、全力で一歩を出そうとしているけど。ダメだ、全然先へ進めないし千切れない。

 変態中も尚逃がさぬと言うのか貴様は。チュバチュバは味見だった訳なのか。私を変態後の食料にするつもりなのか…。変態ってエネルギー使いそうだもんなぁ…。知能高そうだなぁ、この芋虫…。


 日は傾いて、おやつの三時といったところか。1日で一番暑い時間帯じゃないの。体力はとうに限界。今立っているだけで、筋肉がピクピク震えている。喉が渇いた。汗臭い。途方に暮れた私は、大人しくその場に座り込み、恐らくとんでもない姿になるであろう、芋虫変態後のクリーチャーを想像した。

 ウルト〇マンに退治されそうな怪獣しか想像できない。出来ればファンシーで可愛い、てふてふになって欲しい。







 ぐりゅりゅりゅ。う〜ん、腹の虫がおさまらないよ。お腹と背中が、くっつきそうです。喉も渇きすぎて、だんだん意識が朦朧としてきた。ヤバいなぁ。



「お腹すいた…のど渇いた…」



 …そして寒い。汗で冷えたのもあるだろうけど、やっぱり日が暮れて、この周囲の気温が急に冷えたことが大きい。こりゃ食われる前に死ぬな、私。

 もぞもぞと足に巻き付いていた糸が解かれた。逃げられないだろうとでも判断したのかね。全くそのとおりだよ。

 地面に横たえ、丸くなっていた身体を糸で引き起こされる。…便利な糸ですね。どうやって動かしてるんだろう、それ。

 一方で地面へ伸びたいくつもの糸がぐさっと土の中に突き刺さり、奥へ進んでいく。そしてあっという間に、何かを滴らせながら私の口元に近づいてきた。滴っているもの。鉄分がかなり多そうな赤褐色をした、それは水の様だった。

 ───…背に腹は変えられまいて。

 ほら飲め飲め、と言わんばかりに目の前で揺らされる糸を、思い切ってパクッと口に含んだ。

 不思議と味に鉄臭さはなくて、少し(しょ)っぱくて、甘い水だった。

 美味しい、美味しい。

 ちゅーちゅー吸い上げ、次々と差し出される水を体の中に吸収する。飢えていた私は、もう夢中だった。

 どんなに頭で死ぬと諦めていても、身体は生きたがっていたようだ。それがなんだか無様で情けなくて、命を簡単に諦めたりして親に申し訳なくて、淋しくて、色んなものが内混ぜになり、涙が出てく……………………るのを押さえるため般若の顔を作る。

 うおおおおおおお!折角の水分を無駄にしてたまるか!二度と前の轍は踏まぬ!踏まぬぞおおおお!



 ───やることは限られている。考えなくては、生き延びる方法を。そして、家に帰る方法を見つけなくては。

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